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行き場のないカルロスの冒険とその終わり  作者: スーザン・ソンタグ・ラブ・エクスペリエンス
27/30

これからのことについて

「ラブエクスペリエンスにはちゃんとさよならを言えた?」

「言えたよ」

「おつかれさま」


ひととおり片付けや準備は終わった。

来週にはここを出ていくことになるだろう。

スルッポンと夕食を一緒に食べることにした。

スルッポンとはたくさん話すことがある。

僕たちは友達なのだ。


スルッポンの行きつけのレストランへ行った。

老舗の高級店だという。


「まずラブエクスペリエンスの名声は広く拡散してますます強まっている。今回のカルロスの件でそれは加速するだろう。みんながラブエクスペリエンスのことをこの世界を導く新しいリーダーだと思っている。彼女は今や世界的なスターなんだよ」とスルッポンは言う。

「そして組織もますます巨大化している。今、組織を動かしているのは第三世代の官僚たちだ。第二世代の連中はあらかた去っていった。彼らにとってラブエクスペリエンスはすでに魅力的ではなくなってしまったようだ。君ならそれが分かると思うけど」

そうなのだ。彼女は何かを失って何かを得た。彼女は進化したのだ。しかし、彼女は自分の変化には気づいていない。今まで自分を愛してくれた人間が消えていくことをただ悲しんでいるだけだ。

スルッポンは続ける。

「第三世代の官僚たちは派閥を作り派閥間で小競り合いをしている。あいつら私兵まで持ってるんだぜ。このままだとあいつらはお互いを食いあう戦いをはじめるだろう。世界中を巻き込んでね」

スルッポンは肉を切った。肉を差したフォークを皿の上でくるくる回している。下品な作法のはずなんだけどその動きは優雅で踊っているように見える。スルッポンは笑っていた。

「ラブエクスペリエンスを殺すことも考えた」

とスルッポンは言った。僕たちの別れも近づいている。

「君は最初からラブエクスペリエンスのことを愛してなかったものね」と僕は答えた。


「そうだ。殺害計画を考えたのは君の症状がいちばん酷かった頃の話だ。それで君も助かるかもしれなかったし、組織をうまく崩壊させることができるかもしれないと思ったけれど、もうそれも無理だろうな。そんなことしたら純然たる権力闘争がはじまって、いよいよ殺しあいだ。各派閥に僕らよりずっと優秀な計画者や扇動者がそろっている。もう僕たちがコントロールできる状態じゃなくなってしまった」

「君はこれからどうするの?」

「君みたいにここを去ることも考えた。友達もみんないなくなってしまったし、僕が愛した組織ではなくなってしまったしね。だけど、僕にはまだ権力があってやれることが残っている。我々による犠牲を少なくしないとね。それに僕がいなくなるとラブエクスペリエンスも寂しいだろう」

「君がそんなこと言うなんてね」

「僕だって彼女に対して愛着くらいあるんだよ。ずいぶん長く一緒にいたからね。彼女にはすまないことをしたと思ってるよ」

「彼女はそんなこと気にしないから大丈夫だよ」

「そうだね。彼女はそんなに賢くないからな」


「君はこれからどうするの?」

「この大陸を離れるよ。昔、異世界生物たちが拠点に使っていた島があったよね。あそこに行くことにしたよ。カルロスの調査をしたときに一度行ったんだけどいいところだった。面白い建物がたくさんあるし、ご飯もいろんな種類があってなんでも美味しい」

「あそこだったら我々の手が及ぶこともないだろうしね」

「そうだね。あそこには異世界生物の子孫がたくさんいる。彼らは僕たち現地生物の思想や信仰の影響を受けることはないだろうから、ラブエクスペリエンスにも関心を示さないだろうな」

「そう願いたいね」


デザートを食べて、コーヒーを飲んだ。なんだかまだ足りなかった。


店を出て、むかしスルッポンと二人でよく行ったバーへ行った。店はもうなくなっていて更地になっていた。仕方がないのでしばらく歩いて目についたバーに入った。はじめて入ったバーだったが悪くない雰囲気だった。オークのバーテンが繊細にシェーカーを振っていた。

僕たちはそこで何杯も酒を飲んで昔のことをたくさん話した。


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