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七の王国  作者: 毎留
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第十九章 星に生きる者たち(2)

「ねえ、ねえ。この眺めぇ、超やばいよぉ」

 日干し煉瓦れんがの小さな家屋の中で、メルネがはしゃいでいた。

 ここはネリシア王国の首都カシウスから西にある砂漠のオアシスである。少し離れた場所には、銀色に輝くメーヤルの塔が建っている。それはアトランティス王国から引き継がれた科学技術のすいをもって建造されたというエネルギー炉の一部であった。

 メルネの眼前には、乾いた砂の大地がどこまでも広がり、熱風と陽光の中でゆらゆらとうごめいている。生命にとって過酷な環境が作り出すその光景は、彼女の生まれ故郷であるアンゴルモア星への郷愁きょうしゅうを抱かせるものであった。

「最高のデザートビューだよぉ! ほらぁ、ソドも見てぇ」

 メルネに左腕を引っ張られ、ソドがけだるそうに窓の近くへと歩み寄った。

「これで何回目だと思っている。たしかに懐かしい景色だが、これだけ暑いと堪えられない。俺は雪がたくさん降るもっと北の地方が好きだ」

「そんなつまらないことぉ、言わないでよぉ」

 ふくれっ面でソドを睨みつけるメルネに、マイヤがさとすように言う。

「好みは人それぞれよ。私はカシウス周辺の緑豊かな光景が好きだし」

「えー、マイヤ様までぇ?」

「でも僕はこの場所が好きだよ」

 一番奥の背もたれがついた椅子に座るラプラスが、メルネの肩越しに窓の外を眺めた。

「そうですよねぇ、この良さを分かってくれるのはラプラス様だけなんだからぁ」

 メルネの表情がぱっと明るくなった。

「アンゴルモア星人なら皆、大なり小なりこの景色に癒されるはずだ。でもそろそろ本題に戻り、現状を確認しておこう」

 ラプラスにうながされ、メルネが真顔に戻る。

「はい、そうしますぅ。現在この星に住んでいるのはぁ、ポセイドン大王が築かれたアトランティス王国の末裔まつえいたちでぇ、今から千三百年ほど前にぃ、方舟に乗ってこの星にやって来ましたぁ。つまり先住民ではなくてぇ、私たちと同じ入植者ですねぇ。そして故郷である地球の生態系を再現してぇ、隣接する宇宙から抽出した反物質をエネルギー源とする文明を築きましたぁ。その抽出装置である反物質炉はぁ、これまでにマイヤ様がほとんど破壊してくれましたけどぉ、まだ王宮の地下深くとぉ、あそこに見えるメーヤルの塔に残されていますぅ。そしてセルナの命を奪ったスーパーストリング砲もぉ、まだ三本、この星のどこかに残っているのですぅ」

「私は研究・教育機関も徹底的に破壊したので、反物質炉やスーパーストリング砲を新たに製造するための技術は喪失したはずです。ですから現在まだ残されているスーパーストリング砲を破壊し、地球人たちを方舟に近づけなければ、それ以上の脅威は生まれてこないでしょう」

 マイヤが自身の成果を伝える一方で、横にいるラプラスの表情はさえない。

「僕からは良くない知らせがある。一週間ほど前、あの方舟に数機のスクーターが接近したようなんだ。もしかしたら地球人たちが方舟に入ったかもしれない」

「それはあり得ません。あそこにはナノがいたはずですから」

 マイヤが反論する。

「でも姉上も知っての通り、あいつは結構マイペースだろ。いつまでも僕たちの命令に従っているという保証はないぞ」

「ですが……」

「いずれにせよ、敵の戦力を過小評価しないことが大事だ。方舟にはアルマニオンも残されているようだし」

「それについては私のほうで一応の手を打っております。先日カシウスの王宮でカーウィン王子――いえ、あれは王子ではありませんね。とにかくその者と会った際、その場にいたシーナという娘の頭にメルネがプログラミングしたチップを埋め込みました。もしあの娘がアルマニオンの輝きを目にすれば、正気を失い、アルマニオンを手に入れるのを阻止しようとするはずです」

「そうか、助かるよ。僕が定めた未来へとつながる黒い霧は、地球人たちがアルマニオンを手に入れないことを前提にしたものだからね。その前提が崩れると歴史の硬直性が失われ、未来は不確実なものになってしまうんだ。場合によってはスーパーストリング砲の他に、もう一つ別の脅威が生まれてくるかもしれない」

