彼女のために作ったものについて
木の板を丸く切り出し真ん中に穴をあける。
それを四角い木の台のうえに乗っける。
丸い板の真ん中の穴にぴったり合うビスを入れて板と台を固定した。
丸い板に手をかざすと板はくるくる回った。
いい感じだ。
ラブエクスペリエンスの作る機械の複雑さに比すべきもない単純さであるが、僕とジェニファーにとってこれで十分だ。
作業が終わったので、ジェニファーを頭に載せて昼飯を食べに街に出ていく。
中華料理屋に行ってチャーハンを食べていると、顔見知りの旧宗教の青年が店に入ってきて、にっこりと笑って僕に手をふる。僕も手をふりかえす。
「元気でしたか?」と彼は僕たちに話しかけてきた。
「元気だよ」と僕とジェニファーが答える。
青年はこの島で会計の仕事を見つけたが、ラブエクスペリエンスへのレジスタンスのメンバーでもある。旧宗教のメンバーのうち若い者たちの多くはレジスタンスに参加している。
大陸に戻り各種政治工作をしている者も多いが、彼のようにこの島で仕事をしながらレジスタンスに参加している者たちは物資の調達やこの島にいる周辺諸国の外交官との交渉にあたっている。
ラブエクスペリエンス組織の元幹部である僕に対しても協力の要請があったが、さすがにそれは断らせてもらった。
「僕も元気ですよ。いろんなことをたくさんしないといけませんからね。元気じゃないと」と彼は笑って言う。
僕は「体には気をつけてね」と彼に言って、店を後にした。本当に体には気をつけてもらいたい。彼のような実直な若者が死んでいくのを僕はたくさん目にしてきた。
家に帰って、ジェニファーに僕が作った機械を見せてあげた。
「これはターンテーブル?」とジェニファーが言う。
「ターンテーブルってなに?」
「私の世界にあった機械。これに円盤を乗せて回すと音楽が流れるの」
「へー、すごいね。それは」
異世界の技術はやはりすごい。なんだか僕が作ったものがちっぽけに思えてきたが、勇気を出して僕は話を進める。
「僕が作ったのはそんなにすごくないんだ。でも、君と僕にとってはすごく必要なものだと思うよ」
僕はそう言ってジェニファーを「ターンテーブル」の上に置いた。それから自分の体をゆらゆら動かしながら、皿をキュイキュイと擦った。
僕が作るリズムに乗って、ジェニファーと僕はゆらゆら揺れる。
「君とダンスをしたかったんだ」と僕は言った。
「どうだい?」
「なかなかいい感じ!!」とジェニファーは言う。
「ダンスなんて何百年ぶりだろう!!」
彼女のスパンに及ぶべくもなかったが、僕も相当久しぶりだった。
久しぶりに踊ったらちゃんと楽しくなってきた。
今度、この機械を持って彼女とダンスクラブに行こうかなと思っていたら
「あ、ちょっと待ってね。あ、そのまま止めないで」とジェニファーが言う。それからしばらくジェニファーは黙っていた。
オーケー思いだした
今からすごいことが起きるわよ
「1!2!3!4!」というカウントが頭の中で鳴った。元気な若い男の声だ。
そして、頭の中で音楽が鳴り響いた。