ラブエクスペリエンスに関する覚書 その1
ババ・ババンバンというのが僕の名前で、友人たちからは「ババン」とか「バンバン」とかの愛称で呼ばれることが多いけれど、ラブエクスペリエンスは僕のことを「三角アシカちゃん」と呼ぶ。僕の顎に吊り下がった巨大な二等辺三角形状の髭が三角アシカに似ているからだと言う。端的に蔑称であり他の連中にそう呼ばれたら即顔面パンチだが、彼女に「三角アシカちゃん」と呼ばれると僕はとろけてしまいそうになる。それは僕が彼女に恋をしていて好きで好きでたまらないからさ!と大声で叫びたい。
それで、ラブエクスペリエンスについて書いていく。
ラブエクスペリエンスはすらりとしたスタイルの黒髪の美人で、僕は特に彼女の鼻が特に美しいと思っている。鼻のラインが優雅な曲線を描いていて、存在感を持ちながらも全体と調和しているのが最高に素敵だ。
魅力的な彼女の周りにはたくさんの男がいる。本部だけで総勢一万人くらいだろうか。関係機関や下請けをあわせると八万人くらいになるかもしれない。
みんな彼女を愛しているし、僕たちが彼女を愛していることを彼女は愛している。
ことほど左様にラブエクスペリエンスは単なる美人ではない。
このメモでは「彼女が単なる美人でないこと」つまり「いかに異常であるか」について触れたい。
僕は彼女のことが好きで好きでたまらない大好き超愛しているというわけなので深夜に書くラブレターのようにとっちらかったものになるだろうが、彼女の側近の一人である僕がこれを書き残すことにはそれなりの意義があるだろうと思う。彼女は後生においても多方面の分野から語られることになるだろうし、それによって飯を食う者も出てくるかもしれない。僕のメモがそういった人々の役にたつことができれば幸いだ。まあでも結局のところラブレターになるだろう。
それを存分に自覚した上で書き進めたい。
まずひとつ。彼女が「世界最確信エンジニア」であること。
彼女はなにごとについても世界最強の確信を持ち、それが外れることは決してない。彼女はあらゆることを疑いなく正確に判断することができる特殊能力を持っている。そしてエンジニアが自分の天職だと最強確信している。
例えば、三年後のドドドンポ王国建国記念日について彼女に聞いてみるといい。
彼女は「三年後のドドドンポ王国建国記念日の午前中晴れで午後から雨が降る。これは絶対確信を持って言えるわね」と答えるかもしれない。彼女の天候に対する知識は常人以上のものではないし、もしかしたらドドドンポ王国の建国記念日がいつなのか知らないかもしれない。しかしそれでも三年後のドドドンポ王国建国記念日の天気は彼女が言ったとおりのものになるのだ。彼女の確信は外れない。
なぜ彼女は三年後のドドドンポ王国の建国記念日を当てることができるのかは誰にもわからない。彼女に聞いてみても「私はそう確信している。なぜ確信しているかは問題ではないわ」とか「私がラブエクスペリエンスだからよ」という答えしか帰ってこない。ちなみに基本的に彼女は頭がよくないというのが僕たちの意見だ。
僕たちは「なぜ彼女はいつも確信をもって物事について判断し、そしていつもそれが当たるのだろうか」という議論をたまにする。無駄な議論であるのは百も承知なのだが仲間内の思考やセンスが出てなかなか面白い。「汎神論的な神のスピーカーだけが搭載されているから」とか「彼女が言ったとおりに世界が変わるから」とか「全知全能の神にアクセスする器官を持っているから」とか「彼女はあらゆる時間とあらゆる場所に存在しているから」とか「世界=彼女であって、我々が彼女だと思っているのは世界=彼女の尻穴にできたいぼ痔である」とかいろいろと意見がでる。くだらない意見ばかりであるが、われらの友マルメチョプ・マルチョフはこれらの意見をまとめて整理分類し「ラブエクスペリエンス学」なるものをぶち上げ、二週間にわたり仲間内で講義を行った。このメモはマルメチョプの講義に多くを負っている。
ちなみに、マルメチョプは彼女への想いがあふれた結果、体中のあらゆる穴に火薬を詰め込んで国際的なスポーツ大会のシンボルである「燃え盛る祭壇」に突入。壮絶な最期を遂げた。そういう者は僕たちのまわりに多い。
彼女への愛やそれに伴う悲しみのせいで、僕たちはたいがい頭が変になっちまっている。まともに何かを書き残したり話したりすることができない。なにをしようにも彼女への愛やそれに伴う悲しみがあふれて、まっすぐに何かを進めることができないのだ。事実、僕はいまこんなことを書くべきではなくて、端的の特性について書き残すべきなのである。涙があふれて手が震えている。本当のところ「愛している」「愛して」「助けて」しか書きたくない。今日はいったんメモを切り上げるべきだ。しかしなにか書いていないと気が狂いそうになる。ラブエクスペリエンスのまわりにいる者たちにとって奇行は自殺への入り口になることが非常に多い。僕たち初期メンバー8人のうち5人が自殺しているのだ。サンサン、トンペリフン、デングチョー、トサンギャ、マルメチョプ、僕を見守ってくれ。ああ、ああ。