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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~その塔に天使はいない~
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129.懸命の騎士から、伏魔の騎士へ。 **

 王国騎士団第三師団第三部隊長・ミオン=ディオニムは、王都郊外の集団墓地を訪れた。市場で買った弔いの花を手に、かつて目指した男の眠る墓前に立ち尽くす。

 「……遅くなってしまい、申し訳ありません」

 先の作戦にて、第三部隊は虚しくも数名の殉職者を生んだ。その一方で生きながらえた者も、多くが療養を余儀なくされることとなる。そしてミオンもまた、そんな残された者の一人であった。彼女らは紛れもなく、その男の懸命によって守られたのだ。

 すでに枯れ始めた花束が墓前に横たわる様子は時の経過を如実に示すが、この耐えがたい喪失感は微塵も風化されない。己が部隊長を託されたという事実でさえ疑わしいほどに。

 「……この私が、貴方のようになれるでしょうか。薄情な私に、部隊長が務まるでしょうか」

己でも気味が悪いと思うほど、酷く流暢に言葉が溢れた。その問いに答えが返されることなど、決してありはしないのに。

 「貴方より良く見えるはずの瞳を持っているというのに、貴方に見透かされていたみたいです」

 「……私は……未熟な私が憎い」

 思い出せば、繰り返されるのは後悔の慟哭。鬱陶しいほどの自己嫌悪。取り戻せないものを失うということは、何より苦しい。

 気付けばまた、涙が滴った。そんなものを見せるために墓前に立ったわけではないのに、拭おうともまた頬は濡れる。

 若き日に背中へ致命傷を受けてまで守った幼子(おさなご)が、いつの間にかすぐ男の傍に居た。彼はいつになってその事実を知ったのか。なぜ彼は、それを口外してくれなかったのか。彼の意図は分からぬまま閉ざされてしまった。ただ彼女は、確かに守られ続けていたのだ。

 そのときミオンは、側方から群れた魔力を感知する。その魔力は温かく、確かに感じたことあるもの。焦点を合わせずとも正体は分かってしまうが、そこへ向き直らずにはいられない。

 訪れた者は、王国騎士団第三師団第三部隊の残党たち。その多くが痛々しい傷と戦っている最中であるというのに、彼らはそれでもここに来た。

 背中を押されて少し前に立ったのは、新人騎士のウォルト。彼はゆっくりと右腕を掲げると、涙と共に呼号した。

 「総員、二名の部隊長へ、敬礼――!!」

新人騎士の一声に従い、背後の騎士たちは右腕を掲げる。右腕を失った者は、右肩だけを空にかざした。右脚を失った者は、杖を放り出してまで右腕を伸ばした。

 ミオンの瞳は(ぬく)い潤いに覆われる。雫で視界を霞んでも、それでも彼女には見える。頼れる第三部隊はまだそこにあり、守るべき仲間がそこにある。セニオルの築いた第三部隊は、まだ強く生きているのだ。

 そして愛想の無い彼女は、屈託無く笑った。次は彼の遺したのもを、守ってみせよう。




 かつてエンジ村と呼ばれたその廃墟には、王国騎士団第一師団の精鋭が集う。黒幕の身柄の確保なくしては、先の一件で払われた犠牲が報われない。

 廃村を通過し、その離れに位置する平屋へと至った。すぐそばには焼け焦げて崩れ落ちた教会跡がひっそりと佇むが、対して平屋は随分と小綺麗で、まだ人が居ても決しておかしくはない。調査はすぐに開始された。

 選ばれた手段は強行突入だった。施錠された扉を破壊し、騎士らは室内へと流れ込む。そこに必ず何かが残されていることを信じて。

 広間に押し入った騎士らは、置きっぱなしの玩具や絵本を目撃する。拍子抜けしてしまいそうだが、ここに孤児院が運営されていたことは間違いないらしい。ただどういうわけか、大急ぎで人払いが行われたようだが。

 庭に回った騎士らの前にも、特にこれといってめぼしいものは現れなかった。そこでは几帳面に整備された庭の生け垣が、つい先日まで手入れされていたことをただ物語る。それだけの場所だった。

 先頭に立って突入したライズとその側近の騎士は、ついに残された最後の扉を叩き開ける。

 「……両腕を上げろ。ゆっくりこちらへ振り返れ」

薄暗い部屋の中でも、ライズはそれを視認した。同時に彼は、そこに居る男に対してある確信を抱く。男こそ、革命の塔の先導者。

 その男は従順に指示へと従った。ただ表情からは、どこかまだ達観した余裕が残る。そしてその余裕を体現するように、男はひっそりと呟き出す。

 「……私が消えようと、革命は止まらない。世に耐えがたい不平等がある限り、歴史は繰り返される」

ライズは抜いた剣を躊躇なく振るった。刃は器用にも、男の右手の指をまとめて弾き飛ばす。その突然の強行は、側近の騎士らをも驚かせた。

 ライズの瞳から光が消える。声を荒げることはなくとも、異様なほど冷徹に呟いた。

 「貴様のくだらん理想論に興味は無い。事実だけを語れ」

塔主と呼ばれた男は悶絶しながらも、頑なに言葉を発し続ける。

 「お前たちは目を背け続けている……都合良く綺麗に生きようとする……醜い悪魔だ……」

ライズは男の主張を無視して問い掛けた。

 「他にも人間が居たはずだ。どこへやった」

 「悪魔には……見えないのだろうな……弱き者の苦しみが」

その言葉から間もなく、ライズは再び剣を振るった。左手の指が一斉に吹き飛ばされる。

 「貴様が魔法を使えない人間であるという情報も得ている。誘惑魔法も無条件に効くのだろうな。つまるところ、拷問の為に指を残しておく必要も無いというわけだ」

 そしてライズは血払いした刃を鞘へと収める。悶絶する男に背を向けると、彼は側近の騎士らへ指示を下した。

 「ここでは、まだ何も吐いてくれないらしい。このまま残党を追いにいきたいところだが、一度王都へ帰還する」

 「り、了解いたしました……」

 「治癒魔導師に止血処置をさせておけ。たかが指十本で死なれては困るのでな」

No.129 セニオル=ウェイサー


王国騎士団第三師団第三部隊長。黒髪と濃い髭が特徴の騎士。三五歳。勇猛果敢に職務を全うする姿から、懸命の騎士と呼ばれた。また新人騎士の教育にも尽力し、若い騎士からの人望も厚い。コード・バベルにて殉職。

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