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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
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106.先に眠った者どもへ ***

 玲奈たち三人の魔導師は坂の登った遙か先、ギルド・グリモンを目指す。ヴァレンが強化魔法を保有していたこともあり、三人は軽い足取りで騒然とする街を駆け抜けた。

 作戦の最終調整中に行われた奇襲。それでもかろうじて、玲奈たちは現地の騎士からギルドの位置情報を聞き受けた。事態は切迫しているものの、通信魔法具に内蔵された液晶魔法具は目的地までの道筋を明瞭に示す。

 「……この坂を進めば、左側にギルド・グリモンが現れるはずです!」

 玲奈は自らの通信魔法具を頼りに、二人へ情報を伝えた。彼女もそろそろ、一ギルド魔導師しての貫禄が出てきただろうか。

 ダイトはその指示に頷くと、続けて陣形の確認を行う。

 「ギルドに近付けば、敵の制御下にある魔導師が出現するかもしれません。前衛向きの自分が先頭を走ります! 二人は後衛へ回ってください!!」

ダイトは少し加速して、二人の前方に移動した。万全を期す彼らは、真っ直ぐと坂道を駆け上がる。




 グリモン駐在騎士団詰所近辺の路地にて。フィノンと対峙するロベリアは、灰色の魔法陣を展開した。

 「……召喚魔法秘技・二重身(ドッペル)

 彼女の足元から直ぐ側方に展開されたのは、重複魔法陣。そしてその紋様からは、突如として黒い(もや)が噴き出す。(もや)は彼女と同じ大きさくらいまで膨らむと、次第に少しずつ晴れ上がった。次の瞬間そこに広がった光景は、フィノンは少しばかり驚かせる。

 「……ほう。果たしてこれが、魔獣なのか?」

 「ええ。紛れもなく魔獣よ」

 ロベリアに背中を合わせて佇むのは、彼女と何一つ違わぬ容姿を持つ魔獣の姿。彼女は懐から予備の魔法拳銃を取り出すと、背中合わせのもう一人の自分へそれを託した。魔獣はロベリア本人の利き手と逆の左で銃を握る。

 そして二人のロベリアは、同時にフィノンへ照準を突き刺した。

 「「さ、終わりにしましょうか」」

それでもフィノンは臆しない。むしろその女は、命のやり取りを楽しむかのように笑った。

 「武者震い……久しぶりの感覚だ――!」

そして女は指の間にコインを装填する。肌でひしひしと感じる、敵の倍増した魔力に心を震わせながら。

 先手を打ったのは、二人のロベリアだった。魔法銃からは、まさに阿吽の呼吸で弾が放たれる。

 フィノンは冷静に、それでもって豪快に腕を振るった。勢いよく放たれた二枚のコインが、見事に魔法弾を相殺する。

 その破裂音を皮切りに、一人のロベリアは真っ直ぐと駆け出した。細い路地には、脇道も遮蔽物も無い。強化魔法を行使するフィノンに接近戦を仕掛けることが愚策なのは、どんな魔導師にも明白だった。

 フィノンは愚直に突進を始めたロベリアを見るなり失望する。

 「くだらんな」

そして女は一つ溜め息をつくと、再び拳を固く握った。手首をしならせ、また鋭くコインを放つ。

 突撃を続けるロベリアに、それを回避する術は無い。だがしかし、彼女はそれを許容する。なぜなら彼女には、もう一人の彼女がついているのだから。

 背後のロベリアは魔法陣を足場にして飛び上がると、そのまま二階相当の高さに備えられた窓枠を掴んだ。高所への移動によって作られた角度は、直進するロベリアに弾道を重ねることなくコインを撃ち抜くだけの空間を生む。そして移動したがために変則的な体勢になろうとも決して乱れない狙撃技術こそ、彼女の師団長たる所以である。

 それでもフィノンの強化魔法は、僅かに押し勝った。弾丸を受けようとも、コインがそこで粉砕されることなく、ただ軌道が逸れるに留まる。急所からは外れたものの、コインは確かにロベリアを捉えた。致命傷は避けられたが、彼女は右腕と左大腿を抉られた。

 ロベリアは直進を続けながらも、器用に治癒魔法を行使する。すぐに傷が癒えることはなくとも、突撃を続けるだけの体勢は維持出来た。

 (止まらん……か。ならば――!!)

 残りのコイン全てを放とうとも、目の前の獣を止めることは出来ない。瞬時に敵を見計ったフィノンは、あえてコインを手放した。それらが地面を転がり、音を奏でているうちに、女はまた新たな得物を手にする。

 「金魔法・創造(クラフト)

 フィノンは金色のミヤビ式刀剣を創り出した。日本刀の如き外見をしたそれを両手で上段に構えると、女が低い体勢でロベリアを待ち受ける。女は近接戦における絶対的有利を自負し、怯むことなくその時を待った。

 「――!!」

 しかしながら、そのときフィノンは己の目を疑う。彼女の目の前にはいつの間にか、二人のロベリアが出揃っている。はるか遠方で狙撃に徹していたはずのロベリアが、突進するロベリアと肩を並べているのだ。

 二人のロベリアは確かな怒りを孕んで言葉を発した。

 「「死んでくれる?」」

 召喚魔法において、魔法陣とはすなわち魔獣のゲート。突撃するロベリア本人は咄嗟に魔法陣を展開することで、援護射撃役の魔獣であるロベリアを直ぐ傍へと瞬間移動させたのだった。

 距離の詰められたフィノンに防御の余地はなく、故に反撃を迫られる。女はミヤビ式刀剣を力一杯振り下ろし、巨大な魔法刃を生み出した。

 二人のロベリアは防御魔法陣を展開する。もはやそれは、阿吽の呼吸を持つ二人の魔導師。必然的にそれは重複魔法陣となる。そしてその重なった二枚の防御魔法陣は、魔法刃を容易に凌いだ。

 すかさず二人のロベリアは魔法銃を構える。素早く引き金を引き放たれた魔法弾は、一振りの大きな動作で反応しきれないフィノンの両腕を同時に撃ち抜いた。

 左は少し逸れたものの、フィノンの右腕は的確に撃ち抜かれる。生身で魔法弾を受けた彼女の手首は、皮一枚で繋がっただけの再起不能な状態へ陥った。

 刀剣は地面に落ち、甲高い音を立てる。ロベリアは躊躇わずフィノンの左足を撃ち抜き、徹底して自由を奪った。

 そして女は崩れ落ちる。ロベリアはそこでようやく二重身(ドッペル)を解除した。二人目のロベリアが握っていた魔法銃は空中に取り残され、そのまま地面へと自然落下する。残されたロベリアは、過剰な魔法消費の代償で垂れる鼻血を気にも留めず、フィノンの額に銃口を向けた。

 左足の制御を失ったフィノンは跪いたまま、観念したかのようにそっと呟く。

 「……ごめんなさい。クレント……お兄ちゃん」

その声には、確かに涙が混じっていた。それでもロベリアは、とどめを刺さねばならない。

 「……うるさい。さっさと死んで」

彼女の震える声は、先に眠った仲間への想いを孕んでいた。乾いた音が路地に鳴り響く。そして路地は、また静まりかえった。

No.106 ミヤビ式刀剣


自治区ミヤビの伝統工芸品にも指定された刀剣。湾曲した刀身と和風の装飾は、日本刀に酷似する。

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