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七の王国  作者: 毎留
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第十七章 アトランティス王国(1)

 地中海からジブラルタル海峡を西に抜けた先にある大西洋上には、かつて大きな島が存在し、そこには超古代王国が栄えていた。

 もはや伝説と神話の中にしか存在しないその王国の名はアトランティス。紀元前二万年頃から紀元前一万年頃にかけて栄え、超高度な科学文明を手に入れた幻の王国である。

 王国が誕生する以前、当時のアトランティス島には未開で原始的な部族が住んでいた。文字や国家はもちろんのこと、まだ農耕すらなく、人々は狩猟と採集によって日々の生活の糧を得ていた。だが幸いにも地中海性気候に似た温暖な気候と肥沃ひよくな大地に恵まれ、そこに暮らす人々は飢餓きがとは程遠い生活を送ることができていた。

 そんなある日のことである。

 人々は島の南の海岸線から50スタディオン(約9キロ)の場所にある小高い山の上空に、黒い霧のようなものが発生するのを見た。青い空を侵食しながら次第に大きくなるその姿は、太陽を覆いつくす闇を人々に連想させた。この世の終わりだと考えた彼らは、ただひたすらに黒い霧に向かってひれ伏し、恐れおののくしかなかった。

 だがそこから現れたのは、威厳に満ちあふれた一人の男であった。背中に白くて立派な羽を有し、右手には三又を持ち、白い肌に黒いあごひげを生やし、白くゆったりとしたローブをまとった男は、自らに平伏する先住民の姿を見ながら、ゆっくりと山の頂上に降り立った。

 男は半年足らずで先住民たちの言葉を習得し、自らの名をポセイドンと名乗った。

 そして人々のために文字を作り、その読み書きを習わせると共に、農業や天文学、数学などの幅広い学問を教え、未開な部族の島であったアトランティスに高度な文明を授けたのである。

 また、ポセイドンはクレイトという名の先住民の娘と結ばれ、五組の双子、即ち十人の子供を授かった。

 子供たちの名前は順に、アトラス、ガデイロス、アンペレス、エウアイモン、ムネセウス、アウトクトン、エラシッポス、メストル、アザエス、ディアプレペスと言った。このうち長兄アトラスこそが『アトラスの海』(大西洋)の語源となった初代アトランティス王である。

 ポセイドンは島を十の地域に分割し、十人の子供たちはそれぞれの地域を支配する十の王家の始祖となった。そして何代にも渡り、長子相続により王権が維持されたのである。また、ポセイドンは人間から隔離するために、クレイトの住む小高い山を取り囲む三重の堀を造ったが、やがてこの地にアトランティス王国の都、メトロポリスが人間の手で形作られていった。

 こうしてアトランティス王国が誕生した。

 この王国に関しては、古代ギリシアの哲学者プラトンの著書クリティアスに詳しく記載されているが、ここではその一部の要約を記すことにする。


 中央島のアクロポリスには王宮が置かれ、その中央には王家の始祖十人が生まれた場所とされる、クレイトとポセイドンを祀る神殿があり、黄金の柵で囲まれていた。また、これとは別にポセイドンに捧げられた異国風の神殿があった。それは金、銀、オリハルコン、象牙で飾られ、中央には六頭の空飛ぶ馬に引かせた戦車にまたがったポセイドンの黄金神像が安置され、その周りにはイルカに跨った百体のネレイデス像や、奉納された神像が配置されていた。

 神殿の横には十人の王の相互関係を定めたポセイドンの戒律を刻んだオリハルコンの柱が安置され、牡牛が放牧されていた。五年または六年毎に十人の王はポセイドンの神殿に集まって会合を開き、オリハルコンの柱の前で祭事をり行った。

 また、アクロポリスにはポセイドンが涌かせた冷泉と温泉があり、その泉から出た水をもとに『ポセイドンの果樹園』とよばれる庭園、屋外プールや屋内浴場が作られた。その外側にある港と市街地は世界各地からやって来た船舶と商人で満ち溢れ、昼夜を問わず賑わっていた。


 かつてない栄華を極めたこの王国は、前述の通りポセイドンとその妻クレイトの間に生まれた十人の子供たちによって築かれた。

 ポセイドンの正体について、後世の記録は何も伝えていないが、彼はアンゴルモアという惑星から黒い霧を超えて地球へと訪れた異星人であった。彼は地球にやってきた時、4315歳の青年であり、当時十八歳であった地球人クレイトとの間に十人の子供をもうけた。

 彼らはアンゴルモア星人と地球人のハーフであり、その背中には退化した小さな白い羽根が生えていた。そして彼らの成育には地球人の五十倍ほどの時間がかかった。それゆえクレイトが五十八歳で天寿を全うしたとき、四十歳に満たない彼らはまだ全員が小さな赤子の姿をしていた。

 しかしポセイドンによって様々な知識を与えられ、その恩恵で文明を築きあげた先住民たちは、彼の子供である十人の赤子たちを自分たちの国の王として迎えいれることを望んだ。こうして、見た目は赤子でしかない十人の王たちが誕生したのである。

