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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
133/203

128.報いのゆくえ **

 「――革命の塔には、洗脳魔法を完全に制御する為の制度が徹底されていました。そしてそれに不可欠な歯車こそ、孤児院という存在です」

 家主の居ない家で三人が向き合う中、エルの言葉は続けられる。

 「革命の塔が発足してから数年は、言ってしまえば革命などというものはただの空論で、孤児である私たちが必死に生き延びる為の苦しい日々でした。まあ、彼の革命心はそのときから本気だったのかもしれませんが」

まだ状況が見えない玲奈は一つずつ聞き返してゆく。

 「彼、というと?」

 「革命の塔の指導者のことです。彼は魔法に順応できない体質でした。魔法に溢れた世界において最弱の存在、彼は自身をそんなふうに語っていた気がします」

 「ただ、彼には特異な才能がありました。それは己が魔法を扱えずとも魔法を用いた作戦の指揮能力に長け、そして更には人々を革命へと駆り立てるカリスマ性のある演説。彼の手腕で苦難を乗り越えてゆくたびに、皆がそれへ心酔していきました。それこそまさに、洗脳のように」

ロベリアはふと先日の作戦を振り返った。

 「……そういえばラブリンでの一件は、どうもこちらの動きが先読みされている感じがした。詰所前での奇襲攻撃はそれこそ……いや認めたくはないけど、最も効果的なタイミングで仕掛けられてしまったわ」

玲奈にも思い当たる節が思い浮かぶ。

 「そういえば私たちが向かったギルド・ラブリンにも、先に潜伏している敵が居ました。思い返せばあれも、既に見越されてた……?」

ロベリアは同意するように頷き、更に先読みの根拠を口にする。

 「フェイバルがあれだけ追い込まれたのも、初動で秘技魔法の相殺を強いられたことと、その直後で一騎打ちに持ち込まれたことが原因だった。もう全てが、向こうの追い風だったわ」

エルは二人が何となく事情を飲み込んだところで話を戻す。

 「……ええ。彼の指揮があってこその、あの戦争でした。異常ともとれる軍師としての才が、彼を含め私たち全員を悪魔へと豹変させたのです」

 「そして彼はあるとき、他者へ洗脳魔法を植え付ける何らかの手段を手に入れました。当時、最も彼らに反発していたであろう私が、その未知の魔法の被検体へと選ばれたのです」

玲奈はそれとなく尋ねる。

 「その魔法付与が具体的にどんな行程を経たのか、エルさんにも分からないってことなんですよね?」

 「ええ。ある夜のことでした。現実に陰鬱としたまま眠りに就こうとしていた私は、その暗がりで不意に両目を抉られました。そして次に気が付いたとき、私はその力を手にしていた。それからは常に目隠しと四肢の拘束を強いられながら、必要とされるときにだけ目隠しを外され、意図せず発動してしまう洗脳魔法を行使する。まさに、兵器の類いと同じ扱いを受ける日々でした」

そしてエルの説明は、ようやく最初の言葉へ回帰する。

 「彼は次なる洗脳魔導師を作りだすべく、自らの育った孤児院を再興しました。どこかから孤児を引き取ってはエンジ村へと引き込み、彼らの潜在的な魔力を計測し選別する。そこで秀でた魔力を持った者がいれば、私と同じように洗脳魔法を植え付け、革命の塔の誇る兵器へと生まれ変えられた」

玲奈には当然の疑問が浮かぶ。

 「なら、選ばれなかった子は……?」

 「……外部へ情報を漏らさない為に殺されました。ただ、それでも例外が一人。フィーナという少女です」

その名を耳にした二人は固唾を飲む。エルは続けた。

 「フィーナは他の子と同じように、孤児としてエンジ村に連れられました。その頃は組織が洗脳魔法をを手にしてしばし経った、いわば天使作戦の中期段階。外部から反国家的な思想を持つ人間を懐柔する時期でもありました」

玲奈にはここであることに合点がいく。

 「そっか。そのタイミングで加入したのがジェーマ=チューヘルやパルケード=コミュレイト、それにフィロル=バンドリアテみたいな奴らってことね」

 「はい、その通りです。彼らは洗脳魔導師と一組になり、各都市へ出向くことで使徒を増やしてゆく。フィーナの居た当時こそ、その試験的段階でした」

 「いかに隠密に、そして効率良く使徒を獲得するか。それを探るべくパルケードが取り入れた手法こそ、天使とは別の囮を起用することだったのです」

エルは話を続けるにあたり、ある種の覚悟を決めるかの如く息を飲んだ。そしてしばしの沈黙の後、苦しそうに零し出す。

 「……フィーナが孤児院を出て各都市へ出向くにあたり、私は彼女へ洗脳魔法を行使しました。彼女はそこからパルケードの傀儡と化し、グリモンへと同行させられた。紛れもなく、私が彼女を地獄へ突き落としたのです」

 「ここからが本題です。私は例え償い切れぬとも、これから平穏を奪った者への償いを始めるつもりです。それはすなわち、今後の生涯の全てを弱き者の救済へと費やすこと。ただもしも、フェイバルさんが別の償いを求めるのならば、覚悟はできています。彼に、その是非を問うて欲しいのです」

玲奈は静穏に尋ねた。ある言葉の真意を探るために。

 「別の償い……というのはつまり」

 「死をもって償う、ということです。私はそれだけの命を奪ったのですから」

予想通りだった。それでも玲奈は悩んだ末に、確信をもって言葉を返す。

 「……その伝言は、必要ありません。その根拠を説明するにはちょっと薄っぺらい言葉なのかもしれませんけど……彼は罪だとか償いだとか、そういった打算で物事を語りません。きっと」

ロベリア少しばかり微笑んで同意した。

 「そうね。あの適当な男には、そんな判断荷が重いわ。それにあなたが、フィーナちゃんをはじめ多くの者から平穏を奪ったと自覚するのなら、フェイバルなんかにその償いの方法を委ねるべきではない。あなたが思う手段が、最も尊重されるべきだと思う。少なくとも私はね」

 エルにとって、それらの返答は思いがけぬものだった。意図せず口を開けて放心するが、しばし経ってようやく我に返る。

 「……そういう、ものですか」

その言葉を絞り出したとき、エルを縛っていた鎖は少しばかり緩んだ。

No.128 革命の塔における「天使作戦」


洗脳魔法を主軸とした大陸統治の転覆作戦と、それに付随する作戦行動の総称。

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