第一話
〈1614年・マーシェン魔術校にて〉
「シェリーヌです。お話があると伺いましたが」
重厚な、滑らかな見た目の木の扉を2回ノックする前に扉が開き、私の体は闇の中に引き込まれた。
カーテンで閉ざした窓を向き、手に持った黒い水晶をいじっていた学園長は私が部屋の中に入ったのを確認して執務机の上に一つだけ置かれたランタンに火を灯した。
「フィーユ皇国のある魔術校から交流戦の申し出がありました」
黒い水晶を空中に投げた学園長は私の方へ一枚の書状を投げて寄越した。
「何故、このタイミングでフィーユから交流戦の申し出が?」
私の生まれた地フィーユと現在住まうマーシェンは、私が引っ越してすぐに魔晶窟を巡って争いをしていた。多くの戦死者が出て、ついにフィーユ皇国の第三皇子が死ぬと休戦協定が結ばれた。一年前に休戦して少し緊張が溶けてきたとは言え、多くの人が身内をフィーユ人に殺された。いくら穏やかな性格と言われるマーシェン人もフィーユ人を歓迎できるはずもない。
勿論逆も然りだ。
「それに、密偵を送ってくる可能性もあるのでは。現在休戦しているとはいっても、それは休戦であってこの不毛な戦いが終わったわけではない。卑劣なフィーユ人なら密偵を送ってくることもあり得ます」
嫌悪感をダダ漏れにしてそう吐き捨てると学園長の闇のような瞳が一瞬だけ揺れた。
しかし、それは一瞬。
いつものような、どこを見ているのか分からない瞳で私が手に持つ書状を指し、読むように言った。
「そこにあるのはバルナーヴ皇子が書かれた書状。第二皇子は密偵等のスパイは送らない、今回は純粋に交流を楽しみたいんだ、と書かれています」
フィーユ皇国第二皇子の名前が出た途端、身を強張らせた。
バルナーヴの実の弟はマーシェン人の誰かに殺されたのだ。それなのに、その相手のいるマーシェンに楽しまないか、と言えるだなんて、本当にフィーユ皇族は冷徹な人間が多い。
冷徹故、あのフィーユ人は私の目の前であのようなことが出来たのだ。
「学園長はどうお考えですか」
この魔術校において学園長の考えは絶対だ。私を呼んでいると言うことは学園長の中で既に答えが出ていると言うこと。
案の定、迷うことなくその問いに答えた。
「受けようと思います。私はするべきだと思っていますし、フィリー皇子もイル皇子もその意見に賛同してくれました。シェリーヌさん、お願いできますね」
私は無表情で頷き、質問をする。
「フィーユのどの学校と交流戦をするのでしょうか」
フィーユには三つ主要な魔術校がある。三分の一の確率で私の通っていたところになるが。
「フィーユ学園ですよ」
喜ぶべきか、悲しむべきか。
「そう、あなたの通っていた学園です」
年齢不詳の学園長がくつくつと嗤った。
「そして、あなたの想い人の通う学園でもありますね。まだ全校生徒に知らせていませんし、あちらの生徒が寝泊まりする場所も決まっていません。しかし、日程を考えるとこれから一ヶ月後しか双方空いていませんでした」
「つまり、その調整を私がしろ、という事で?」
「ええ。フィーユの学生の住む場所、協議内容を明日来るフィーユのティフスと共に考えて欲しいのです。出来ますね?」
否、という答えを学園長は望んでいないのは明白だった。
「学園長の仰せのままに」
「そう言うことだから。よろしくね」
右手をひらりと振ったのが見えた後、私の体は宙に投げ出された。天空にある学園長室から生徒を投げ出すとは。
慌てて転移魔法を発動させて廊下に着地した。
結えていた髪が解け、頬を撫でた。
息を吐いて壁にもたれると制服のポケットがカサリと音を立てる。どうやら転移前に学園長は紙を私に預けたらしい。
