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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第8章 ~魔道四天門編~
147/203

142.孫弟子 **

 白熱した模擬戦の続く、魔道四天門。三日目の日程ではナミアス=オペロットとドニー=マファドニアスの激戦を繰り広げられたが、それ以降も引き続き高次元な魔法戦闘が展開された。

 四日目。ロコ=チェニアとイグ=ネクディース。互いに強化魔法を会得した女魔導師同士の戦いは、激しい肉弾戦の末にロコがイグを下す。

 五日目。イグ=ネクディースとナミアス=オペロット。互いの魔法弾が乱れ飛び交う中、音魔法を掻い潜り近接戦へ持ち込んだイグが、ナミアスを下した。




 そして日程は最終日に至る。戦場に立ったのは、ドニー=マファドニアスとロコ=チェニア。肌寒くも快晴の空の下、二人の魔導師は向き合った。

 ドニーはそれとなく呟く。

 「……よろしくちゃん」

ロコもまた何気なく返答した。

 「ええ。どうぞよろしく」

二人の会話は、酷く淡泊な言葉で潰える。




 「――とうとう最終日ですかぁ」

玲奈はテーブルに突っ伏して呟く。横に座るダイトはそれへ応じた。

 「ドニーさん……ほんとにここまで無敗で来ちゃいましたね」

向かいに腰掛けるヴァレンもまた、ドニーの実力にうろたえる。

 「私だって同じフェイバルさんの弟子なのに、なんか超遠い存在に見えちゃうわぁ」

一方でトファイルは、ドニーに立ちはだかる者の強大さを示唆した。

 「でもロコ君は、ナミアス君の音魔法で不意を突かれての一敗。魔法戦闘ってのは競技のように語るものでもないけど、いわば貧乏くじを引いただけだ。彼女にはまだ、手札があるはず」

玲奈は先の戦闘を思い返す。

 「……ええと確か、変化魔法。空気やら土やらを、自由に硬質化できる魔法……ですよね」

 「そうだね。彼女が我々に見せたものは」

 「なら……まだ他に見せていないものがあると?」

トファイルは少し間を開けると、以前少しだけ言及した人物の話題へと触れ始める。

 「……プラヌ=コズミリア。前に途中まで話したけど、私の知る最強の魔導師だよ。彼女の魔法は、念魔法と変化魔法。それに炸裂魔法。私には同じ変化魔法をあれだけ使いこなすロコ君が、プラヌ=コズミリアの後継者に思えてしまうんだ」

 「プラヌ=コズミリア……」

 「ああ、もっと大切なこと説明してなかった。彼女はね、フェイバルの師匠だよ」

その発言には、ダイトとヴァレンも食い付いた。どうやら二人も初耳だったらしい。

 「――え!? フェイバルさんの師匠ですか!?」

 「――フェイバルさんって、マスターの弟子じゃなかったの!?」

 「違う違う。私の元弟子は、ツィーニア君だからね」

そしてトファイルは話を眼前の光景に戻す。

 「まあ、そんな話はまた今度だ。見届けようではないか。師匠の後継者と、その孫弟子の手合わせをね」




 そして空砲が空を穿つ。魔道四天門の最終楽章が開幕した。

 初動を飾るのは、ドニー=マファドニアス。敵が強化魔法を持つ以上、後手に回ることは危険という判断であった。

 対照的にロコはただ立ち尽くす。魔法杖を手に、じっとドニーの動向を観察した。

 ある程度の距離が縮まったところで、ドニーは泥魔法・触手(テンタクル)を展開する。拳よりも重く長い触手で中距離戦を制する、これこそ男の描いた理想であった。

 しかしドニーは、突然としてその場で体勢を崩す。平坦な裏庭で、足元を掬われるような失態など犯すはずも無かった。それでも事実、彼の体勢は大きく揺らぐ。

 ドニーはすかさず体勢を持ち直したが、もうそこには強化魔法を纏ったロコの拳が迫っていた。男は防御魔法陣を展開するも、いまだ体勢が完全とは言えない最中(さなか)での魔法陣は、すぐに打ち破られる。

 依然として、ロコの拳は伸びる。そしてその一撃は、早くもドニーの腹を捉えた。




 模擬戦を俯瞰する玲奈は、ドニーの転倒の理由に察しが付く。

 「……もしかして、あの杖ですか?」

彼女が視線を向けたのは、ロコの握る魔法杖。杖を介した魔法が、地面へ何らかの作用をもたらしら、という推察だった。

 そしてトファイルも玲奈へ同意する。

 「だろうね。そもそも魔法杖というのは、殴打するための武器じゃない。遠隔魔法陣を補助するものだ」

ドニーが体勢を崩す一部始終を視認出来ていたのは、ダイトであった。

 「ほんの一瞬ですけど、ドニーさんの足元だけが急に沈み込んだように見えました。つまるところ、正体はドニーさんの足元だけを対象にした変化魔法。そこだけを柔らかい地面に変化させ、ドニーさんが勝手に体勢を崩す環境を作り出した」




 ドニーは急遽、泥魔法・潜伏(ダイヴ)で地中へと退避する。そこで彼もまた、己の転倒の理由を悟った。

 遠隔魔法陣を駆使した変化魔法による制圧術。また敵に進行方向を先読みされてしまえば、きっと同じ手に陥るだろう。そこでドニーが選んだ術こそ、潜伏(ダイヴ)を用いた地中からの接近。彼は勢いよく切り返すと、ロコの足元を目指して急浮上する。

 その最中(さなか)だった。切り返した直後、潜伏(ダイヴ)だからこそ発揮出来る敏捷性が、突如として消え失せる。あまりに突然の出来事で、知覚するのが遅れた。男の独壇場であった地中は、もう言葉の通り地中などではない。束の間にして地面は大きくドーム状に抉られ、ドニーはそのクレーターの中心に立ち尽くしていた。

 「……冗談じゃねぇ」

 ドニーは事の顛末(てんまつ)を理解した。それは単純な理屈でありながら、同時に理解し難い。変化魔法はドニーの居た地中に作用し、そこ一帯の土壌を気体へと変換させてしまったのだ。

 その間ロコは、既にドニーの頭上を取っていた。魔法杖を振り上げ、ドニーの脳天を目がけてそれを突き落とす。彼は間一髪のところで側方へと回避した。

 ドニーは驚嘆を隠して呟く。

 「おいおい、裏庭にこんな大穴開けちまって……直せんのか? マスターに怒られるぜ?」

 「あなたの潜伏(ダイヴ)だって大概でしょう」

No.142 魔法陣展開術


魔法戦闘において優位に立つべく体系化された、魔法陣の展開にまつわる諸技術の総称。具体例としては、速攻魔法陣、遠隔魔法陣、無動作魔法陣、重複魔法陣が挙げられる。

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