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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
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96.大会議室にて ***

 玲奈とヴァレンが王都へと帰還してから、二日が経過した頃。早朝にも関わらず、その日の王国騎士団本部大会議室には、どことない緊張感が張り詰める。

 この席を円滑に運営する義務を負った騎士は勿論のこと、傍聴者の貴族たちまでもが忙しなくあたりをうごめく中、定刻通りにそこへ到着した玲奈とフェイバルは、指定の席へどっしりと腰を下ろして開始を待ち侘びた。

 そういえば玲奈がこの会議室なるものに入ったのは、今回が初めてのことだった。大会議室は築造された遙か昔の厳かな建築様式をそのまま残しているために、玲奈は仰々しさについ圧倒されてしまう。ただ同時に、この席が厳粛な場であることを理解している彼女は、どうにか平静を装った。

 玲奈がふと周囲を見渡せばまず目に入るのは、作戦騎士団の誇る師団長三人が出揃った席の一角。もう随分と見慣れた顔である第三師団長・ロベリアの他、メディナル神殿遺構で出会った第一師団長・ライズ。それにギノバス駐在騎士団の詰所で出会った、第二師団長の姿まである。彼らは特に馴れ合うこともせずに、ただそこで神妙な面持ちを浮かべた。

 視線を右の方へと向ければ、その先にはフェイバルと肩を並べる国選魔導師・ツィーニア=エクスグニル。弟子であるムゾウを連れた彼女は、相も変わらず仰々しい二本の剣を持ち合せていた。

 視線を左へ。しかしそこは、いまだ空の席。出席者も随分と揃い始めたというのに、ここへ腰掛ける者が現れる様子はない。玲奈が不思議そうにそこを見つめていれば、フェイバルはそれに気付いてふと呟いた。

 「そいつはこねーよ」

 「へ?」

 「そこはもう一人の国選魔導師の席。だが、そいつがこの部屋に来たことはない。少なくとも俺が国選魔道師になってからはな」

 「……そう、ですか。てことはこの席は、噂に聞く魔天楼って人の……?」

 「ああ。そういうことだ」

 丁度そんな会話をしているとき、大会議室には護衛を連れた一人の男が現れる。玲奈はもしやそれが魔天楼であるのかと想像したが、整えられた黒い髪と口髭が特徴的な中年の男は、扉から一番奥の中央の席を目指して進む中で、師団長三人からの会釈を受けた。師団長と国選魔導師は対等な関係なのだから、こういった所作が行われる所以は無いのである。

 その関係性に理解のあった玲奈は、彼が魔導師ではなく騎士団の最高指導者であるということを察した。

 そんな彼女の傍に座るフェイバルは、自然とその最高指導者たる男から視線を逸らす。それはまさに意図しない気まずさの表出であったが、玲奈がそこへ気が付くことはなかった。

 男が中央の席へ腰掛けたとき、会議はその男の一声から開始された。

 「……すまない、待たせたな。早速だが始めてくれ。議題は、革命の塔掃討作戦。オペレーション・バベルについて――」




 舞台は王都・ギノバスから遙か遠く、とある小さな村へと移る。その村は海に程近く、少し外れたところを歩けば、忽ち広い水平線が顔を出す地。切り立った崖から見下ろすことの出来る海は、その日の快晴も相まってより一層にきらきらと輝いた。

 崖の底へ足を投げ出し、横になってくつろぐ男が一人。くるくるとうねった、癖のある茶色の髪。角張った眼鏡は、突き刺すような日の光を跳ね返す。

 「……半年くらいか。駄目だな。もう飽きてしまった」

男は続けざまに呟く。それは、随分と穏やかな口調の独り言だった。

 「長期の依頼とは言ってみたが、もうやりたいことも何も無い。さーてどうしたものか……」

 男の腕は、己の首元へと伸びる。その大きな手で持ち上げたものは紛れもない、国選魔導師の紋章。男はつまらなそうにブローチを見つめながら、無造作にそれを弄り始める。

 「……そうだ。そろそろ騎士の機嫌でも取っておくべきか?」




 第三師団副長・マディは据え付けられた魔法具に触れる。すると液晶魔法具は、会議に参加する皆の前へ小さな地図を投影した。

 「本作戦の目標である革命の塔は、革命活動を軸とした過激思想を唱える、反ギノバス派の組織。近年になって各都市での工作活動が目立ち始め、ついには洗脳魔法なる未知の力を手にしたことが分かっています。王国騎士団は、この未知の魔法が重大な危険性を孕むと判断し、また国選魔導師・恒帝殿の提言も相まって、調査を開始。立件へと至りました」

 「調査では、中規模程度の都市三箇所にて、それぞれ支部拠点の存在を確認。よって本作戦は、当該支部拠点三箇所を同時に攻撃する掃討作戦となります」

 ある騎士は、挙手して疑問を呈した。

 「本部にあたる拠点は、いまだ未確認ということでしょうか?」

マディは凜として応じた。

 「ええ。敵勢力の本部拠点は、いまだ確認されていません。ただし敵勢力の活動目的が革命行為である以上、その活動の場は必然的に、人の集まる都市部へと限定されます。よって本部の所在が掴めない現在においても、支部の壊滅が有効な手段であるというのが、我々の判断です。また洗脳魔法の危険性を鑑みても、同様の結論に至ります」

