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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第1章 ~秘書の激務編~
11/203

11.魔の道を、まず一歩。

 翌日、魔法学校の敷地内にて。

 二人が手探りのままに行っていた鍛錬には、ついにフェイバルが同席した。現役の国選魔導師という大先生の登場に、ニアは純粋な期待を寄せるが、一方で玲奈は、ささやかながらも不満を吐露する。

 「……もう。結局教えてくれるのなら、昨日教えてくれればよかったのに……!」

フェイバルは悪びれもせずそれへ応じる。

 「んまぁ、色々とあんだよ。昨日みてーな無駄な時間が、結局魔法習得の近道だったりすんの」

 「意味分かんないです」

 「分かんなくて結構結構。魔法未習得の奴には分かるはずもあるめぇよ」

そのクリティカルな言葉に、彼女は反論の余地を失った。

 玲奈が黙り込んだところを見越し、フェイバルは木の枝で地面に図式を描き出す。

 「さ、まず大前提からだ。魔法ってのは、空気中に漂う魔力を体内へ取り込み、その取り込んだ魔力を自身の持つ個性、つまりは属性に呼応させて初めて発現する。要するに、必要なのは集中力だとか感覚だけじゃねぇ。自分の魔法で発現するモノのイメージだ。そんでお前らの属性は氷。王都は結構雪も降るし、氷なんていくらでも触ったことあるだろ?」

玲奈は挙手して先生へ質問した。

 「あのフェイバルさん。私たちはまだ魔法陣の展開すら出来ないんですけど、もう氷だとか雪のことをイメージし始めるんです?」

 「ああ。魔法陣それ自体に属性は無ぇけど、術者へ潜在する属性魔法と決して無関係ではねーんだわ。だって魔法陣に色があるのって、そういうことだろ」

 「た、確かに」

彼女が納得したところで、フェイバルはふと立ち上がる。用済みになった木の枝をその辺りに捨てると、彼は身振り手振りで語ってくれた。

 「つまるところ、まず大事なのは氷のイメージだ。氷の見た目そのままのイメージだけじゃ足りねぇ。例えば……水がじわじわと凍っていく様子。逆に溶けてく様子。氷に触れたときの、あの冷てー感覚。そのうえ、自分がどんなカタチの氷を出現させたいのか。その氷は分厚い壁となって身を守る盾を成すのか。はたまた、鋭く放たれて敵を貫くのか。発現するモノ自体と、そのカタチ。そのイメージが伴いさえすれば、初級の魔法なんて直ぐ出来る。魔法陣の展開術なんていう初歩レベルは、飛び級だ」

ニアはそれを真剣な眼差しで耳にするのに対し、玲奈はただ呆然としてしまった。それは、こんなにも知的に語るフェイバルを見るのが初めてだったから。ろくでもないところばかり目に付いていたので、ついつい忘れそうになってしまう。目の前に立つその男は、大陸を代表する実力を誇った魔導師なのだ。

 フェイバルは玲奈の目を覚まさせるように、少し大きな声を上げる。

 「さ、分かったらさっさと練習だ! 直ぐとはいえ、結局は己でコツを掴むしかねーんだからな。これが今日中で出来ねーなら、玲奈はギルド魔導師引退な。つまりは、ただの秘書だ」

玲奈はぎょっとなってそれへ応じた。

 「へ、へい師匠!!」

 そして二人は、ときにフェイバルからの助言を得ながらも、一日を鍛錬へと費やした。




 「――駄目だ。魔力の集約点がブレてる。もっと指先から細い糸を出すみてーに」

 「――それじゃ魔力の出力が足らねーよ。もっと体の奥底から絞り出せ」

 「――イメージしろ。魔力の操作に気が取られ過ぎだ」

 国選魔導師ともなれば、その指導は一流。目に見えぬ魔力の癖や傾向すらも、精密に読み取り声にする。二人はただひたすらに、その天啓へと従った。 




 一秒すら惜しい程忙しない一日とは短く感じるもので、ついには日暮れの時間を迎える。昼過ぎには自らの助言すらも蛇足と思える程に仕上がった二人の弟子を前に、フェイバルは待ち飽きてしまった。後は何か小さな契機さえあれば、きっと花開く。その時を待ち侘びながらも、彼は掌へ肉と生卵を乗せ、それを魔法でじっくりと焼き始めた。

