ベジタブル・ハルカとブスのサチ子ちゃんについて
メメメメ帝国の帝都メメメメ・シティの中央部にはメメメメ城があって、そこが行政の中心地になっている。俺はある日...ある日の夜中...月が出ていない夜中に...メメメメ城に忍び込んだ。筆頭占い師であるベジタブル・ハルカに会うためだ。その頃俺は、メメメメ帝国をダマで飛び出した後で、辺境のグングンポニー領で面白半分ゲリラをやって暇を潰していた。面白半分であったけれど、俺はその頃、ちょうど自分が世界最強魔法使いであることを自覚した頃で、そのことについては実は半信半疑であったけれど、おっかなびっくりにはちゃめちゃやって、「なるほど。これが世界最強魔法使いか...」などと独りつぶやいていたりした。ちなみに、グングンポニー領の統治が特段悪辣だった訳ではないことを、当時のグングンポニー領主ペスコ=グングンポニーとグングンポニー領の行政官のために述べておく。グングンポニー領の統治はメメメメ帝国の統治指針に極めて忠実に則ったものであって、税率も普通だったし福祉政策や商工政策もちゃんとやっていた。まあ領内のオークや亜人を軽く弾圧していたりもしていたけれど、当時のメメメメ帝国の中では普通のことだったし虐殺やらが起きていたわけでもない。なので、俺がグングンポニー領でゲリラ活動をしていたことに正当な理由を求められると非常に困ってしまう。後年、俺の伝記が出版されることになって、俺のこの世界でのある種のデビューはグングンポニー領でのゲリラ活動ということになっているので、動機やらなんやらを根掘り葉掘り聞かれた。「特に理由がない。暇潰しにゲリラ活動をしようと思ったときにたまたまグングンポニー領にいたからだ」と答えたかったけれど、俺の伝記をわざわざ買うような俺のファンやらにちょっと悪い気がしたし、こういったあっさりした答えをすることによって後世の学者が不毛な解釈論争をしたりするのかもって思うと可哀想だなっても思ったので、その答えはいったん保留にした。その後、頭のいい友達に相談して一緒にワインを飲んでゲラゲラ笑いながら適当に革命理論やら戦略をでっちあげて、再度インタビュアーに回答したらなんかえらく感動したようで、目をギラギラさせて奇声をあげながら首をブンブンふって聞いていた。後日、その友達には結構いいワインを贈って感謝を伝えたところ、彼は爆笑していた。このインタビュアーで語った俺の革命理論は、この世界の革命理論の金字塔みたいになって、後年飛躍的な理論的発展を遂げることになる。それについて、パイオニアの俺に対していろいろと聞かれることもあったけれど、正直なところ何を言ってるのかさっぱり分からなかったので「革命が前進するのを喜ばしく思う」とか適当に言うと、みんなちょっとガッカリした感じだった。その頃には、例の頭のいい友人はとうに死んでいた。歴史に残る革命理論をワインを飲みながら一晩で作りあげた彼は、それから五年後、自分で自分の頭に斧を振り下ろして自殺した。彼は俺にちゃんと遺書を遺してくれていて、「君と一緒に革命理論をでっちあげたあの晩は最高だった」旨が書かれていて、あと「君の世界に僕も行ってみたかったな」という旨も書かれていた。人はみな異世界を求めるのだろうか。俺のもといた世界は端的にクソだったと思うが、それでも彼にとっては「異世界」だった。彼は、現地人であり、魔法使いでもない単なる農夫であったのだけれど、おそらくこの世界で最高の知性を持った男だった。故に、居場所がなかった。歴史に名を残すことすら求めなかった彼の名を記すことは控える。彼がでっちあげて俺が語った革命理論を基にして人々は争い、この150年で5,000万以上の命が散った。彼はそれを見ることはなかったけれど、あの世で爆笑しているのだろうか?
彼の魂は俺が送ってやった。そのことは俺の大きな誇りである。誰にも文句は言わせない。
ベジタブル・ハルカの話に戻ろう。
俺はある晩、ベジタブル・ハルカに会いにメメメメ城の城内植物園に忍びこんだ。そこがベジタブル・ハルカのオフィスみたいになっている。その晩、植物園に忍びこんだら、巨体なフキの下でうたた寝しているベジタブル・ハルカを見つけた。どうでもいいことだが、この時間は植物園にはベジタブル・ハルカいないことを俺は知っていた。
彼女に近寄って「おい、ベジタブル・ハルカ!!俺!!俺だぜ!!」と声を荒げたらベジタブル・ハルカが目を覚まして舌打ちしてウンザリした顔を俺に向けて、「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」とクソデカイため息を吐き出した。
「すっげえブスな寝起きだな!!」と俺はニヤニヤ笑いながら言うが、それはまあ嘘でベジタブル・ハルカは超絶美少女でしかも爆乳だった。俺がなんでわざわざそんな嘘丸出しの憎まれ口を叩いたかというと、ベジタブル・ハルカの予言を基に散々汚れ仕事をさせられたことへの怒りがあったこともあるけど、俺はダマでメメメメ帝国を出奔して辺境でゲリラまでやっちゃう敵対行為をしているわけで、あらためてメメメメ帝国のお偉いさんであるベジタブル・ハルカを前にすると罪悪感では決してないもののなんとなく気まずさを覚えてしまって、その気まずさに負けて会話のイニシアチブを取られたりしたら嫌だなって思ったので、勢いをつけるために「ブス」と罵ってみた次第なのである。しかし、実際に言ってみるとそれがまた気まずさに拍車をかけてしまって、俺は決してフェミニストとかではないのだけれど女性に面と向かってブスとか容姿に関する悪口を言うことにはもともと抵抗感がある。直近で女性にブスと言ったのは小学六年生の頃で、相手はクラスメイトのサチ子ちゃんであった。俺とサチ子ちゃんはなんかがきっかけで口喧嘩になって、サチ子ちゃんが俺に対して、俺の出生についての酷い悪口を言ったので、俺も怒り狂ってサチ子ちゃんに向かって「ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス...」と30回以上連呼したあとに一呼吸置いてサチ子ちゃんの身体的欠陥について頭のてっぺんから爪先まで順番に50箇所くらい丁寧にあげつらっていったら(これを書き記すのですれ非常な苦痛を伴うのだがサチ子ちゃんは実際にブスだった)、サチ子ちゃんはしばらく石みたく固まって、それからギャン泣きした。
その姿が俺にはショックで、サチ子ちゃんの差別的な物言いは何百年も経った今でも許せるものではないのだけれど、俺はサチ子ちゃんにブスと言って泣かせたことについてはとても後悔したし、今でも後悔している。そういった嫌な思い出のせいで、女性にブスと言えなくなってしまったのだ。あの晩、ベジタブル・ハルカにブスと言ったのは俺の中ではかなり頑張ったほうで、ベジタブル・ハルカが超絶美少女であるために逆にブスと言いやすかったのだろうが、それでもベジタブル・ハルカにブスと言ったとき、頭の片隅にサチ子ちゃんが現れて、またサチ子ちゃんにブスと言ってしまったような気分になった。
ちなみにサチ子ちゃんとは中学と高校が違くて大学も東京に行ったとかでしばらく会うはなかったのだけれど、成人式のときに山形に帰ってきたサチ子ちゃんもと街中でばったり会って、なんやかんや話が弾んだこともあって一緒にホテルで一晩中盛り上がったことがある。俺は超絶美男子であったせいか、元の世界ではものすごい数の女をなんとなく抱いたのだけれど、あのときのサチ子ちゃんほど俺を興奮させた女は他にいなかった。