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蠱術師ナアハと鼠蠱の"ちゅう"  作者: 岩佐茂一郎
43/57

其卌參

「あッ!」


高楼の上で一部始終を見ていたシリガイとミクズは声を上げた。


あの鼠が、天敵のはずの蛇蠱、それも上位種の白子の眼鏡王蛇の蠱を降した。


虎蠱を倒したのだからその結果は想像できおり、それに二人が驚いたのではない。


その直後に、鼠蠱の主が倒れたのだ。


背後まで忍び寄っていた蠱術師が、暗器か何かを使った様に見えた。


「いけない!」


ミクズは悲鳴にも似た声を上げるや、高楼から飛び降りた。


下までは優に大人五人分以上の高さがある。


そこを飛び降りたのだからシリガイや(はべ)っていた宦官・侍女の驚きは大変なものだったが、どのような術によるものか、ミクズはフワリと着地すると何もなかったように足早に歩き始めた。


蠱で闘わずに暗器などで少女を害した蠱術師にミクズは苛立ちを覚えていた。


(全く、術者を殺してしまっては無駄になるじゃない)


その通りで、術者が先に死ねば普通の蠱は力を失う。


そうなっては造蠱の術が無駄になってしまう。


これだけの仕込みをするのにどれだけの手間が掛かったと思っているのだ。


あの少女が死なないうちに……、


ここでミクズは足を止めた。


(どういう事? ……少し様子を見たほうがいいのかしら?)


背後にシリガイ達が高楼を降りてくる気配を感じながら、見えている出来事をどう考えたものか、と扇の先を顎に当てるミクズだった。




ちゅうに呼ばれナアハへと駆け寄るフカオの後ろでは猿蠱が歯を剥き出して、嘲り顔で飛び跳ねている。


吹き矢でナアハを攻撃した蠱術師は、フカオを避けるように遠回りして逃げ猿蠱と合流していた。


猿蠱の主だったようだ。


白蛇蠱を失ったチェナカはまだ呆然としているがその頭に、


フツッ


矢が突き立って絶命した。


いつの間にか初めに姿を消していた兵が再び現れ、残りの蠱術師たちを取り囲んでいる。


林に逃げ込んで闘いを避けていた術師達も追い立てられて集まっていた。


残りはこれだけであるのだから最後の一人になるまで闘え、という事なのだろうか?


「チェ、チェナカァ?」


ネネオはどうしてチェナカが倒れたのか理解できていないようで、おきてよ、と揺すっている。


そんな主の後ろまでビッタンビッタンと這うように跳んできて座った蝦蟇蠱。


主をじっと見ていた。


その蝦蟇蠱に向かって、背後からソロリソロリと近づいた猿蠱が両手で持った大石を、


ブンッ


振り下ろした。


グチャ


その一撃で蝦蟇蠱は死なず、


グエェェェッ、


低い唸り声にネネオが気付く。


「ああっ、オデのカエロ(・・・)に何をする!」


怒って猿蠱に突進するネネオ。


その勢いに驚いた猿蠱は蝦蟇蠱に打ち下ろした大石を振り被って、


ブンッ、


ネネオに投げつけた。


蝦蟇蠱の体液がべっとりと付いた大石は(あた)ったネネオの顔の中心を陥没させるが、ネネオはグフッと一瞬怯んで、


「いでえよ」


と言っただけで鼻と上顎を(へこ)ませたまま、また猿蠱に向かってドタドタ走りと始めた。


まさかあの大石の直撃を受けても追いかけて来るとは思っていなかった猿蠱は慌てて逃げるが、その足を何かが絡めて転倒させる。


蝦蟇蠱が伸ばした舌だ。


猿蠱が藻掻いてそれを外そうとしてもヌルヌルと滑って上手くいかない。


猿蠱はキーキーと鳴いて主人に助けを求めた。




「ナアハちゃん!」


フカオ達三人は倒れたナアハに集まり、ちゅうも傍らで落ち着きなくしている。


チトサはナアハの肩の針を見つけるや、鞄から道具を取り出すとナアハの袖を引き裂き針を抜いてその道具を押し当て弁を引いた。


「毒を吸い出す道具よ」


何をしているのだと訊くフカオにそう短く応えたチトサは、


ポンッ


と勢いよく道具を外し、


「イサちゃん、解毒出来る?」


それをイサに渡して吸い出した毒を見せ、自分はもう手遅れだと分かってはいるがナアハの脇の下の血管を圧迫した。


「難しい、臭いや色だけでは何だかわからない毒」


それでも、とイサも鞄から瓶やら包みやら竹筒やらを沢山取り出し、いくつか選んで蜂蠱に舐めさせている。


そうやって蜂蠱の中で合成した解毒剤を打ってみるが、ナアハはピクっとするだけで良くなる気配を見せない。


少し経過を見て、


「駄目。今持っている薬じゃ解毒できそうにない」


と判断したイサの言葉に、


「クソ! アイツをふん掴まえて解毒剤を出させよう」


フカオが顔を上げると、遠くでネネオが猿蠱とその術師を(くび)り殺していた。

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