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行き場のないカルロスの冒険とその終わり  作者: スーザン・ソンタグ・ラブ・エクスペリエンス
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熊のフランソワについて その2

熊のフランソワについて2


上司の頭を叩き割ったフランソワは、悠々と会社から出ていった。季節は6月で、夏の気配を感じる爽やかな日差しだったという。

気持ちのいい日差しに溶けたいような気分になったので、近くの公園のベンチで寝そべって、うとうとしていたら、いつの間にか熊になっていた。

ここまでがフランソワが熊になるまでの話。

フランソワが俺に話してくれた話には、いろいろと省かれていることがあったと思うけど、嘘はなかったと信じている。


フランソワは熊になったときから大きな熊だったという。熊になってすぐの頃はとても戸惑ったようだけど、なんとなく木の実を食べたり、なんとなく魚をとったり、なんとなく動物の死肉を漁ったりして、生き延びたらしい。やはり優秀な男なのだ、フランソワは。


俺だったらこうはいかないだろう。

俺がいきなり熊になったらどうだろうと考える。まずはとてもびっくりする。あまりにもびっくりするのでその事を語ることには意味を感じないくらいに。まともに体を動かすことができるだろうか?骨格とか筋肉の付き方なんかも人間とはぜんぜん違うだろうし、四つ足で森をかけたりなんてすごく難しそうだ。視覚はどうなんだろう?人間の目が捉える光と熊の目が捉える光は違うはずだ。

こうした諸々の苦労があるはずなのに、「なんとなく適応できた」と話すフランソワはやはり凄いよね。しかも、フランソワは雌熊と交尾して熊の子供まで作っている。いくら体は熊になったとはいえ、雌熊に興奮できるものなのだろうか?俺はそれについて怖くて聞けなかった。


この世界にも人間がいて、この森には猟師が狩りをしに入ってくる。猟師は銃を持っていて、熊を見つけたらよく狙いを定めて熊を撃って殺す。フランソワが最初に会った人間は猟師だった。草むらから銃を構えて自分を狙っている猟師。あと数メートルで射程距離圏内。

フランソワは逃げたほうがいいかなって思ったけど、この世界での人間とのファーストコンタクトだったので、なんとかして自分の中身が人間だということを伝えたいと思った。

しかし、どうしたものかと思っていたら、猟師がドスンと一発撃ってきて銃弾が頬をかすめた。銃弾は頬をかすめるものである。

フランソワは流石にビビりはじめた。ビビりはじめて「やっべえ」と思った。そしたら「やっべえ」が言葉になって出てきた。熊の口からフランス語で「やっべえ」って。「ウーラーラー」ってやつかな?

「あれ?なんで熊の口からフランス語がでてくるのかな?」って当然フランソワは思ったけど、今は命の危機まっさなかなので、考察はあとに置くことにして、自分はただの熊ではなく、文明化された熊だということを猟師に伝えよと思い言葉を発することにした。

「撃つのをやめてください。私には敵意はありません。いや、猟師というものは敵意がなくても動物を撃つものかもしれませんね。あのう、こんな身なりですが私は実は人間なんです」と言ってみたという。フランス語が伝わらないかもしれないけど、なにかしらの言葉を発する知性のある生き物だと思ってもらえるといいなくらいの期待感だったみたいだけど、なんと猟師は「あ、そうなんですか。あぶねー。撃ち抜くところでしたよ。すみません、すみません。あー、異界生物の方ですよね。めずらしいな」とフランス語で話しかけてきた。

フランソワは言ってみるものだなあ、と思ったという。



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