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行き場のないカルロスの冒険とその終わり  作者: スーザン・ソンタグ・ラブ・エクスペリエンス
12/30

最初の殺人

鳩を殺せば「鳩殺し」、人を殺せば「人殺し」


というわけで、「人殺しのカルロス」こと俺は人を殺しました。すみません。

俺が人を殺したことについて、罪に問われる性質のものではなかったし、それどころかわりとそのおかげでいろんなことが上手くいった。最初に殺された男、俺が殺した男は、最悪のクズで、そいつを野放しにすれば100万人はそいつのせいで死ぬと言われていた。誰が言ったのかと言うとこの世界最大の予言者ベジタブル・ハルカ(おそらく日本から来た異世界生物。姿は可愛らしい美少女でものすごい爆乳。LINEに未登録なのだろうか、この世界最大の国家であるメメメメ帝国の筆頭予言者)で、ハルカが騒ぎまくった結果、なんか実際ヤバイ奴がいるみたいな雰囲気になっていった。俺は当時、LINEと険悪な感じになっちゃっていたので、メメメメ帝国に身を寄せていて、宮仕えの方が自分の身を守れるかなって思って任期付の魔法技官になっていた。不安定な身分につけこまれてその暗殺という汚れ仕事をさせられる破目になった。

そこで逃げる手もあったのだけれど、俺はそうしなかった。ここで逃げたらLINEとメメメメ帝国の両方を敵に回すことになる。それってヤバすぎだろうなって思ったからだ。危ないクズ野郎がいるんだろ?そいつを殺して俺の身分が安泰ならそれでいいじゃないか。そんなふうに考えたのだ。


最初に殺された男、最初に俺が殺した男の名前はトラパッパ。殺されたトラパッパ、俺が殺したトラパッパは50半ばくらいの中年で、独身なのだけれどものすごい父性を持っていたので、自分の町に住む100万人くらいの市民は家族だくらいに思っていた。実際、トラパッパは地域住民にものすごく慕われていたし、どこ行っても人気者だった。トラパッパは街の父だった。そして、父は父であるから故に家族を殴りたいなと思うようになった。愛ゆえの暴力だ。俺がこんなに殴るのはお前たちを愛してるからだ。殴ったほうの手も痛いのだ。

トラパッパは魔法使いだった。トラパッパは気が狂っているだけあって優秀な魔法使いだった。すべての優秀な魔法使いの気が狂ってるわけではないが、優秀な魔法使いには気が狂ってる者が多いと言われている。思い出す形式性の話。

トラパッパは100万人くらい余裕で殺せるくらいの魔力を持っていた。100万人くらい余裕で殺せるくらいの魔力を持っている魔法使いはたくさんいるのだけれど、魔法使いは基本的に人を殺すことに興味を持たない。普通、魔法使いが興味を持つのは天井の模様とか自分の体毛の数とか深夜に裸で歩いたりとかで、人を殺すことには興味を持たない。トラパッパも人を殺すことに興味を持っていたわけではなかった。トラパッパが興味を持っていたのは家族だけだった。

まあ、でも、それで人が死んだりする。なんとも言えない。


トラパッパを殺すのは簡単だった。

トラパッパの家に行って、家にいたトラパッパの背中にナイフを突き刺した。魔法もクソもあったもんじゃない。


「こんにちは父さん。はじめまして。俺の名前はカルロスといいます。父さんに会えと嬉しいな。ハグしていいですか?」

「おお息子よ。はじめまして。いいとも。おいで。会いたかったよ」

俺はあのときの父さんの嬉しそうな顔をよく思い出す。父さんは100万人を殺すDV野郎だし、俺と母さんを捨てた最悪の甲斐性なしだったけど、父さんだった。はじめて会ったのだけれど父さんだったのだ。