『ティフスとしての務めを果たしなさい。貴女がずっと探しているものはその先にある』
私がずっと探しているもの。
その言葉に私は手を強く握りしめた。
先程無理矢理追い出されたせいで解けたリボンを拾う。肩の上で切りそろえた髪が顔に当たって鬱陶しい。リボンを結び終えた瞬間に誰かが私のリボンをほどいた。
「あっ、おい」
振り返ると学友にしてマーシェン皇族第一皇女のローズが嬉しそうに立っていた。
「シェリーは今日はもうリボンを結べません! やったね」
何がやったね、だ。得意げなローズの姿を見て私はため息をついた。
「あっ、まーたため息ついてる。そんなんだから幸せが逃げるんだぞ、年増、って言われるんだぞ」
余計なお世話だし、私にため息をつかせている原因の半分がローズなのだが。それを分かって言っているのか。
「一体何処を通って来たんだ。全身葉っぱだらけじゃないか」
ローズに付いている葉っぱを払い、手に握られていた私のリボンも取り返した。
「あ、これ? ちょっとワープ失敗して庭園にダイブしちゃったんだ」
床に落ちた葉を処理したローズはリボンを取られていることにまだ気付かない。気付かずに、食堂の方を指差す。
「お腹空いたし、ご飯にしよう。早く食べないとお兄様達が食い荒らしちゃう」
「食い荒らしてるのはどう見ても貴女の方でしょうが」
窓から差し込む茜色の光に目を細め、手を翳す。光が手の平に集まってきたところで空中に光を投げた。
「何度見てもシェリーの魔術は綺麗」
私とローズの体を光が包み、目が眩む。床が消え、水中にいるような感覚になる。私とローズの呼吸音しか聞こえなくなる。
「夜には魔力が弱くなるのがかなりきついが。夜の実技試練だけはどうにかしてなくしたいものだ」
光が空気中に消え、周りの音が戻り始めた。
「目、もう開けて良いぞ」
瞬間移動をする時必ず目を閉じるローズに声を掛ける。
「あれ、まだお兄様達いないんだ」
一般生徒が食事をする前の時間。ローズを含めて三人の皇族とその友人のみが口にできる食事がある。一般生徒には安価で美味しいビュッフェが出されるが、皇族には高価で希少な食材を使用した料理が出されるのだ。庶民出身の私は本来ならば一般生徒に分類されるがローズに懐かれ、ローズ唯一の友人になってしまった為にこの時間に食事をすることを許されてしまったのだ。まあ、食費は皇族が持ってくれているし、美味しいので文句はないが。
「そろそろ来るんじゃないか」
食堂の真ん中にあるテーブルに用意されている食事を見てローズは目をキラキラさせた。そして、席に座り、勝手に私の分の野菜を自分の皿に取り、肉を私の皿に移し替えている。
「何やってるんだ、ちゃんと肉も取れ」
ローズの隣の席に座り、指先を動かして移動させられた肉と野菜をもとの位置に戻した。
「ケチ。私はこの国の皇女だぞ、控えおろう」
口を不満げに膨らませるローズを見ていて、ちょっとだけ甘やかしたくなった。
「仕方ない。今日はお腹の調子が悪いから野菜と肉、少し取り替えてあげるよ」
おなかの調子は悪くもなく、良くもなかったが素直に変えてあげる、というのも癪に障るのでそう言った。
「わーい、ありがとう、やっぱりなんだかんだ言って優しいよね」
遠慮という言葉を知らないローズは私の野菜のほぼすべてを持って行ってしまった。やはり、明日からは甘やかすのはやめよう。そう思いながら頂点に鎮座するトマトをつまんだ。口に入れようとした瞬間に後ろから声をかけられた。
「やあ、ローズにシェリーちゃん。今日も可愛いね」
「……思ってもいないことを言うのは良くありませんよ、フィリー皇子」
見目が良く、浮ついた言葉を吐くのが得意な第一皇子がやってきた。私より一つ年上だ。フィリー皇子はローズの前に座る。
