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蠱術師ナアハと鼠蠱の"ちゅう"  作者: 岩佐茂一郎
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其廿壹

「ほう、これだけ集まったか。どうだ、ミクズ、足りるか?」


高楼の男の方がそんなふうに傍らの女に尋ねると、


「ええ、陛下。十分ですわ」


おほほ、と満足そうに笑いながら女が応えた。


耳敏い者がその会話を聞きとり、


「陛下、と言ったぞ……」


更にざわつきが大きくなる。


「後は任せる」


そう言い残し男は引っ込んでしまった。


残った女の、


「ようこそ蠱術師の皆さん」


特に張り上げたわけでもないその声は、不思議とよく通り全ての蠱術師に届いた。


術者達が釘付けになる。


「私は皇后のミクズよ。知っているでしょ?」


ニヤリと笑う。


皇后は絶世の美女だと聞いていたが、それ以上だった。


しかしナアハの目には、


(何だろう? あの人……美人だけれど、美しくない)


と映った。


ちゅうもナアハの懐から少しだけ顔をのぞかせ、鼻をぴく付かせながら皇后を見上げている。


皇后ミクズは扇で口元を隠し、話を続けた。


「遠い所、ご苦労だったわね。集まってもらった理由は噂で聞いているでしょ?」


そんなことより、と術師の間から声が上がる。


「な、何故この様に兵で我々を囲むのですか?!」


集められたのは新組織の立ち上げのためだとばかり思っていたのに、これでは敗戦国の民ではないか。


そんな声のした方をじろりと見遣ったミクズは、まあ良いわ、というように小さく溜め息をついた後、


「もちろん逃さないためよ。逃げられては困るの」


そう応えるので術者達が、 どういう事だ? 何を言っているのだ? とまたざわめく。


扇を顔から外し、術師達の視線が集める事で静かにさせると、


「集まってもらった理由(わけ)を話しているところだったわね。それを聞けば分かるわ」


扇を折りたたんで、


「私達は最強の蠱術師が必要なの」


クイッと手首を返す様に振る。


その仕草が合図になっていたようで、兵たちは後退(あとずさ)るように術者達と距離をとると、くるりと反転して駆け出し、あっという間に林の中に消えてしまった。


蠱術師達は兵が引いた事に気付き、逃げられるのか? と様子を見ながら動き出す者が半数。


残り半数はミクズから目が離せず、動けずにいる。


そんな様子をミクズは何も言わず微笑んで見ていた。


ナアハはその笑みに寒気を覚える。


そこへ、


《我が主よ、この場を離れよ》


ちゅうからの念話が響いたが、言われるまでもなく危険を感じていたナアハは目立たぬように林へと逃げこもうと移動を始めていた。


「ふふふ、どうせ逃げられっこないわ」


散っていった者へミクズはそう笑い、自分を見上げたまま動けずにいる術師へと目を移すとこう宣言した。


「今からこの中で誰が一番強いのかを決めてちょうだい。勝ち残った者には栄華を約束するわ」


皇后のその言葉に、思った通りだ、選ばれれば出世が待っている、と色めき立つ。


だがその歓喜は次のミクズの一言で困惑へと変わった。


「さあ、己が最強だという事を示しなさい! 殺し合うのよ!」


どういう事だ? 殺し合い(・・・・)と言ったぞ?


明闘に制限をかけないという意味なのか?


その困惑は、やがて狂気を孕んだ殺意へと変わる。


手近な者へと自分の蠱を(けしか)け始め、ここそこで闘いが始まった。


最早目立たぬようにゆっくりと動いてなどいられない。


ナアハは林に向かって走り出した。


走りながらも、


(どうなっているのかしら? 何が起きているの?)


と考える。


王妃に命じられたとはいえ蠱術師同士が殺し合いをするなど信じられないが、ちゅうから手掛かりが齎された。


《我が主よ、あの皇后……何か変ではないか?》


「え?」


《もっと近づいてみぬ事には分からぬが、おかしな臭いがする。それにあの声、咒ではないか?》


「咒? 皇后様の声が? まさか……でも」


(しゅ)とは言霊(ことだま)を使った呪術の総称だ。


(のち)に幸いを祈るものを(しゅ)、不幸を祈るものを(しゅ)というようになったが、本来一つのもので区別はない。


言霊に正邪があるのではない。


使い手にあるのだ。


その使い手の力が強力なら、話す言葉そのものが人を動かす。


心の弱い者は簡単にその言葉に囚われてしまうだろう。


それが咒だ。


皇后になるほどの人物ならそれだけ強力な咒を声にのせることが出来ても不思議はない。


《でも何で殺し合い? 強さを示すのなら、殺さない明闘の試合でいいじゃない》


そうナアハに尋ねられたちゅうは、それには応えず懐から跳び出した。


どうしたの? とナアハが訊くよりも早く、


ガツッ!


ナアハの後ろから襲いかかってきた何かをちゅうが体当たりで防いだ。


「何よ、知り合いの(よしみ)で楽に死なせてあげようと思ったのに……抵抗するの? 鼠なんかで」


声の主は……キユだった。

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