 マディの操作によって地図は切り替わる。続いて男から語られたのは各支部拠点の概要と、そこへ投入する戦力について。

 「……支部拠点の一箇所目は、要塞都市・ラブリン。三カ所のうち、最も王都に近い街です。革命の塔が大陸の転覆を目論む事実から考察すれば、最も王都に近いこの街へ大きな戦力を固めている可能性が高い故、ラブリン攻略軍には、第三師団のうち一から五部隊及び第三師団直属国選魔導師の恒帝殿を投入いたします」

 「二箇所目は花の都・ホルト。こちらは王都からやや距離が遠く、また都内の人口からみても、支部拠点の防衛にあたる戦力は比較的少ないとの考察から、第二師団直属国選魔導師・刃天殿を投入し、少数精鋭での掃討を実施します」

 「そして三箇所目は、地下街・オラトリア。ここもホルトと同様、防衛重要度の低い拠点であると考えられる為、第二師団から師団長含む三部隊を――」

 「話を遮ってすまない。少し提案をしていいだろうか?」

 声の主は、第一師団長・ライズであった。思わぬ出来事に、マディは思わず頷く。

 「確か王都から地下街・オラトリアは、王都からホルト以上に距離があるはずだ。王都から第二師団が離れるリスクを考慮したなら、もっと適役がいる」

 「……と申しますと?」

 「我ら第一師団の直属国選魔導師・オルパス=ディプラヴィートだ」

その名が挙げられた瞬間、場はざわつき始めた。状況が理解出来ない玲奈は、ふと直ぐ傍に居るフェイバルの顔色を窺う。するとそこ映るのは、鋭い眼差しでライズを見つめる男の横顔。何かを全力で警戒するような、普段のフェイバルからは拝めない表情だった。

 ライズはそのざわつきをもろともせずに続ける。

 「ご存じの通り、彼は少しばかり制御の効かないところはあります。ただ、彼が国選依頼を怠ったことは一度たりともありません。実力は約束されているのです。それも、彼の受け継いだ血によって」

ある一人の騎士が苦言を呈した。

 「ならなぜ……奴はこの会議室に現れないのです!? それどころか奴は、長期依頼を偽ってずっと王都を離れているそうではないですか!? これは重大な規律違反でありましょう!?」

 「おっしゃるとおり、国選魔導師には王都への在住が義務付けられています。ですが彼らのギルド依頼の受諾については、あくまで自由が原則。国選依頼は、ただギルド依頼に対して優先権を持つに過ぎません。故に長期のギルド依頼として王都を不在にすることは、事実上認められています」

ライズの端的な回答に、騎士の男は口籠もる。そのときその男から代わるようにして口を開いたのは、王国騎士団総督・タクティスだった。

 「地下街・オラトリアには、魔天楼を向かわせることとする。国選依頼の通達は、第一師団が行うように。よいな?」

 「――了解しました」

ライズは一礼した。騒然とした場は収まりつつあるものの、渋い表情を浮かべる騎士や貴族は少なくない。

 タクティスは決まりが悪くも、直ぐに議案の進路を正した。

 「すまないな、マディ君。続けてくれたまえ」

マディは何とか焦りを隠すと、再び口を開く。

 「い、以上が戦線に立つ三つの戦力となります。作戦の特性上、この三箇所が連携を要する場面は想定されませんが、作戦の開始、終了、有事の発生を把握する為、騎士団本部にて三箇所を総括する通信班を設置します。こちらは、第二師団から数部隊にお任せする所存です。指揮権は副長・フルワ殿に委ねます」

フルワは真剣な面持ちで頷いた。その動作でフルワという名と顔の一致した玲奈は、また一つあることを思い出す。詰所にて第二師団長と遭遇したとき、行動を共にしていたあの女性は副長であったのだ。

 マディーは資料をめくり、次の説明に移行した。

 「続けて洗脳魔法について、現在までの情報を確認します。当該魔法は暫定的な命名に留まり、先日の革命の塔事件にてその存在が指摘されました。魔法の性質は誘惑魔法と類似しており、対象の人間を自由にコントロールする能力を持ちます。また当該魔法は誘惑魔法に比べて発動の条件が緩く、範囲が広大であること、更には誘惑魔法よりも器用で繊細なコントロールが可能なことなど、明らかな違いと高い危険性が確認されています」

 「洗脳魔法の発動条件は誘惑魔法と同様に、視線を介するものであると考えられています。解除条件はいまだ不明ですが、術者の死亡が解除条件となっている可能性がある、とのことであります」

 「先日の事件からも察せられるように、三箇所の拠点は洗脳魔法を用いた何らかの作戦行動に向け、各地のギルド魔導師を戦力として集める準備段階にあると想定されます。つまりこれらの拠点には、それぞれ洗脳魔法の術者が配備されていると見て間違いありません。戦線に立つ者は、十分な注意を払って下さい」

No.96 会議の出席者


国選依頼に関する会議では、動員される国選魔道師とその推薦元となる師団が出席する。大規模の作戦においては、総督と治安部門(騎士団の運営方針に関わる貴族の合議体)の同席が必要となる。また作戦が複数師団の稼働を要する場合、いずれか一つの騎士団が中枢師団となり、作戦の考案・会議の進行を請け負う。

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