「思ってもいないなんて決めつけは良くないよ、大体が上辺の言葉だとしても……ふぐっ」
「ごめんね、遅くなって。変なのに絡まれて不安だったでしょう、今日はちょっと巻くのに手こずってしまって」
フィリー皇子の頭を後ろからがっしりとつかんで私に微笑むのは第二皇子のイル皇子だ。眉目秀麗とはこの人のことを言うのだなあ、と感じるくらいのすごい人だ。婚約者のいない彼は毎日のように御令嬢に言い寄られている。さっきまで言い寄られていたのだろうか。しかし、女は嫌いだ、と言っておきながら私には近付いてくる、変な皇子でもある。優男風のイル皇子はお近づきになりたい人物ランキング一位だ。ただ、時折悪気のない毒を吐いてしまうという欠点がある。
「大丈夫です。変なのには慣れていますから」
イル皇子は私の返答に苦笑を返し、私の前に座った。
「皆揃ったし、交流戦について話し合おうか」
フィリー皇子が言うとローズが野菜を口いっぱいに頬張りながら問うてきた。
「ほうりゅうへん? なにほれ」
「フィーユの学校と交流戦をしないか、とあっちから持ち掛けてきたんだ」
「おもひろほうひゃん」
「でも、フィーユとだぞ。仲良く楽しもうなんて関係じゃない。それに、この交流戦を持ち掛けてきたのはあの皇子だ」
「あの皇子って誰」
ようやく口の中の食べ物を飲み込んだローズが水を飲みながら聞く。
「バルナーヴ皇子だ」
吐き捨てるように私はその名を言う。そして、食べ物を口に放り込み、憎々しいその人を噛み砕くかのように何度も食べ物を咀嚼した。それからハッとして何も知らない顔で水を飲んだ。
「そう。あの皇子が提案者と言われるとね。単純に楽しもうなんて考えなさそうだし」
イル皇子が少し眉を顰める。皇族同士で会った時に嫌なことでもあったのだろうか。嫌そうな表情である。
「でも、あの冷徹皇子だって私たちとほぼ同じ年齢なんだよ。純粋に楽しもう、と思う時だってあるんじゃないかな」
イル皇子の言葉にさらっと返すローズ。
「まあ、明日バルナーヴ皇子が提案者兼ティフスとしてマーシェンに来る手筈だからその時に決めよう」
フィリー皇子はどことなくうきうきしている。交流戦に前向きっぽい。
「兄上は交流戦に賛成なのか? ぼくは反対なんだけど」
「賛成だよ、だって魔術対決が出来るんだぞ。最高じゃあないか。実践は素晴らしい」
座学で単位を落としまくっているフィリー皇子だが、無駄に魔術は強い。魔術に長けているフィーユ人とどれだけやり合えるか試してみたいのだろうか。
「シェリーはどうなの? やっぱり反対?」
「……ティフスとしての私から言えば賛成。フィリー皇子の言う通り、私たちにとって良い経験になるから。皇子が刺客を送らないと明言している以上、マーシェンにマイナスになるようなことがないから」
「でも、立場とか関係なく、素のシェリーは反対意見だということなんだね」
ローズの言葉に首を横に振った。
「賛成、反対とかではなく、ただ単に怖い。何かしてしまうんじゃないか、って。でも、そんな私情を挟んで決めるべきことではないから。ちゃんと明日、感情抜きにして判断する」
「つまり、フィーユ人を憎んでいるはずの自分の初恋相手はフィーユ人だということにどう対処して良いのか、その相手が敵国にいる自分を嫌っていないか、もっと言えば忘れているんじゃないのか、と不安なんだね」
イル皇子が優しい眼差しで、じくじく痛む心の奥底を抉ってきた。でも、それだけじゃない。
『そんな、勉強に不必要な感情は持ち合わせていない』
そう言えなくなったのは、一体いつから? いずれ再開してしまう戦争でその相手と鉢合わせした時、私はどうするのだろう。交流戦という殺し合いをしない場面でさえ、相手を傷つけられないかもしれないのに。