 そして気ままに夕食の準備をしていれば、ようやくその時は訪れる。フェイバルの視界は確かに捉える。偶然にも二人同時に、掌の先で煌めいた魔法陣を。

 「お……思ってたより早かったな」

 拍子抜けするほど突然だった。輝かしい水色の魔法陣は確かに現れたのだ。それは忽ちにして消えてしまったものの、大きな進歩であることには変わりはない。

 二人はもはや呆然とした。しかし奥底の達成感は、次第にふつふつと燃え上がる。そしてついにそれが爆発したとき、二人は全身で喜びを表現していた。

 玲奈は両手を天に突き出して叫ぶ。現実から隔絶された概念であった魔法が、今まさに自分のものとなったのだから。

 「マジだ! マジで出た! 魔法陣ンンッッ!!」

興奮冷めやらぬ玲奈へ、ニアは涙を流して抱きつく。

 「お姉ちゃん! 私にも出来たよっ……!」

ふと玲奈は我に返った。彼女は取り急ぎお姉さんを気取り、咄嗟にニアを撫でてやる。

 「やったねニアちゃん。これで私たちも魔導師だよ」

少女の涙に誘われてか、玲奈も密かに感極まる。そんな大団円の中へ、至って冷静な男が近付いた。

 「なーに。まだまだ魔導師の第一歩だ。先はアホほどなげーぞぉ」

 玲奈は何やら口を膨らませているフェイバルの方へと目をやる。軽食を楽しむ男の真顔は酷く興醒めだったが、その男の更に後ろで集まるモナミと子供らの姿が、また興を呼び戻してくれた。

 子供らは一斉に駆け出し、三人の元にへと集う。そこで良くも子供らしく、思い思いの言葉を口にし始めた。

 「――二人とも、おめでとう!」

 「――やったなニア!」

 「――お姉ちゃんもおめでとう!」

玲奈は子供らの波に揉まれた。しかしその刹那こそ、彼女の魔道において、忘れがたい出発点。

 モナミはふとフェイバルの横に並ぶ。その二人は子供たちと玲奈を遠くから見つめつつ、ゆっくりと語り合った。

 「フェイ。ありがとうね。あなたのおかげよ」

 「まあ、なんだ。親孝行みたいなもんだ」

 「あら、随分と大人になったのね」

 「……だいぶ前から大人やってんだけど」

 「そうだったかしら」

 「孤児院(ここ)出たの、何年前だと思ってんだよまったく」

フェイバルは軽食を飲み込んだところで、もみくちゃにされる玲奈を呼び出した。

 「おいレーナ! もう明日は依頼当日だ。今日のところは、このへんで帰るぞ!」

玲奈は微かに聞こえた男の声に反応する。異世界に来てから最も印象深い出来事に浸るのは、ここまでにしておこう。

 「は、はい!」

玲奈は子供たちの輪から何とか抜け出すと、フェイバルのもとに駆け寄った。




 二人は帰路に就く。それでも玲奈の興奮はいまだ冷めない。彼女は妙に早口になって呟いた。

 「フェイバルさん! 今日は本当にありがとうございました! まさか助言をもらってこんなすぐに魔法陣が出せるとは思いませんでしたよ」

 「そりゃーよろしゅうございました」

 「まあ、まだ魔法が使えるようになった訳じゃないので、魔法で激アツバトル……なんてことは出来ませんけど、これからもっと訓練して――」

フェイバルは対照的に、ただ真顔で応答する。

 「でも明日の仕事さ、多分だけど戦闘が起こるぜ。ついに待ち望んだ激アツバトルだな、おめでとう」

 「……え?」

玲奈の興奮は氷点下にまで冷え切る。妙に体が震えるが、それが武者震いでないことは確かだ。

 「そ、そんな殺生な……私まだ死にたくないお……」

男は淡々と依頼内容を述べてゆく。

 「明日の依頼の内容は、確か工業都市・ダストリンにある廃工場の制圧任務。制圧任務だから、ちゃんと制圧すべき敵が潜んでるってことだな」

 「……遺書書いときます。ごめんなさいお母さんお父さん……遺産はありません……霊柩車はイタ車でお願いします……」

 「まあ大丈夫だぜ。今回はお前の為に弟子が二人も同行する。死ぬ方が難しい」

その心強い言葉で玲奈はまた生気を取り戻した。

 「ほんとですよね!? 私、生きて帰れますよね!?」

 「情けねーなぁ。お前はギルド魔導師になりたくてギルドに来たんだろ?」

 「そりゃ……そうですけど」

 「制圧任務みたいな戦闘の絡む仕事は、ギルド魔導師の花形だ。そんなのを新人が体験できるなんて滅多に無い。だから今は腹(くく)れ。怖いだろうが、ギルド魔導師としては最高の経験値になる」

フェイバルは付け足した。

 「秘書だけじゃなくて、ギルド魔導師も、なんだろ。魔導師になって何かを守りたいと決めたのなら、依頼の一つくらいサクッとやったろうじゃねーの」

 魔道を歩み始めたばかりの玲奈には、ずいぶんと過酷な依頼だろう。それでも決めたのだ。彼女は、ギルド魔導師になるのだと。

 「――や、ややや、やったりますか……この私が……ねぇ……」

No.11 魔力


魔法の元素。魔導師は空気中の魔力を肉体に取り込み、それを放出することで魔法陣を発現させる。

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