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蠱術師ナアハと鼠蠱の"ちゅう"  作者: 岩佐茂一郎
41/57

其卌壹

「ミクズよ、何やら言い争っておるぞ」


新たな闘いを期待していたのに何も始まらないと皇帝シリガイは愛する后に不平を漏らす。


「ここまで減れば必ず最後の一人になるまで闘いますわ」


ミクズには自分の咒の影響下にある者の見分けがついていた。


倍以上の差がある。


無論、影響されていない者の方が少ないので、その者達も身を守るために闘わざるを得ないだろう。


だからミクズはにこやかにシリガイに応じたのだが、気になるのはあの鼠だ。


主の術者も咒の影響下にない。


あれだけの蠱を造るのだから当然、咒にはかかりにくいだろう。


それはいい。


問題は彼女がまだ十かそこらだという事だった。


さっきまではまさかこんな事になると思っていなかったので特に注目していなかった。


だから本当に少女なのか、小さな大人なのか判然としなかったが、今は輪の真ん中で何やら怒って地団駄踏んでいる姿がよく見える。


やはり子供だった。


(あんな小さな娘に造蠱が出来るなんて……それも虎蠱を倒すような強力なものを。私がここへ上がったときよりも若いじゃない)


ふと、昔を思い出すミクズ。


そうだ、私はこの国と同族に復讐をしているのだった。


意外なところでミクズは初心を思い出した。


そして、


(誰が勝っても……)


復讐の最後の駒としては十分ね、と、ほくそ笑んだ。




《どのような理屈を付けようと、己が欲を通そうとしておるだけではないか。なんとも醜い》


突然の頭の中での声。


自分の蠱からの念話ではないし、そもそもこの白蛇蠱にこれだけの複雑な言い回しなどできない。


「誰ッ!?」


予期していなかった強敵が現れたのかとチェナカが見回すが、


《己の目は節穴か。役に立たぬのなら、くり抜いてやるぞ》


「ね、鼠?!」


どうやら目の前の鼠蠱からの念話のようだと理解し驚愕するチェナカ。


周りの蠱術師の反応から、皆にも聞こえている事が分かる。


「これだけの人数に……」


鼠蠱が複数人に同時に念話を飛ばすなど、実際自分でそれを受けてはいるがどうしても信じられない。


それほど蠱術師の常識では鼠蠱は下等なものなのだ。


なのにこの鼠蠱は、ただ念話を使うだけではなかった。


《蠱術師には侵略を批判する資格がないだと? そんな屁理屈が通るか》


「へ、屁理屈ですって?!」


《造蠱は自然界の縮図。喰い喰われる関係を濃縮したもの。その濃縮により我ら蠱には力が宿る。これを知らぬ者こそ蠱術師を名告る資格などない》


「し、知っているわよ!」


《知っているなら、おかしいではないか》


「何が!?」


《お前が造蠱と侵略とを同じにするのがだ》


「何がよ? 何もおかしくないじゃない!」


《いいや、おかしい。人族の侵略は不必要な殺しだ。お前らに宿るものなどない。得られる富の代償は、延々と背負わねばならぬ恨みではないか。蠱術とはやはり、違う》


フカオ達も呆気にとられてちゅうを見る。


ついさっき虎蠱を倒し、力を取り込んだ事でナアハ以外とも念話で話せるようになったのは知っていた。


だが、これほどまでに高度で複雑な会話が出来るなどとは思いもしなかった。


主であるナアハもフカオ達とは違う理由で目を丸くしている。


ちゅうが説いた造蠱が残酷でない理由が、バアバがナアハに聞かせたのと同じだったからだ。


それだけではない。


自分が蛇蠱の主に言いたかった事もちゃんと言葉にしてくれた。


しかし、喝破された形のチェナカは、鼠蠱の言葉を深く吟味しようともせずに、ただ、


「な、生意気な鼠だね! 喰っておしまい!」


自分の白蛇蠱を(けしか)けた。


シュルシュルシュルと這い寄る白蛇蠱の行く手へ大将を出して食い止めようとするフカオだが、その大将の前にネネオの蝦蟇蠱が立ちふさがった。


他の蠱術師とその蠱は傍観・様子見を選んだ者もいれば、包囲を狭めようとじわじわ近づく者もいた。


その中の一匹は四人が広場に出て最初に遭遇したあの青い顔の猿蠱だった。


猿蠱は遠くからナアハ達を狙って投石している。


幸い制球力はよくないので外れてばかりだが、投げるのは拳ほどの石だ。


頭にでも中たれば大怪我をするだろう。


そして石は足元にいくらでも転がっている。


「ちっ、うざってえな」


近くに落ちて転がって来た石を避けながら舌打ちするフカオに、


「フカオさん、あっちをお願い。蛇は私達でなんとかする」


ナアハがしっかりとした口調でそう言う。


フカオはナアハが冷静さを取り戻せていると見てとり、


「お、そうかい? そりゃ助かる、じゃあ……」


苦手の蝦蟇蠱と正面からやり合う愚は冒さず、大将に大蝦蟇を誘いながら猿蠱へ向かうよう命じる。


蝦蟇蠱はあまり頭が良くないようでその誘いに乗ってついてゆくが、鈍重なので追いつけない。


猿蠱はというと、勢いよく向かってくる蜈蚣蠱を見つけて逃げ出す。


これで蝦蟇蠱を追い払い、投石をやめさせるのに成功した。


イサは囲みを狭めてくる他の蠱達への牽制に蜂蠱を飛ばす。


ともかく四方を囲まれて攻撃されるのは分が悪すぎる。


どこか少しでも有利に闘える場所に移りたい。


チトサの蝙蝠蠱がそんな地形はないかと探しに飛んだ。


そしてちゅうは、天敵である蛇蠱、それも眼鏡王蛇(キングコブラ)の白子という上位種の蠱を迎え撃つ為に進み出た。

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