「それって危険ですよねぇ」

 メルネが不安そうな顔をする。ラプラスの表情も深刻そのものだ。

「最初から無傷で勝利できるとは思っていないさ。僕自身も一度は地球人に石像化されるくらいの覚悟はしていたけれど、それでは済まないかもしれないな」

「私たちの最重要任務は、黒い霧を作り出すデルタイを持つ大王陛下をお守りすることです。いざとなったら私たちが陛下の盾となりましょう」

 マイヤの言葉を聞いて、ソドが胸を張る。

「陛下の盾か。この兵士長ソド、最初からその覚悟ですぞ」

「ありがとう、みんな。でもできるだけ被害の少ない方法を――」と言いかけたラプラスが何かに気付き、眉をひそめた。

「この重力場の歪みは、スクーターが近づいてきたのか?」

 ラプラスは、遠く離れた時空を結びつける黒い霧や、すべてを吸い込むミニブラックホールを作り出すデルタイを持っている。そしてその副次的能力として、重力場の歪みを感じ取ることができた。

「ちょっと外を見てきますねぇ」

 メルネが背中の羽を広げ、窓から身を乗り出した。少し離れた場所に数十人の兵士たちの姿が見える。彼らは見覚えのある長い筒を抱え、その指揮官と思しき初老の男がスクーターにまたがっていた。

「あれはスーパーストリング砲? みんな逃げて!」

 メルネの悲鳴に近い声を聞き、ラプラス、マイヤ、ソドの三人も建物の外に飛び出した。その姿を確認した兵士が大声を張り上げる。

「正義は勝つ。白き翼をせん滅せよ」

 その言葉が作戦開始の合図だった。兵士たちの抱える筒が同時に火を噴く。かつてセルナの命を一瞬にして奪い去った忌まわしき映像が、ラプラスたちの脳裏をよぎる。

「あぶない」

 四人はぎりぎりのところで、その攻撃をかわした。

「セルナの時といい、今回といい、いつも突然攻撃してくるのやめてよ」

 メルネが必死の形相ぎょうそうで抗議する。語尾が伸びなくなるのは、彼女が取り乱している証拠だった。

 一方でその隣に浮かぶマイヤの顔色は優れない。数十人の兵士たちが、みな脇の下にあのスーパーストリング砲と思しき長い筒を抱えていたからだ。

「スーパーストリング砲は三本しか残っていないはずなのに、どうして?」

「あれはきっと、ほとんどがダミーだよ。だってセルナが殺されたときは紫色の光が見えたけど、今はほとんど見えなかったから」

 それはメルネの眼にいつまでも焼き付いて離れない、忌々しい光だった。本物のスーパーストリング砲は射出の際にわずかな紫外線を放つ特性を持っている。地球人の眼には何も見えないが、アンゴルモア星人の眼には淡い紫色の光として感知される。

「なるほど、小賢しいことをするわ。でも要はすべての攻撃を避け、奴らをせん滅すれば良いのでしょう?」

 マイヤがすばやく上空に飛び上がった。その姿をめがけて数人の兵士が砲撃を放つが、マイヤはそのすべてをかわし、さらに両手掌からアイス・ブリザードを放った。数人の兵士たちが一瞬にして凍りつく。今のところ、彼女たちの眼に紫色の光は見えていない。

「さすがマイヤ様ぁ、すごいよぉ」

 メルネが叫んだ。味方の優勢を知り、語尾が伸びるだけの落ち着きを取り戻したようである。

「俺も加勢する」

 ソドが飛び上がった瞬間、メルネ周囲の空間をめがけて、ほぼすべての兵士が一斉に砲撃を放った。一番機動性に劣るメルネが狙い撃ちにされたのである。

「やだ……」

 メルネは身がすくみ、その場から動けない。

 かわりにソドが急降下し、右手でメルネの体を跳ね飛ばした。

 無数の砲撃がソドに襲いかかる。その中に一条だけ紫色の光が混じっていたが、それは体一つ分はずれた空間を通り過ぎていった。一番危険な一撃は逃れたものの、多くの砲撃はソドに直撃する。ダミーとは言え、空砲ではない。地球人相手なら十分すぎる程の殺傷能力を持っていた。

 ソドを中心とする狭い範囲に激しい爆発が起こり、地面が揺れるほどの大音響があたりに響き渡る。その体が白い石像のような姿に変わり、砂の大地へと落下していく。

「よくもソドを!」

 マイヤが本物のスーパーストリング砲を放った兵士を特定し、アイス・ブリザードを放った。

 兵士はスーパーストリング砲と共に一瞬にして凍りつくが、その隙を狙い、残る兵士たちがマイヤに集中砲火を浴びせてきた。統制の取れた波状攻撃を仕掛けてくる強敵である。

 度重なる砲撃の中で、マイヤの反応がわずかに遅れた。

 そのコンマ数秒が致命的となり、マイヤは直撃を覚悟した――その時、北東の空から青白い光のドラゴンが飛来し、マイヤに襲いかかる砲撃を飲みこんで南西の空へと消えていった。

「これは一体……」

 呆気にとられるマイヤの瞳に、北東の空に浮かぶ五機のスクーターが映った。

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