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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
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98.宿命を共に背負おう ***

 ――気が付いたとき、玲奈は名も知らぬ場所に佇んでいた。窓から差し込む光は微かに感じ取れるが、それでも妙に薄暗い空間には、どこか異様な重圧感が漂う。丸太で組み上げられたやや古風な造りは、ギルド・ギノバスと少し似ているだろうか。

 理由は分からぬとも、少しの安堵と共に別のところへ視線を移した、その刹那の出来事だった。背後から忍び寄る長い槍が、玲奈を襲う。振り返ったときはもう既に手遅れで、噂に聞く走馬灯が見えた気がした。

 鬼気迫った声でこちらへ呼び掛けるのは、聞き慣れた声。それでも何の言葉を掛けられているのか理解出来ないのは、きっと自分が致命の一撃を負い、意識が朦朧となっているからだろう。




 「――はっ……?」

 そして玲奈は、いつものベッドから半身を起こす。嫌な汗を感じて、ようやくそれが夢であったのだと知った。

 「……夢、なのよね。妙にリアルなの、ほんとやだわ」

愚痴を零しつつも、彼女はどうにかベッドから脱出した。そこでぐっと体を伸ばすと、そそくさと一階の居間を目指す。

 いつも以上に寝起きが良いのは、これから大仕事が待っているからだろう。この日は、革命の塔掃討作戦の前日。フェイバルたち一向は、これから決戦の地である要塞都市・ラブリンへと前入りする。現地に赴き、明日に控えた作戦に関する直前会議に出席する為だ。

 「フェイバルさーん、ってやっぱまだ寝てる――」

 「起きてるっての」

 玲奈の呼びかけに、フェイバルはソファから腕だけを露わにして応答した。いつもなら寝ているはずの彼が目を覚ましているのは、きっと彼がこの作戦に対して、特別な想いを抱いているからだろう。

 ふと近くの棚へ視線を移せば、そこには年季の入った写真立て。そしてそこに収まる思い出の一幕には、玲奈とそっくりな女性の姿がある。写真の中の彼女とフェイバルの事情を知っている玲奈には、彼の成し遂げた早起きにも合点がいく。

 (私もそれに応えなきゃ、よね)




 同時刻。王都外を駆けるのは、一台の魔力駆動車。その車両が目指すのは遙か先、花の都・ホルトであった。

 後部座席に腰掛けたツィーニアは、頬杖をついたまま窓の外を見つめていた。運転手を務めるムゾウは、ふとその様子を気に掛けて口を開く。

 「どうか、しましたか?」

 「……少し気掛かりなことがあるだけよ」

 「それはこの作戦に、ということでしょうか?」

 「ええ。私たちはともかく、残り二つの戦線がね」

 「魔天楼殿については、やはり騎士の間でも不安が多いようですね。ただ恒帝殿と第三師団については、心配ご無用かと……」

 「それはあんたが、恒帝の過去を知らないからよ。あいつにとって、きっとこの作戦は心に抱えた闇を精算する機会。あの日の私と同じようにね」

 人の心配をするツィーニアを見るのは、弟子であるムゾウからしてもあまりに珍しかった。そして淡泊な口調は変わらずとも、長きに渡り行動を共にしてきた彼には分かる。やはり彼女は弟と決別したあの日以来、少しだけ変わったのだ。彼女自身は、きっとそのことを認めないだろうが。

 「……師匠はお優しいですね」

 「あんなに馬鹿な男でも、死んだら困るの。国選魔道師を失うことは、ギノバス体制の統治においても大きな損失になる。別に私情じゃないわ」




 王都北検問では、第三騎士団に所属する数部隊が、数台の魔力駆動車と共に待機していた。彼らはこれから国選魔導師・恒帝と合流し、要塞都市・ラブリンを目指す。

 「――走行中は各自魔獣への警戒を怠らないこと! 道中でフェイバルたちの手煩わせちゃ駄目だからね!」

 都外を安全に走り抜ける為の車両確認を行う騎士たちへ念を押すのは、師団長・ロベリア=モンドハンガン。いつもより熱気のある彼女もまた、この作戦には特別な感情がある。

 そんな最中(さなか)、検問へ先に現れたのは、二人の若き魔導師であった。

 「――騎士の皆様方、本日はどうぞよろしくお願いします!」

ロベリアがその明るい声色に振り返れば、そこにはこちらへと歩み寄るダイトとヴァレンの姿。

 「あら、まだ予定より随分と早いのに。ほんとできた弟子たちねぇ」

関心するロベリアを前に、二人の足取りは止まる。ダイトは手を後頭部へ運んでふと零した。

 「いやー、最近どうもフェイバルさんが時間にシビアになった気がしまして。もし万が一遅れでもしたら……」

 「ふふ。そういうことね」

ロベリアは笑顔のないヴァレンへと視線を移した。

 「ダイトもだけど、ヴァレンと会うのはもっと久しぶりかな。どう、元気だった?」

 「え、ええ……! それはそれは、元気に楽しくやってます……!!」

その不器用な笑顔に、ロベリアは気付くことが出来なかった。だからこそ彼女は、自然な笑顔で返答することとなる。

 「そう、ならよかったの」

そのときダイトは、ふと明日の作戦について切り出した。

 「そうそう、レーナさんから聞きました。明日の作戦は、フェイバルさんが提言したものだそうで」

 「ええ、そう。この作戦の目標は、彼にとって宿命の敵だからね」

ロベリアの視線が沈むと、彼女は少し低い声で付け足す。

 「煌めきの理想郷(ステトピア)を奪った報い、必ず受けてもらうわ」

ロベリアは瞳の奥には、たぎる怒りが浮かぶ。ヴァレンはその張り詰めた緊張感から、この作戦が目の前の彼女にとってもまた宿命の敵であることを察した。

 「そっか……ロベリアさんだって、煌めきの理想郷(ステトピア)のメンバーですものね」

 「……ええ。まあ私は、解散前に一足早く脱退しちゃんたけどね。でもさ、やっぱり離れないのよ。あのときが、一番自由で楽しかったから」

そしてロベリアは顔を横に振り、悲観的な自分を捨て去った。そこに私怨はない。一人の騎士としての矜持が、再び顔色に現れる。

 「さ、明日はあなたたちの頼れる師匠の正念場なのよ。しっかりサポートしてあげてね!」

そのあまりに凜々しい女性に、弟子たちは微笑む。二人は迷わず返答した。

 そして見計らったかの如く、一台の魔力駆動車が検問前へと到る。ロベリアはその見慣れた古い車種を視界に映すと、直ぐに口角を上げる。

 「噂をすればなんとやら、ね。第三師団(ウチ)の誇る国選魔導師――!」

車は三人の前で停まると、そこから颯爽と現れる二つの人影。

 「――なんだ、揃うの早ぇなお前ら」

 「――皆さんお待たせしましたぁ!」

首から紋章を下げた男は、いつもの緩い声色で口を開く。傍に控えた秘書は一つまみの緊張を見せつつも、どこか頼れる顔つきをしていた。

 ロベリアは笑顔で二人に応じる。

 「待ってたわよ、フェイバル! レーナちゃん!」

No.98 国選依頼における補助魔導師規定


国選依頼は国選魔道師本人の受理が義務付けられているが、国選魔導師は必要に応じて、数名のギルド魔導師を補助魔導師という立場の元、国選依頼へと同行させることが出来る。ただ国選魔道師は、弟子を募り師弟関係を結ぶことが慣例である為、補助魔導師は必然的に国選魔道師の弟子となるのが現状である。

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