「辛くなったらちゃんと相談してくれ、力になるから」
フィリー皇子が手を伸ばし、私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「……ありがとう」
フィリー皇子の指に絡む黄金の髪は、皇族の三人と色が違う。皆は黒色。この国の者は皆、黒髪だから私のは目立ってしまう。フィーユの者の色となると、なおさら。
三五〇年。今はフィーユ皇国である場所は元々はヴァンヌ民国という、民主主義国家だった。その頃からあるマーシェン皇国とは仲が悪く、ヴァンヌ民国でマーシェン人を見つければ皆で殺していた。しかし、ヴァンヌ人はマーシェン人に何かされたわけではない。ただただ訳もなくマーシェン人を排除していた。そして、ヴァンヌ人がマーシェン人を殺し始めて三十年が過ぎ、ようやくこの状況をおかしいと思う人物が現れた。その者の名はフィーユ・ゼレスと言い、ヴァンヌ民国に数少なくいた貴族の一人だった。ヴァンヌ政府の最高為政者、ルペスに状況のおかしさを直々に言うも、理解されず、反逆者か、と言われてしまう。ヴァンヌ民国に多くの人を殺されながらも友好的な関係を築こうと模索している、というマーシェン皇国の意見を知ったフィーユ・ゼレスはマーシェン皇族と接触するためにマーシェンへ秘密裏に入国する。まず、マーシェン皇国に入って助けを求めた場所は数多くの魔術師を育成し、皇族も通っているというマーシェン魔術校だった。
『ゼレス家のご子息か。よくマーシェンへの入国を許されましたね』
艶やかな黒髪をふんわりと巻いた、柔らかな人が迎えてくれた。マーシェン皇国で一番の魔術をもつ魔術師と謳われるペティナは、思っていたよりも若かった。ペティナが指を動かしただけで椅子が動き、フィーユ・ゼレスの前に香りの良い茶が入ったカップが移動する。
『猛反対されると思いましたので内緒できました』
苦笑してみせるとペティナが頷いた。
『つまり、両親の助けが得られないのでわたくしからマーシェンの皇族へコンタクトを取ってほしいというわけなのですね』
『そうです。ルペスに言っても反逆者扱いされるし、母国でできることがないので』
ルペスの顔を思い出してしまい、吐き気を感じた。
『では、まずわたくしがヴァンヌへ行き、どのような状況かを見ても良いでしょうか。前々から探りを入れているのですがマーシェンに戻ってきたものがいないので情報が足りないのです。今、皇族とヴァンヌに行っても殺されそうなので対策を練りたいのです』
いつの間にかペティナは手に黒と白の玉を持ち、覗き込んでいた。
『構いませんが……』
『大丈夫、わたくしは簡単には死にませんので』
簡単に死なない、その言葉は正しくなかった。正確には、簡単には死ねない、だった。
「起きて、あと十分でバルナーヴ皇子がフォン寮に到着するから」
朝が弱いローズを叩き起こし、自分の髪色を黒にしておく。
「分かった……」
寝巻のまま部屋を出ようとしたローズを捕まえ、制服を着せてローズの髪を梳く。
「朝食はどうするの」
「フォン寮でバルナーヴ皇子をお迎えしたらそのまま朝食だ。それまで我慢して」
「へー」
まだ夢の中でうつらうつらしているローズの身支度を終わらせ、口にクッキーを放り込む。机の上に置いていたティフスのペンダントを取り、首から掛けた。瞬間、景色が変わり、白を基調とした、冷たい空気に満たされた場所へ移っていた。
「寒いっ」
ローズがやっと目を覚まし、クッキーを食べ始めた。クッキーの割れる音が響き、不気味に感じる。
