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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
107/203

102.混乱の渦中で ***

 フィノンの掌が向けられたのは、道路に立ち尽くす民衆の影。突然の戦闘に混乱した道路では、乗り捨てられた魔力駆動車が連なり渋滞を引き起こしていた。そこから逃げ遅れたある母親は、転んだ息子の手を引いて道路を後にしようと試みる。

 しかその様子は、フィノンの照準に捉えらた。彼女は寸分の迷いも見せず、冷徹に魔法陣を展開する。

 「……金魔法・弾丸(バレッド)

魔法陣から射出されたのは、コイン状の弾丸。無防備な背中を晒した親子の元には、致命の一撃が襲い掛かった。

 魔力を場の誰よりも早急に感知することの出来るミオンだけが、親子を守るべく行動した。普段は無愛想な彼女が、顔をしかめながら一直線に駆け出す。逃げ惑う親子の背後へ瞬く間に回り込めば、迫り来る弾丸を弾くべく、咄嗟の防御魔法陣を展開した。

 不安定な体勢ながらも、なんとか凶弾は逸れる。それは立ち往生した魔力駆動車のボディと衝突したのか、甲高い金属音が周囲へ鳴り響いた。

 一難去ったミオンは体勢を立て直して顔を上げると、その狡猾な女を睨みつける。

 「下劣な……」

フィノンはその鋭い眼光を涼しい顔で見下ろしながら呟く。

 「分かっているぞ。騎士とは弱き者のため、例え陣形を崩そうとも目の前の命を守る。いや、守らねばならんのだ」

そのとき、ミオンが感じたのはただならぬ群衆の気配。その正体は、道路を挟んだ詰所とその反対側の路地から続々と姿を現し始める、ギルド・ラブリンの魔導師たちだった。彼らは逃げ惑う民衆に目もくれずに、どこか不気味で虚ろな視線をミオンへと突き刺す。

 「……遅かったか」

 ミオンはうろたえる。ギルド・ラブリンは、既に洗脳魔導師の手中であった。

 次の瞬間、魔導師たちの一斉攻撃は始まった。乱雑に飛び交う遠距離魔法。ミオンは反射的に回避するが、続けて仕掛けられるのは、また別の魔導師たちによる近接攻撃。魔法陣による咄嗟の防御も、強化魔法を纏った彼らの一撃には分が悪かった。

口数の少ないミオンは、想わぬ四面楚歌に雄叫びを上げる。それでも彼女は遂に物量へ押し負け、後方へ吹き飛ばされた。

 乗り捨てられた魔力駆動車に体を打ち付けられたところで、宙を舞ったミオンの体はようやく静止する。そのときセニオルは決断を迫られた。陣形を崩して前に出たミオンは孤立状態。このまま策を打たなかったならば、彼女の命が危険に晒されることは明白だった。

 無論、情に厚き分隊長に目の前の騎士を見殺しにすることなど出来ない。男は指示を下した。

 「一班・二班は孤立したミオンを援護! 前線に加わるぞ! 私に続け!!」

 その命令を皮切りに、詰所防衛を務める第三部隊十二名のうち、半数が道路へ飛び出した。セニオルを筆頭に据えた彼らはミオンを守るため、不気味な魔導師の元へ立ち向かう。

 三班所属の新人騎士・ウォルトは待機を迫られた。見上げた先に映る敵へ手出し出来ないことへ、そこはかとない不安が募る。そしてそれは、自然と声にも現れた。

 「あ、あの女をどうにかしないと……!」

平静さを失いつつある彼を抑えたのは、同期のファイラだった。

 「ウ、ウォルト。私たちの仕事は、きっと詰所を守ること。だから今は、これでいいと思うの……」

同班所属のとある先輩騎士は、ファイラの言葉に頷く。

 「ああ、それでいい。あの女の狙いはあくまで奇襲。結局のところ、目標は第三師団(ウチ)の戦力が集中してる詰所の中だ。防衛戦力が分断された今、あの女の次の行動は手薄になった詰所への再攻撃。俺たちは、それへ備える」

 確かにそれは、至極真っ当な推察。それでも奇襲を仕掛けたその女は、切れ者であった。突然の強襲であろうとも、国選魔道師の首を獲ることなどは幻想に過ぎない。国選魔導師という存在の力量を理解した上で、女は奇襲に臨んだのだった。

