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蠱術師ナアハと鼠蠱の"ちゅう"  作者: 岩佐茂一郎
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其貳

シャアアッ!


全くの暗闇で視力を封じられ苦戦する猫。


猫の視力は人ほどよくはないとされるが、それは像の鮮明さが劣るというだけだ。


暗闇の中でもほんの僅かな光さえあれば見えるという点では人より優れている。


だが、その目が今は一切役に立っていない。


この空間が僅かな光すらない真の闇である為だ。


目がだめなら耳だが、頼りの聴覚では其処(そこ)彼処(かしこ)から響いてくる毒虫達の(うごめ)きの所為(せい)で蛇の動きを捉えきれない。


一方、光がなくとも熱感知能力を持つおかげで通常通り闘える蛇。


一見すると蛇が有利だが、体格差がある。


攻撃手段である締付けで何とかできるほど猫は小さくない。


喰うには丸呑みするしかない蛇だが、顎を外したとしてもこの大きさの猫を丸呑みするなど、蛇には無理な話だった。


だが喰えないからといっておとなしく喰われてやるわけにもゆかないので、蛇は襲ってくるこの猫を毒で止めるしかなかった。


あっちに旨そうな鼠が落ちてきたが、あれを喰うためにも蛇は猫を倒すしかないのだ。


ただでさえ猫の分厚い毛皮によってその毒を皮下へと届けるのは難しいのに、蛇が噛み付いても猫は前足や牙で直ぐにそれを払ってしまう。


対して猫が蛇を抑えようとしても、グネグネと動くうえに滑る胴体はそれを許さなかった。


お互い決定打に欠け、ダラダラといつまでも続くかと思われた闘いの均衡が崩れた。


蛇の噛みつきは払っても切がないと学んだ猫。


振払わず左肩に噛みつかせておいて、蛇の胴を両前足で抱え込み、蛇の頭近くを咥える事に成功した。


後は蛇が如何にのたうち暴れようとも、放さず噛み千切るだけだ。


毒牙を突き立てられた左肩が痺れて動かなくなってきたが、それでも両前足で挟み込んだ蛇の胴を一層しっかり固定し一気に頭を持ち上げて引きちぎりにかかると、


ブチブチブチッ


千切れる音とともに肉が裂け、血管、脊髄や神経が伸び、血と体液が飛び散る。


猫は勝利を確信し、(りき)みすぎた所為で軽く痙攣している顎を開くと咥えられていた蛇の頭がボトリと落ちた。


まだ蛇の体はのたうっているが、それもじきに動かなくなるだろう。


後は喰うだけだ。


が、今は疲れた。


左前足も動かない。


いや、左前足だけではない。


何度も噛みつかれたいろいろな箇所は、今になって毒が効いてきたようで力が入らなくなっていた。


だが蛇を倒した今、この空間には危険な存在等いないはず。


十分に休養を取れば毒も消えるだろう、と腰が抜けたように座り込んだ猫の背中に、鋭い痛みが走った。


フギャァァッ!


驚いた猫が声を上げ反射的に体を(ねじ)ると、その痛みの原因は猫の背から飛び降りる。


鼠だった。


蛇との闘いで傷ついた今を措いて、猫を倒せる機会などないと断を下した鼠が仕掛けたのだ。


如何(いか)に激闘で弱っているとはいえ相手は猫。


普段の鼠なら決してそんな行動は取らなかっただろうが何故か、


(いける)


そう感じた鼠は、湧き上がる力に後押しされ猫に挑んだ。


毒の痺れで猫は体勢を崩し、倒れ込んだ。


その喉元目掛け突進する鼠。


猫もまさか鼠がそのような捨て身の、しかもいきなり急所を狙って攻撃してくるなど予想もできず、


がぶりッ!!


もろに喰らい付かれた。


猫が、


マズイッ!


と鼠を前足で引き剥がしにかかった事が仇となる。


その己の動きによって、猫の動脈は完全に切断されてしまった。


直ぐに猫の意識はフゥーと遠退(とおの)き、苦しむ間もなくそのまま、息絶えた。


(やった!)


鼠が猫の死を感じ取ったその時、


ドンッ!


(何だ?!)


鼠の内で異変が起きた。


今までの高揚感とは比べ物にならない何かが湧き上がってくる。


チュウゥゥゥゥウウウッ!


奇っ怪な雄叫びを上げた鼠はその力に任せ、生き残っていた毒虫たちを蹂躙していく。


そしてこの空間で息をするものは、鼠だけになった。

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