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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
105/203

100.三人の怪物は動き出す ***

 花の都・ホルト。そこは名の通り、花卉(かき)産業の栄えた都市であった。王都や他の大都市と遜色ない煉瓦調の建造物が乱立しながらも、街の中には多くの自然が溢れる。一際人々の目を惹くのは、やはり至る所に植えられた鮮やかな花の数々。古来から自然との共存を目指すその街は住みやすさが評価され、現在では数多くの移住者で溢れている。

 そんな壮麗な地へ足を着けたのは、国選魔導師・ツィーニアとその弟子であるムゾウ=ライジュ。二人はホルトに潜む革命の塔支部拠点を攻略するべく、花が彩る戦場へ立つ。

 昼下がりの心地良い天気の中、二人は現地調査を請け負ったホルト駐在騎士団の詰所を目指すべく、都内の大通りを歩んだ。

 「――初めて来たけど、雰囲気の良い街ね。王都よりも好みだわ」

 ふとツィーニアは呟く。世間話の少ない彼女の貴重な一言へムゾウは応じた。

 「ええ。凄く幻想的です。なんだか空気が美味しい気がします」

 「自然も多いけど、人もそれなりに多いわね。ギルド・ホルトにも、きっとかなりの魔導師が在籍しているはず」

 「ですね。革命の塔が兵隊としてギルド魔導師を欲しているのなら、この街はかなり都合が良いはずです」




 同刻。フェイバルらもまた、要塞都市・ラブリンへの前日入りを果たした。隊列を組んだ騎士の車両は検問を抜けると、大通りをゆっくりと通り抜ける。街の人々はその物々しい様子に釘付けだった。

 玲奈はブラインドのかかった窓の隙間から、ひっそり外の景色を覗いてみる。すると窓に外からは、数多くの民衆の視線が垣間見えた。彼女は急いでブラインドを戻す。

 「うーん、なんかすごーく目立ってるんですけど……」

つい先程になってようやく目を覚ましたフェイバルは、欠伸(あくび)をしながら返答した。

 「そりゃこの規模だし、しゃーねーだろ」

男は目を擦ると続ける。

 「そんでレーナ、これからの予定は?」

 「ええっと、これからラブリン駐在騎士団の詰所を訪問します。そこで詳細な敵勢力の報告を受け、作戦の最終調整。それと、メインサーバー通信魔法具の設営も行われます。夜からは作戦の最終確認と武器等の最終調整の時間が確保されていまして……明け方五時から、いよいよ作戦開始ですね」

 「了解した。今寝といて正解だっだぜ」

ここでヴァレンがふと疑問を呈する。

 「にしても、ラブリン攻略軍(ウチ)だけ大規模過ぎやしない? だって、他の支部はどこも国選魔導師単独の派遣なんでしょ」

彼女の疑問には、玲奈も同感だった。しかし頭の片隅に残っていた会議の内容を振り返ると、何となく作戦の意図を理解する。

 「ラブリンは今回の目標のうち王都から最も近い支部だから、敵戦力も大きく見積もっているって言ってた気が……」

 「それだけじゃねー。もっと厄介なことがある」

フェイバルは玲奈の言葉に付け足した。

 「ここは要塞都市・ラブリン。名の通り、街全体が要塞のように入り組むことで攻められにくい構造を成しているうえに、外側の塀から中央部にかけ相当な勾配がある。侵略者から高所を取る為の、理にかなった仕組みなわけだ」

そして男は一つの仮説を基に続ける。

 「今回の目標となる敵の支部拠点も、恐らくは上り坂の先。街の中央付近に拠点を構えれば、街の防衛機能の恩恵にあやかれる。そんで俺らは侵略者側として、不利な環境で戦うことになる」

 「なるほど。立地の不利も相まって、ということなんですね」

納得した様子のヴァレンをさておき、玲奈は思わず関心してしまう。

 「はえー。フェイバルさん詳しいですね。妙に饒舌だし」

 「昔依頼でよく来てたから、たまたま知ってるだけだ」

ダイトは掌に拳を乗っけて呟いた。

 「なるほど。土地勘があるから、フェイバルさんはラブリンへ派遣されたんですね」

 「……まーそうかも。それにそこそこ土地勘あるやつ、もう一人居るし」

 隊列の先頭車両に乗り込むロベリアは、その久しい景色を楽しむ。

 「はー懐かしい。この酷い傾斜で車が結構揺れるのも、変わんないわねー。よく依頼で来てたっけ」




 地下街・オラトリア。苔むした高い塀の内側には、緑に覆われて荒廃した建物が遺される。この街に地上で生きる者はいない。なぜならここは、街の機能がまるごと地下へと移転された、他に類を見ない街なのだから。

 地下街・オラトリアは薄暗い街が故に少しばかり治安は悪いが、血気盛んな若者には根強い人気がある。日中からバーやカジノが開いている点からも、まさに夜の街と言えるだろう。

 「さあさあ、久しぶりに来てみたけども……」

 オラトリアに位置する支部拠点の殲滅を任されたオルパスは、ふらりとその眠らぬ街へ訪れた。街に入れば太陽は見えず、まるで夜中の歓楽街であるかのように錯覚する光景へと一変する。あたりに泥酔した者が寝込んでいるのも、ここではありきたりな光景だ。

 「こんなところに支部があるのか。まあ揉め事も多そうな街だし、都合が良いのだろう」

 そのとき、オルパスと酔った男の肩が衝突する。その男は自らに責任があることを疑いもせずに、酒臭い息で難癖をつけ始めた。

 「おいお前……邪魔なんだよ……!」

 オルパスはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、その男に耳を傾けてみる。あえて聞き手に回って無視を続ける挑発に、その男はヒートアップした。

 「何……笑ってんだ? 殺すぞ!!」

そして男はふらふらのまま拳を振り上げる。そのときオルパスは、あくまで独り言のように呟いた。

 「よし、君に決めた」

 次の瞬間、男はまるで電源が切れたかのように、振り上げた腕を力なく降ろす。男の瞳に浮かんだのは桃色の魔法陣。それはヴァレンが行使するものと同じ、誘惑魔法の発動を意味する。

 「……洗脳魔法。革命の塔ってのは操り人形で戦うらしいね。ならこっちも、操り人形で遊ぼうか」

ふとしてオルパスは男の肩へ手を置いた。

 「やあ君、就任おめでとう。これから君は、私の玩具だよ」

男には笑顔が貼り付く。眼鏡の奥底には、命を軽んじる狂気が宿った。

No.100 ギノバス通信局


都内は勿論のこと、都外の騎士詰所や通信局、その他特定の機関と交わす機密事項の安全な通信を使命とする機関。都市間を跨ぐ通信を要する国選依頼の際には、ギノバス通信局から騎士団本部へ数名の技術者が派遣され、騎士と提携することで通信網を運営する。

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