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七の王国  作者: 毎留
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第十八章 誕生は黄昏の中で(5)

 そして一週間が過ぎた。

 その日、ビャンマの町外れにあるキストの家を訪れる一行の姿があった。

「こんにちは、キストさん」

 キャランが家の扉をノックしたが、返事はない。

「留守かな? 約束どおり昼すぎに来たのに」

 怪訝けげんそうな表情を浮かべながら取っ手を回すと、玄関の扉は音もなく開いた。

「鍵が開いているぞ?」

 一行が恐る恐る中に入ると、部屋の中央にある机の上に、鞘に収められた一本の剣が置かれていた。

「あれかしら? もう完成しているようね」

 シーナが机のほうに歩み寄ると、その向こうの床に倒れている人の姿が見えた。

「キストさん?」

 急いで駆け寄りその体を抱き起こしたが、すでに血の気はなく冷たくなっていた。それを確認したシーナが首を横に振る。

「見たところ、外傷や争った跡はなさそうだな。無理をしすぎて、急病で亡くなったのだろうか?」

 キャランが残念そうにつぶやいた。

「それだけ、この刀剣のために心血を注いだんだろうな。感謝しないと……」

 ジールは短い黙祷もくとうをしてから、後ろを振り返った。

「なあ、ラック」

 その視線の先には、腹部に包帯を巻いてゆっくりと歩くラックの姿があった。彼は高熱にうなされ、生死の狭間をさまよい、そして生還したのである。

「そうだな。根っからの職人だったんだろうな」

 ラックは机の上に置かれた剣を手にとった。彼の体に合わせて作られただけあり、柄の部分は軽く握るだけで手に吸い付くようであった。

 そして鞘から剣を抜くと、太陽のように燦然と輝く見事な刀身が現れた。薄暗い室内が青白い光で満たされる。

「これがアルマニオンの剣か。こうやって手にしているだけで俺には分かるよ。本当に素晴らしい剣だ」

「それだけ作った人の腕が素晴らしかったということですね」

 ルサンヌがキストの遺体に向かって頭を下げた。

「ねえ、せっかくだからその剣に名前をつけましょうよ」

 シーナがラックの顔を見ながら、遠慮がちに言った。

「そうだな。俺たちは自分たちの知っている未来とは違う歴史を歩みたいと願ってここに来た。でもこの剣の名前だけは元の歴史のままで良いと思うんだ」

 シーナはその言葉にうなずき、祖国の歌を口ずさんだ。

「彼は永き旅の果てに真実を知り、希望という名の力を手に入れた」

「そう、この剣は希望という名の力なんだ。聖剣アトラス、それ以外には考えられない」

 無論、その提案に異論のある者などいるはずがない。皆が納得の表情でうなずいた。

「キストさん、ありがとう。すぐに戻ってくるけど、少しだけ外に出てこの剣の威力を試してもいいかな?」

「ええ、きっとキストさんが一番それを知りたがっていると思うわ」

 シーナが微笑んだ。その言葉にうながされ、ラックは家の外へと出た。太陽の光を浴びたアルマニオンの刀身は、なお一層その輝きを増したようである。

 ラックは利き足である右足を一歩後ろに引き、右手で剣を構え、左手を前方に大きく伸ばした。それはもちろん、フレイム・ドラゴンを放つ構えである。

「天まで届け。フレイム・ドラゴン!」

 ラックが斜め上に向けて突き出した剣先がまばゆく輝き、そこから生まれた光のドラゴンがはるか彼方にある空をめがけてまっすぐに昇って行った。

 キャランがその軌跡を見つめながらつぶやいた。

「……これは炎ではなく光だな。太陽のように燦然と輝くアルマニオン。その影響で、ラックのデルタイが炎の属性から光の属性に変わったんじゃないか?」

「それならもう、フレイム・ドラゴンとは呼べないな」

 ジールが遠慮がちにラックの顔を見たが、ラックは意に介した様子もない。

「ああ、そうだな。これからはシャイニング・ドラゴンと呼ぶよ」

「シャイニング・ドラゴンか。いい名前じゃないか」キャランが微笑んだ。

「そうだろ? でももう一度、試してみたいことがあるんだ」

「おい、無理はするな。お前の傷はまだ完治していないだろ」

 心配するジールをよそに、ラックは再びそのデルタイを繰り出した。

「シャイニング・ドラゴンズ!」

 ラックの剣先から放たれた四体の光のドラゴンが虚空へと消えていった。そして――残念なことにラックの不安は当たっていたらしい。

 光は常に直進することしかできない。彼のデルタイが炎から光に変わることにより、その軌道を曲げることができなくなっていたのだ。それは、複数のフレイム・ドラゴンを放ち、その軌跡を曲げることで一点に集約させる技が使えなくなることを意味していた。

 だがその不安を胸に秘めたまま、ラックは作り笑顔を浮かべた。

「アルマニオンでできた聖剣アトラス。そしてシャイニング・ドラゴン。色々なことがあったけど、少しずつ俺たちの知っている未来とは変わり始めている気がするんだ」

「ええ、きっとそうね」

 その心中を知るよしもないシーナが、無邪気に微笑んだ。

 自分たちの意志で選択する未来を手に入れること。それはもしかしたら、ラプラスによって定められた運命を歩むよりも大変なことなのかもしれない。

 だが、もう後には引けなかった。キストの遺志に報いるためにも、このアルマニオンの剣に彼らの未来を託すしかないのだ。

 そう覚悟を決めて仲間の顔を眺めるラックに、背後から声をかける者がいた。


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