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行き場のないカルロスの冒険とその終わり  作者: スーザン・ソンタグ・ラブ・エクスペリエンス
20/30

ラブエクスペリエンスに関する覚書 その3

世界最強魔法使いカルロスは千年にわたるこの世界のあらゆる変革あるいは反動に加担したと言われる。

その行為が壮大かつ支離滅裂なハチャメチャなことばかりなので、一時期実在が疑われていたが、三十年前の大がかりな「カルロス検証事業」によって彼は実在したものと結論づけられた。少なくとも150年前までは。


150年前の「ベロオリブリの反乱」が彼が介入した最後の事件とされているが、実際のところほとんど何もしていないに等しかったらしい。

彼は、ベロオリブリ市民軍の神輿に力なく座って、戦場を見ながらときたま微笑んでいただけで実際の指揮や計画には参加しなかったようだ。

それが彼が歴史の表舞台に立った最後だ。

今も存在しているのかどうかは分からない。

カルロスは間違いなくこの世界の災厄ではあったけれど、今では神話の登場人物のようなもので、特に大衆は彼に親しみを持っている者が多いし、戦争や疫病などで社会不安が増すと「カルロス待望論」が出てくる。

歴史をちゃんと追っていれば、カルロスが問題を解決したことなどないと分かるのだけれど、巨大な力はそれ自体が信仰の対象になるのだろう。

大衆の愚かしさだと思うが、今の僕にはその愚かしさを笑うことができない。


とにかく、ラブエクスペリエンスはカルロスに興味を抱いている。

ラブエクスペリエンスは「私はカルロスに興味を抱いているわ」とだけ言ったのだという。


それで、僕はカルロスの調査を行うことになった。ラブエクスペリエンス記録チームは僕抜きで進んでいくし、もともとの財務の仕事は今の僕には複雑すぎて手に負えなくなってしまった。

幹部としての地位だけ残っているが、組織の中でほとんどやることがなくなってしまった僕にとってちょうどいう仕事がカルロスの調査だったのだ。

「気分転換になるといいね」とスルッポンは僕に言った。


カルロスの調査のために世界中を巡った。

彼が最初に現れたと言われる森やメメメメ帝国城趾や彼がはじめて歴史の表舞台に現れたとされるグングンポニー共和国などを巡ってその土地の地霊にアクセスした。

僕は地霊へのアクセスが人より少しだけ上手だった。いや、上手というより独特だと言ったほうが正確かもしれない。

普通、人は「自分が地霊にアクセスする」という意識でアプローチするようだが、僕は逆に「地霊が僕にアクセスする」という意識でアプローチしている。自我が希薄であるゆえにできるのかもしれない。

とにかく、地霊に意識を委ねることによって、地霊の無意識にアクセスできる。そうしたものは直接的に地霊から与えられる記憶より役に立つと経験的に知っている。

地霊の無意識のなかにあるカルロスの欠片をいろいろなところから集めて僕はカルロスのことを理解しようと務めた。


そして一年間の旅を終えて本部に帰った。

いろんな状況が決定的に変わってしまったようだったが、僕はそうしたことに関わらずに、旅で得たカルロスに対する所見を箇条書きにしてラブエクスペリエンスに提出した。ラブエクスペリエンスへの報告はこの程度で十分なのだ。

彼女が反応できるような情報を与えれば彼女はそれを基に判断してくれる。

どうせ彼女はいつも十分に確信しなにも間違えることはない。

結局のところ、彼女がいれば僕のちょっとした特技など本当はまったく必要ないのだ。


彼女が僕の報告を読んでいる。

相変わらず美しい鼻をしている。

僕はその鼻の完璧なバランスを見て、どこか異世界にある完璧なバランスで成り立った世界のことを想像した。

すべての営みや循環が均等の美しいリズムで成り立っている世界。その世界の人間たちの宛先がちゃんとある喜びや悲しみ。すべての行為は意味のあるものとして完璧に回収されるのだろう。

この世界で不必要になりつつある僕は、そんな世界を少しだけ夢想した。

でも、完璧なバランスで成り立っている世界に僕はそもそも産まれる余地もないのだろうな。

そんなことを考えていると本格的に悲しくなって、ラブエクスペリエンスにばれないように目を伏せて、静かに泣いた。

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