第一章「誰がために反旗は翻る」の弐拾壱(第一章完結)
わしは「遊撃隊」の者に頼んだ。
「砦に『猪』や『鹿』の肉を干したものが保管してある。あれなら今のおとかにも食える筈だ。持って来てくれないか?」
「はっ」
「遊撃隊」の者は返事をするが早いか、砦に向かった。
「遊撃隊」の者たちも、おとかを慕っているのだろう。
「まったく……」
わしはおとかの臥す床の脇に座った。
「毎回毎回、おまえはわしは驚かせて。初めて会った時からそうではないか」
おとかは眠っているようだ。
「今回のこともそうだ。敵の兵糧を焼かないで、『妖術』で煙を立ち昇らせて、敵を敗走させた。そのこと自体はすごく助かった。これだけの兵糧が手に入れば砦は余裕で次の収穫まで回せるだろう…… だがな……」
わしはおとかの顔を見た。やはり、眠っているようだ。
「おまえが病に臥したり、ましてや、死んでしまったりしたら、そんなことは何の意味も持たんのだ。こんな無理をしてくれるな」
わしの眼から涙がこぼれ、一粒、おとかの顔に落ちたようだ。
「…… 佐吉って、案外、涙もろいんだね。これで泣くの見たの二回目だよ」
◇◇◇
「! おとか、おまえ、起きていたのか?」
「寝てるところをあれだけ脇でベラベラしゃべられちゃ、目も覚めるよ」
「一応聞くが、どこから起きていた?」
「『おまえが病に臥したり』あたりから」
うぐっ、一番聞かれたくない辺りではないか。
「もういいっ! サコとウタが『鼠』を獲ってきてくれるから、それまで寝てろっ!」
「あたしはさっきの話の続きが聞きたいなあ」
「やかましいっ! 寝ろっ!」
おとかはニヤニヤ笑いながら、目を閉じた。この分なら、大丈夫そうだな。
◇◇◇
「遊撃隊」の者がヨク殿からの伝言を持って来た。
曰く「一部の投降兵と元からいた者の間で仲の険悪化が出て来ている。出来るだけ早いうちに戻られたい」
「鼠」と「猪」や「鹿」の干し肉をたらふく食ったおとかはみるみるうちに回復した。これも「野生」の力か。
わしにおとか、サコにウタは砦に戻ることにした。
一段落ついたとはいえ、大変なのはこれからだろう。ヨク殿の言ってきたこともそうだが、今回の勝利で逆にこの郡の郡府は機能しなくなる。
都城の連中はどうして来る? 壊れた郡府にテコ入れをするのか? 放置するのか? どちらにしても、こちらが大変なのは変わりない。
ヨク殿とヒョーゴ殿の村は砦に入った。だが、同じ郡の他の村はどうする。わしらと組むのか? それとも……
どちらにしても、もはや反旗は翻された。前世では秀吉公や秀頼公のためだったが、今度は「民」のための反旗なのだ……
不意にどこからか声がした。
「本当にそうか? 貴様が翻した反旗は『民』のため…… だけなのか?」
わしは振り返った。だが、誰もいない。
おとかが怪訝そうにわしに問うた。
「佐吉、どうしたの?」
わしは答えた。
「いや、何でもない」
第一章「誰がために反旗は翻る」 完
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第一章「誰がために反旗は翻る」はこれで完結です。
第二章「敵は己自身?」は今現在連載中です(毎日21時に1話ずつ更新)。
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