 彼らはおよそ三千年の時を生き、その間に王国の礎を築いた。しかし彼らが年を取って次々と天寿を全うしていくのに、その父親であるポセイドンはまだ7300歳、地球人にして三十六歳の若さであった。三千年前に亡くなった彼の妻クレイトは、もうはるか昔の想い出になっていた。

 初代十王の子供、つまりポセイドンの孫たちは更に地球人の血が濃くなり、地球人の十倍ほどの時間で成育した。その寿命は七百歳ほどであり、彼らの世代になると背中の羽は跡形もなく消えていた。そして彼らもまた、その親よりも早く天寿を迎えたのである。

 こうして十世代後になると、生育の速度も寿命もほぼ地球人と同じになっていた。

 ポセイドンは苦悩した。

 妻クレイトは彼にとってほんの一瞬で寿命を迎え、その後も彼のはるか子孫、ひ孫、孫、子供の順に寿命を迎えて死んでいったのである。愛する者たちに先立たれ、一人寂しく取り残されたポセイドンは、首都アクロポリスに作られた彼を祀る異国風の神殿にひきこもり、不遇な晩年を送った。この神殿の建築様式こそ、彼の故郷アンゴルモア王国のものであった。

 ポセイドン自身に寿命が訪れたのは王国開国から実に九千年後のことであり、彼の死後はプラトンの記述にもあるとおり、六頭の空飛ぶ馬に引かせた戦車にまたがったポセイドンの黄金神像が神殿内に安置された。

 その頃には、王国の文明水準は現代文明をはるかに凌駕りょうがするまでに至っていた。彼らは量子重力理論や超ひも理論を完成させ、この宇宙の仕組みをほぼ完全に解明していた。重力を操り、反物質が多く存在する異次元宇宙からそれをとりよせ、通常の物質と反応させることで莫大なエネルギーを得ることにも成功した。そのエネルギー変換効率は100%であり、現代文明がなしえたエネルギー変換効率1%未満の原子力発電などとは比べるべくもなかった。

 そして何よりも、彼らの最も偉大な発明はオリハルコンと呼ばれる金属であった。後世には銅と亜鉛の合金である真鍮しんちゅうとして誤って伝えられたが、真実は異なる。

 この世界に存在するすべての物質は、原子と呼ばれる微小な粒子の集まりでできている。原子の中央には原子核があり、そこに存在するプラスに荷電した陽子の数によって、原子の性質は決まってくる。例えば銅の原子核には29の陽子が含まれ、亜鉛の原子核には30の陽子が含まれているが、このように陽子の数が一つ違うだけで別の物質になるのである。

 そして陽子は、その2/3の荷電を持つアップクォーク2個とマイナス1/3の荷電を持つダウンクォーク1個からできている。本来、自然界ではクォークは陽子や中性子などの集合体でしか存在し得ないが、アトランティスの高度な科学技術は、強い核力を用いて原子核の中に陽子29個とアップクォーク1個を封じこめることに成功し、オリハルコンを誕生させた。

 つまりオリハルコンは元素番号29の銅と元素番号30の亜鉛を混ぜ合わせた真鍮ではなく、元素番号29.67の決して自然界には存在しえない金属だったのである。そして炎のように赤く燦然とした輝きを放ち、ダイヤモンドでも傷一つつけられない最高水準の硬度を誇っていた。

 だが、オリハルコンの秘密はそれだけではない。

 元素番号が整数ではない特殊性ゆえ、空気に触れるとその触媒作用によって、グルーオンを核子とするクォーク線を生み出した。それは人間のメッセンジャーRNAの特異的部位に強く作用し、脳のグリア細胞を増生させる働きを持っていた。それによって脳の働きが活発になり、潜在能力が開花するのである。

 つまり人間はオリハルコンの傍にいるだけでその能力を増していく。これによってアトランティスの地に住む人々はますますその文明進化を加速させて行ったのであり、グリンピア王国のラック・ハイモンドがオリハルコンでできた聖剣を手にして以降パワーアップしたのも、イエローサ王国のルサンヌ・ヤンバルトがオリハルコンのペンダントを見て休眠前の記憶を取り戻したのも、この特性によるところが大きかった。

 だからこそ惑星アララトを訪れたラプラスたちは、スーパーストリング砲の次にオリハルコンを恐れた。

 そしてアトランティス王国はその晩年、ついにオリハルコンの上位金属とも呼ぶべきアルマニオンの創生にも成功した。これはその原子核の中に29の陽子と2個のアップクォークを宿した元素番号30.33の金属である。

 アルマニオンは太陽のように青白く燦然とした輝きを放ち、その硬度も、人間の潜在能力を開花させる速度も、オリハルコンを遥かに上回った。

 だがその製造はアトランティス文明の科学技術をもってしても困難を極め、ごく少量しか作ることができなかった。そしてその製法はおろか、存在すらも秘中の秘とされたため、後世プラトンがアルマニオンについて知ることはなかった。

 これから語るのは、このアトランティス王国末期の失われた物語である。

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