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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
136/203

131.名前 **

 ギノバスの集団墓地に並ぶある墓石には、四つの名前が一まとめに刻まれた。それは一夜にして惨殺された、とある魔導師パーティの構成員たち。寂れた借家に残された死体は三つだけだったが、残るもう一名もさらわれた後に殺害されたものと推測された。

 「……ティタ=ミトゥリス」

 その墓を訪ねたのは刃天・ツィーニア=エクスグニル。夜の墓場は当然ながら人気(ひとけ)が無く、その一帯には彼女の声だけが響いた。

 「あんたが名前を知りたがった男は、名も明かされずに殺されたわ」

 「……にしても横柄なものね。自らが殺した者と同じ墓に名を刻まれるなんて。あんたに騙された魔導師がいたたまれない」

ツィーニアは懐の短剣を抜いた。短剣は魔力を帯びると、ある一点へ躊躇いなく振り下ろされる。

 硬い物の擦れ合う嫌な音が夜の墓地に鳴った。その剣が刈り取ったものは、墓石に刻まれた一列の文字。ティカ=ミトゥリス。文字は潰れ、その墓に眠る者は三人になった。

 「あんたはもっと、違うところで寝るべき」

 例え敵として対峙しようとも、せめて本当の名で本来の眠るべき場所へ。知りたがった男の名を届けられなかったことに対する、申し訳程度の恩情だった。




 「……ここは……どこだろうか?」

 名も無き男が目を覚ましたとき、そこには不思議と先に散った同志たちの顔が連なった。そして辺り一面の非現実的な光景から、自身もまた命を落としたことを悟る。

 想起されたのは、色褪せた灰色の髪を垂らす老紳士。

 「……パルケード=コミュレイト。鉄魔法を行使する……第四天導師。魔導師作家という清き道を歩みながらも、王都に溢れる孤児に心を痛め……そして僕と出会った」

 想起されたのは、金髪の肥えた狂気的な男。

 「……ジェーマ=チューヘル。砂魔法を扱う第三天導師。貧困に夢を奪われた過去から平等を願い……そして僕と出会った」

 想起されたのは、痣だらけの顔を隠すために包帯を纏う歪んだ笑顔の男。

 「……フィロル=バンドリアテ。天導師に仕えし者。生まれ持った顔の痣に人生を狂わされ、虐げられる苦しみからの解放を信じ、そして僕と出会った」

 数ある再会を経ていく後、彼の記憶の精算は革命の塔の原点に立ち会った者たちへと繋がる。

 想起されるのは聖女の装いをした凜々しき女性と、陽気な黒眼鏡の男。

 「……カルノ=ディオニム、ホーブル=アロファロス……そうか、君たちも来てしまったのか」

 「カルノは不当な魔法裁判で両親が罪を背負い孤児となり、ホーブルは貴族の謀略に両親の事業が奪われ孤児となった。二人は同じ街で出会い……そして僕と出会った」

 想起されるのは、ぶっきら棒な黒髪の女と、眉間に皺を寄せる黒髪の大男。

 「……フィノン=ズニアと、クレント=ズニア」

 「クレントはその宿した魔法の悍ましさから周囲に虐げられて。そしてフィノンは、そんな見知らぬ彼を庇ったことで共に虐げられた。守り守られ、二人は兄妹を誓い……そして僕と出会った」

 想起されるのは、透き通るような白い髪の女性。気品を纏いながらも、決して表情が和らぐことはない。

 「……エル=フィトロ。両親を流行病で失い孤児となり……そして僕と出会った」

 「君の笑顔は……どうしても思い浮かばない。僕は、君にそれだけのことをしてしまったから」

 そして想起されるのは、ウェーブした赤毛が愛嬌のある強気な女性。

 「……ティカ=ミトゥリス。君は確か……貴族の血筋に嫌気が差して家出をし、そして僕と出会った。自身が強き立場でありながらも、弱き者を想って孤児となった」

 名も無き男はただ純朴に微笑んだ。それは志半ばで果てた己への自嘲ではない。冷酷であり続けようとした男が、結局ここに来てそうあれなかったことへの自嘲だった。

 「……覚えてしまっているよ。君たちの名前も、過去も。嫌というほどに」

そして男は呟く。

 「……そうだった。僕の名前はラヴィ。下はもう覚えていないが、"愛"が由来だと記憶している」

 「でも僕は、革命の為に"愛"を捨てた。ただ一つ、己の信じた正義を選んだ。それで良かった」

 ラヴィ。その名は、彼女に伝わっただろうか。

No.131 ラヴィ=?


生まれながらにして魔力へ適合できず、一切の魔法を扱えないという体質を持って生まれた。少年は親に捨てられ、人の優しさを知らぬまま孤児院へと至る。いつしか出会い魅了されたジェディトの教えと、天性の戦略眼を駆使し、ギノバス政府へと挑戦した。

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