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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
128/203

123.猛毒の滝壺 **

 要塞都市・ラブリンの構造を知る玲奈は、あることを懸念した。

 「崩壊した時計塔が建ってるのって、ここよりもっと高いところだよね?」

 「うん。あそこは街の中心部に近いだから、もっと坂を登った先なはず」

 「なら間も無くすれば、ここには時計塔と同じだけの体積を持った毒液が流れ込んでくる、と……」

 「……街はどうにもならない。でも、時計塔への接近を続ける手段ならある」

策を持ち合せた様子のヴァレンは魔法陣を展開した。行使されたものは強化魔法・剛力(ストロングス)俊敏(アクセル)。玲奈の体にも白いオーラが宿った。

 「建物の屋根を伝って時計塔に接近する。かなり遠回りになるだろうけど、これしかない」

それはもはや残された最後の手段だったが、玲奈には不安要素が一つ。緊張感が失せることを承知で言葉にした。

 「私さ、相当な運動音痴だけど……大丈夫……かな……? てかそもそも、強化魔法なんて初めてだし……」

ヴァレンは得意気に笑う。

 「大丈夫。強化魔法、舐めちゃいけないわよ!」

束の間、ヴァレンは軽快に跳び上がった。特に大きな助走をとった訳では無いというのに、彼女はそばの堅牢な家屋の露台までひとっ飛びしてみせる。

 強化魔法のお世話になるのは初めてのことながらも、玲奈は確かに全身へ何かがみなぎる感覚を如実に感じ取れた。しかしこうして立ち尽くすだけでは、いつになろうとも効果を実感できるはずがない。ここは意を決し、あえてヴァレンの強気な発言に背を押されてみよう。彼女はその場で大きく踏み込んだ。

 手探りでも、力一杯で地面を蹴り上げる。すると玲奈は、まるで重力から解放されたかの如く、いまだかつて無いほどの高さに跳躍した。

 「ひえぇええ……!!」

 情けない声を零しながらも、何とかヴァレンの立つ露台を目指す。滑稽に空中であたふたと手足を振り回し、なんとかヴァレンのほうへ距離を縮めた。ヴァレンは少し微笑んで手を差し伸べる。その手を掴ったとき、玲奈はついに露台へ着地した。

 「慣れるのなんてすぐだから。安心して」

 「ホントに慣れるのかな……これ……」




 ダイトは握った剣から伝わる感覚だけを頼りに階段を下る。最後の一段を下り終えれば、正面に向けた剣先は硬い何かにぶつかった。

 剣先を足元から少し側方へと滑らせる。剣は小刻みに振動を始めた。

 「扉……なら話は早い」

男でそれを木造の扉だと推測したダイトは、躊躇うこと無くその扉を叩き切る。

 分断された木片が床に叩きつけられたのも束の間、少女の小さな悲鳴が一室に響いた。それは恐怖で声を押し殺したか細い音だったが、地下の一室にはよく反響する。耳の良いダイトは、鋭敏にそれを聞き取った。

 「……動くな。殺したくない」

 少女に応答は無い。ダイトは少女が洗脳魔導師であるという前提のもと、その目が何かで覆われているかを確認しなければならなかった。確実な方法に考えを巡らせるも、不意には浮かばない。

 その最中(さなか)の出来事だった。ダイトの通信魔法具に魔法陣が灯る。指先に魔力の流れを感じ取ったダイトは、迷うことなく即座に起動した。

 耳へ差し込むのは指揮官・マディの声。

 「――こちら通信本部。状況が変わった。すぐに退避だ」

 「ま、待ってください。たった今、洗脳魔導師と接触したところなんです!」

ダイトは確信を持てぬままそれを口にしたが、マディは粛々と状況を述べる。

 「恒帝殿と臨戦中のコード・瘴気(ミアズマ)が、大規模な魔法を行使した。液性の猛毒がじきにそこへ流れつく」

 ダイトは事の重大さを理解する。そして同時に、自分がどこか焦燥していたことを知った。

 「……分かりました。でも、役目は果たします」

ダイトはあえて多くを語らず通信を切断する。猶予は迫るが、それでもやるべきことは見えていた。

 次の瞬間、その少女は声を発する。

 「て、天導師様の毒は……触っただけで死んじゃいます。だから……その……逃げてください」

勇気を振り絞ったような、か弱き声。そこから悪意や攻撃性は感じ取られない。それだけを根拠に少女を視界へ移すのは危険であると分かっていたが、彼は賭けに出たのだ。

 ダイトは目を開き、少女の元へ歩み寄る。

 「逃げるんだよ。君も一緒に」




 フェイバルはある家屋の屋根にひっそりと居場所を移した。見下ろした先は、広大な毒の沼地。足を踏み入れるには憚られる。

 「……とんでもねー。何人殺すつもりだ」

 唖然とするのも束の間、フェイバルは熱魔法・感熱(サーマル)を行使する。例え敵が変質魔法によって姿を眩ましていようとも、人間の体温は僅かに隠し通せない。冷静を貫く彼だからこそ為せる選択だった。

 そしてフェイバルは僅かな温度を時計塔の根元から感知する。そこからの攻撃は迅速だった。

 「もうなりふり構ってらんねぇ」

光熱魔法・烈線(レーザー)を行使する。それは完全なる不意打ち。遠距離から光速をもって対象を穿つその魔法は、こういった境遇でこそ猛威を振るう。

 更には変質魔法によってフェイバルの視界から消えたという安堵感が、クレントを油断させたのかもしれない。その熱線は、軽々と男の腹を穿った。

 不意の一撃を受け、時計塔の侵食は停止する。時計塔の先端はいまだ毒への変質が及んでいなかったようで、無数の瓦礫が毒の滝を勢いよく下り始めた。圧迫感を感じるほどの轟音が鳴り響くが、フェイバルはそれに注意を惹かれない。反撃すべく急接近を始めた敵の気配を、ただ着実に捉えていた。

123.変質系魔法を行使する者に対する攻撃の有効性


変質魔法は肉体を魔法属性の対象物に変化させる魔法であるが、そこに実体の存在する限りは物理攻撃が通用する。一方で実体の無い光魔法などの変質魔法は、物理攻撃を無効化できる。ただし前者の場合においても、相手方の攻撃を認知したうえで、事前に回避又は防御を行うことで無効化できる。



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