 故にフィノンが再び狙うは、分断されたミオンたち。

 「まずは、貴様たちからだ」

 道路に降り注ぐのは、金色に輝く弾丸の雨。それは乗り捨てられた車両をも突き刺し、傀儡の魔導師を巻き込むことさえ厭わず、その場のあらゆる者を撃ち抜き始めた。

 分散した前線の騎士たちは、各々が防御魔法陣を展開する。しかしフィノンの絶大な魔力を前に、彼らの魔法は無力だった。防御魔法陣は次々と破壊され、彼らは無惨にも追撃するコインに体を貫かれてゆく。止まぬ金の雨は、赤き池を作った。

 「さあ女騎士。貴様もだ」

 フィノン冷酷にも、生き残るミオンへと射撃を絞る。弾丸が集中したミオンの防御魔法陣は、遂に亀裂が生んだ。

 そんなときそこへ差し込んだのは、耳をつんざくような雄叫び。声の主は、第三部隊長・セニオル=ウェイサー。攻撃が止まずとも前進を続けていたその男は、強化魔法・剛力(ストロングス)を行使し、乗り捨てられた車両をフィノンとミオンの直線上へと投げ放った。

 金の弾丸は、盾となった車両へと集中する。そのときセニオルは、強化魔法・俊敏(アクセル)を行使して加速した。向かう先はミオンの元。彼には決意があった。天性の才である魔眼を持つ彼女は、これからの第三師団に必要なのだ。

 弾丸が逸れた僅かな時間に全てを賭け、セニオルはミオンを担ぎ上げる。ミオンは突然の出来事に驚いたが、すぐに冷静になった。一隊員として、部隊長を危険に晒すわけにはいかない。敵に背中を向けるセニオルへ必死に忠告した。

 「部隊長ッ!! 背を向けては――!!」

重々承知だった。セニオルは彼女の言葉に応じない。男は強化魔法を纏った怪力で、ミオンを詰所方向へと投げ飛ばす。

 「手荒だが、許せ……!」

 一度は途切れた弾丸の雨が、また降り始める。背を向けたままセニオルは、為す術無くその雨に晒された。コインが地面を叩く金属音と共に、肉を弾く鈍い音が響く。ミオンが死にゆく部隊長の名を叫ぼうとも、攻撃は無情に続けられた。

 そのとき突如として現れた黒羽の鳥獣が、詰所の方からフィノンの元へ突撃する。それに対応を余儀なくされたところで、女の攻撃は遂に止んだ。

 現れた鳥獣は、ロベリアの召喚魔法によって呼び起こされた魔獣であった。そこから僅か数秒経たずして、ロベリアが詰所から姿を現す。第一部隊と魔導師たちもまた、そこに続いて屋外へと至った。

 惨劇を目の前にしても、ロベリアは凜然と次の行動を選んだ。殉職した者を置き去りにすることが非情であろうとも、最善を尽くす為に。

 「……あいつは私が仕留める。あと叩くべきは奴らの拠点と、残党がいるかもしれないギルド・ラブリン。フェイバル、あんたたちに任せるわよ――!!」

 彼女は急降下する別の鳥獣へ跨がると、フィノンの居る屋上へと発進した。これほどに怒りを滾らすロベリアはフェイバルの目にも新鮮だったが、彼もまた冷静を取り繕って口を開いた。

 「……ダイト、ヴァレン、レーナ。ギルドには、お前ら三人で向かえ。俺は敵拠点を叩く」

フェイバルの発言に、思わずダイトが口を挟む。

 「えぇ!? フェイバルさんお一人でですか?」

 「だからそう言ってんだろ。これが、一番誰も死ななそうなんだ」

一方的な反論も束の間、フェイバルは通信魔法具を起動すると詰所内のマディーへと繋ぐ。

 「……フェイバルだ。これから敵拠点へ向かう。道案内頼んだ」

そして男は、指輪から声のままに駆け始めた。男の背中が遠のく中、玲奈は呆然とするダイトの肩を揺さぶる。

 「ダイトくん、行くよ!! 早く!!」

彼はどこか迷っている顔をした。そのじれったさに、玲奈は声を荒げる。

 「きっとフェイバルさんは、敵を推し量って私たちを三人にしたんです! だから今は行きましょう!! 私たちの師匠を信じて――!!」

玲奈に腕を引かれダイトはようやく我に返った。ヴァレンは彼女の熱い言葉に、少しばかり口角を上げる。

No102.金魔法


純金を生み出す希少な発現魔法。魔法陣は金色。物質的には紛れもない金であるが、大陸では魔法によって発現された金が高値で売却されることはなく、模造金として扱われる。貴金属店へ鑑定に行っても、その際は専用の魔法具によって看破され、買い取りを拒否される。

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