フォン寮と呼ばれるここは昔、マーシェン魔術校に七つの寮があった時代に一番魔力の高いものが入る寮だった。歴史に名を刻む魔術師のほとんどがフォン寮出身である。現在は寮が存在しないため、普段は使われていない。皇族の会議、他国の重要人物のお出迎えなどの特別なことがない限り、学園長から使用許可が下りないのだ。
「遅かったね、二人とも。ギリギリだよ」
すでにフィリー皇子とイル皇子はフォン寮に着いており、いつもと違う、皇服を身に纏っていた。銀に輝く、細い糸で編まれた皇服は毎年作り直されているという。私は声を掛けてきたイル皇子にお辞儀をした。フィリー皇子は大理石の上に薄く積もった埃を払っていた。
「ローズがなかなか起きなくて」
「まあ、いつもの事だな」
むしゃむしゃとクッキーを頬張るローズを指差す。そして、イル皇子に問う。
「バルナーヴ皇子ってどんな人なのでしょうか」
冷氷の国と言われるフィーユの皇族はとても冷たい人が多い。マーシェン皇族から見たバルナーヴ皇子の印象が気になった。
「一言で言えば、青白い炎かな」
翠眼を細め、イル皇子が言う。
「見た目は冷たそうだけど、中はとても情熱的。とても賢く、恐ろしいくらい整った顔立ちだ」
「フィリー皇子やイル皇子よりもですか」
茶化すと、イル皇子は厳しい目で私を見る。
「世の中、人とは思えない人もいるんだよ、バルナーヴ皇子の美貌によって死んだ人は数えきれない。……そんなあほな話はない、って思ったでしょう。でも、彼はそこに存在するだけで人を殺せるんだよ。自分を見失わないように、ちゃんと掴んでおいて」
最後の言葉が重々しく響く。
「分かりました」
頷くとイル皇子は表情を和らげ、私の、一つに結んだ髪をゆっくりと手で梳いた。
「黒く見せても、あの皇子にはばれるだろうね」
フォン寮中央部から無数の金属音が流れ出す。フォン寮に生徒が居た頃、ある生徒がかけた魔術で、古の音で訪問者を知らせる。この音を魔力の弱いものが聞くと体調を崩す。
『バルナーヴ皇子が来られた。ティフスとして務めを果たせ』
首のペンダントが赤く光り、脳内に声が流れ込んできた。
『勿論そのつもりです、学園長』
フォン寮の最上部にいた私たちは中央へ行き、丸く彫られた、一段低くなっているところへ立つ。
「マーシェン皇族第一皇子、フィリー。皇族の命である。地下、談話室へ」
イル皇子と同じく、皇服に身を包むフィリー皇子は魔術ノ円に手を翳して高らかに言った。
その時、ずきりと頭が痛んだ。脳内に流れる、自分と同じ髪色の青年の記憶。
『気を付けて』
青年が目の前にいた。青年の言葉に答えようと口を開いたとき、ローズにつつかれ、はっとした。青年は消えていた。私はペンダントを手で包み、心の中で呟いた。魔術ノ円が輝き、思わず目を閉じた瞬間、床が落ちた。風で舞い上がる髪の向こう、陽炎のような青年を見た。何か言っているが聞こえなかった。落下を続けていた魔術ノ円が静止した瞬間、青年は消えた。
「あのっ」
呼びかけるが、返事はない。
「どうしたの、急に」
三人がいぶかしげな顔で私を見ていた。
「さっき、人がいて……」
フィリー皇子が首を横に振った。
「ここには、僕たち四人しかいないよ」
では、さっきの青年は幻なのか。若しくは、フォン寮に強い記憶を持った、迷い魂か。
「でも、あの人はフィーユ人でしたよ」
あの髪と目の色は、父と同じものだった。
「ありえないよ、幻だ」
フィリー皇子が笑った。
「緊張しているんだよ、大丈夫だ」
そして、目の前にある扉を指差した。
「ティフスであるシェリーにしか出来ない仕事だ」
選ばれたものしか開くことのできない扉の前に誘われた。
私は先程の幻影を忘れることにして、ペンダントを取り出し扉にあるへこみに差し込んだ。