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蠱術師ナアハと鼠蠱の"ちゅう"  作者: 岩佐茂一郎
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其廿捌

(どうする?)


前から迫るのは十ほど。


ここでセタが一瞬だけ振り返ると、追いかけてくるのも同じ位の人数。


挟まれた。


どうせ同じ数ならば、前に進む事にしたセタ。


万が一ここを切り抜けられたとして、その後は都に逃げ込んだ方が逃げ切れる公算は高い。


なるべく剣を合わせずに、逃げに徹したい。


足が止まって囲まれれば間違いなく助からない。


セタは覚悟を決め、走りながらどこが一番手薄かを見極めようと目を凝らすと、


(?)


その一団の中に知った顔がいる。


あの裏口から逃してくれた飯店の若い給仕だ。


彼もセタを認め、


「ああ、間に合った! さあ、こっちです」


セタを保護するように腕を回すと、他の男たちはその横を走り抜けて追手に向かっていき、切り合いが始まった。


その様子を呆然と見ながら、


「……どういう事だ?」


セタが尋ねると給仕は、


「主があの後、やはりお一人では心配だ、と言うんでね、無事に都から出るまでは遠くから見守ろうという事になったんですよ。そうしたら、お客さん、都から出ずに、商会館に入っていっちゃうじゃないですか……」


しかもその後も逃げるのではなく離宮へ向かってしまう。


これは放っておけない、と助けに来たのだと言う。


色々と分からないが一つ確かなのは、


「と、いうことは、私は、……助かったのだな?」


「そうですよ。お客さんは運がいい」


その返事を聞き、先程まで死を覚悟していた緊張が解け腰が抜けそうになるセタだが、


「私のために犠牲が出てもいけない」


剣を握り直すと、乱闘の中に戻ってゆこうとする。


しかし、


「その必要はありませんよ。こっちは手練(てだれ)(そろ)っているんでね」


給仕の言う通りそれは、程なく決着した。




庭園に戻ろうと移動する前に、フカオは懐から出した何かを地面に設置した。


「おう、待たせたな」


何をしていたのかの説明もなしに歩き出すフカオ。


「何してたの?」


チトサが尋ねても、フカオは、


「すぐに分かるって。ほら行くぜ」


としか応えない。


待たせたくせに何よ、とチトサが(むく)れるが、移動し始めてすぐに、


ボフッ シュウウゥ〜ッ


聞き慣れない音がしたので振り返ると、狼煙(のろし)のように細い煙が空に向かって伸びていた。


「生き物じゃなきゃ閉じ込められないんだろ? あれを仕込んでみたんだよ」


と、フカオ。


「あれは?」


横を歩くナアハが尋ねても、


「玩具みたいなもんさ」


と具体的にあれが何かは応えず、


「何とか外と連絡取れねえかって思ってな。試しにさ」


とだけ言うフカオ。


ナアハは、この人は秘密が多いな、と笑って深くは追求せず、もう一つだけ訊く。


「誰か助けに来るの?」


「そうなるといいと思ったんだがな。期待しねえで待ってみよう。……そろそろだぜ」


フカオの言う通り、広場まですぐの所に着いた。


茂みからは出ずに四人は打ち合わせどおりに動く。


チトサの蝙蝠蠱(へんぷくこ)斥候(せっこう)にもってこいだった。


皆が林に身を隠したまま、蝙蝠だけが飛び立ち状況を探る。


「すぐ近くにいるわ。……三人、三人よ」


蠱と視界を共有しているようで、目を瞑りながらチトサがそう知らせる。


「三人? 二、一で闘ってるのか?」


フカオの問に答えるためチトサは蝙蝠で探っているらしく、やや間があって、


「違うみたい。三つ巴で争っているから膠着状態になっているっぽいわ」


そう言って目を開けた。


「なんだそりゃ?」


鼻で笑ったフカオは、明闘に慣れてねえ奴らだな、なら何とかなるか、と口角を片方だけ上げた。


「何で?」


ナアハに訊かれ、


「強いもんどうしが組んで弱いのを倒してから残った二人で決着を付けるとか、弱いもん同士が組んで強いのを殺るとか、いろいろあんだろ」


そう応えたフカオに、


「旦那。そうやってアタシ達を利用して最後に殺そうって魂胆じゃないでしょうね?」


チトサがじっとりとした視線を向ける。


「ケッ、なわけねえだろ。疑うんなら、止めはお前の蠱が刺せよ」


ここが造蠱の仕掛けの中なら、止めを刺したものが力を得てさらに強くなるはずだ。


心外だぜ、という顔のフカオがそう言うのに対し、


「そうしたいけど、出来ないわ」


チトサの蝙蝠には攻撃の(すべ)がほとんどないらしい。


「よくそんなんが造蠱甕(ぞうこがめ)で生き残ったな」


呆れた様子のフカオだが、チトサは戻ってきた蝙蝠を左人差し指にぶら下がらせて、


「この子は赤子から私が血で育てたのよ」


右人差し指でその頭をくりくりと撫でた。


気持ちよさげにしている蝙蝠を見ながら、


「へえ、でも明闘で勝てなきゃしょうがねえだろうが」


更にそう言うフカオだが、


「強ければいいってわけじゃないじゃない」


自分の蠱が馬鹿にされたのかとムッとするチトサ。


「そうかね?」


ムッとしたところで事実だろ、と薄ら笑いするフカオに、


「蠱は使い方よ。明闘の強さは蠱の一面でしかないわ」


ナアハがピシャリと言った。


「お?」


意外なところからのまっとうな反論に驚くフカオと、その意外な援護射撃を、


「ナアハちゃん、分かっているじゃな〜い!」


喜ぶチトサ。


実際、蠱術師には女性が多く、男は珍しい。


女性の蠱術師は蠱を様々な用途で使うのに対し、男は明闘で強いだけの蠱を造る傾向がある。


「男って馬鹿よね、すぐ強いとか弱いとか言いだして、そればっかり!」


女性三人は、フカオが世の浅はかな男性代表であるかのような軽蔑の眼差しを向ける。


形勢逆転となり、


「ま、まあ、斥候に出て情報を持ってきてもらえりゃ確かに楽だしな」


仕方なしに、負けを認めたフカオ。


話の決着が着いたところで、よし行くか、という事になった。

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