俺は父さんとハグをして、父さんの背中にナイフを突き付けながら話した。

「父さんはどうして、みんなを殴ろうとするの?」

「まだ殴ってないよ。これから殴ろうと思ってるけどね。父さんはね、みんなに愛してるって伝えたいんだ。父さんはみんなの父さんだけど、本当の父さんじゃないのは知ってるよね?結局のところ嘘の父さんなんだ。嘘の父さんであることは悲しくて辛いものなんだ。いくらみんなが父さんを愛してくれてもね。私は本当の父さんになりたいんだよ」

「父さん、俺の本当の父さんは俺を殴るどころか俺が生まれる前に俺らの前からトンズラしたよ。殴ること=本当の父さんとは限らないんじゃない?」

「そういうケースもある。でもね、私にとっての父の形式性とは殴ることなんだよ。分かるかい?」

正直、納得した。クソ、また「形式性」だ。イカれた魔法使いのマジックワードなのか!?

俺は、沈黙する。

「ふふ、魔法使いの質問坊や。君にはどうやら分かってるみたいだね」

「ええ、俺は鳩殺しのエリオットの弟子ですから」

「ふふ、エリオットか、懐かしい名前だ。彼は私と同じ研究室でね。「魔法における形式性」が私たちの研究テーマだった。私たちは二人とも強大魔法使いになったけれど、結局、「形式性」については上手く理論化できなくてね。後続が出なかったんだよ。しかし、君が続いてくれたわけか。エリオットは今でも鳩を殺しているのかい?」

「師匠に会ったのは3年前ですが、その時は鳩を殺してました」

「そうか。やれやれ、あいつめ。この国からもめっきり鳩が減ったものだよ。しかし、君が続いてくれて本当に嬉しいよ。私にとっても弟子のようなものだ」

「いいえ、あなたは私の父さんです」

「口の上手い坊やだ。ありがとう。嬉しいよ。本当に嬉しいよ。だったら息子よ。ナイフを私の背中に突き刺して終わらせてくれ。本当は私は家族を殺したくない」

俺は手が震えていた。はじめて会った男はいつの間にか本当の父さんになっていた。物心付いたときから愛憎を抱き続けた父にようやく会えたと思ったら、今俺はそれを殺そうとしている。

「じゅうー、きゅうー、はーち」

俺が躊躇していると父さんは、突然カウントダウンをはじめた。

「なーな、ろーく、ごー」

「父さん!!その、カウントダウンはなんなんだ!?やめてくれ!!」

父さんはやめない。

「よーん、さーん、にー」

俺は頭が滅茶苦茶になりそうだった。ゼロになったら何が怒るのだろう?何か恐ろしいことが起こるのだろうか?

「いーち、ぜ」

ろ、と父さんが言う前に父さんの背中にナイフを突き刺した。父さんは口から血を吹き出しながら「グッジョブ、カルロス!なんか起こると思っただろ?はは、カウントしただけだ。面倒ごとさせて悪かったね。でも、お前は私の息子ランキングトップ1だね。ありがとう。君に会えてよかったよ。じゃあな」っつってあっさり死んだ。


父さん=トラパッパを殺したことで俺の中ではいろんな感情が巻き起こってトリプルサイクロンって感じになったけど、ここでは多くを語らないどころか一切語らないことにしたい。そして、今後語るつもりもない。

とにかくこれが俺の最初の殺人で、それから、ずいぶんと自分の手を汚した。けっこう鬱っぽくなったけど、もうほとんどよくなったし、「鬱と回復」をテーマにして何かを語るつもりもない。しかし、あえて一つだけ言うのなら、ちゃんと医者には行った方がいいということだろう。医者へ行くことに対して偏見を持つ人はたくさんいるのだろうが、医者に行くと適切なアドバイスと投薬を受けることができる。俺もやっぱり最初は医者って抵抗あったんだけど、ちゃんと受診して投薬を受けるようになったら少しずつ快方に向かっていって、さっさと

行けばよかったな。って思った。


俺は俺の地獄から抜け出せはしないだろうが、地獄を俯きながら生きていかなければならない道理もない。それにいちいち文句を付けるな。

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