第十六章 瓜二つ(7)
雲の絨毯の上に浮かぶ石造りの遺跡は、まるで空に浮かぶ神殿のようであった。どこまでも青く広がる空からは、燦々とした陽光が惜しみなく降り注ぐ。
今から千年以上の昔、星空の彼方にある地球という星から来た彼らの祖先は、はじめてこの地に着陸し、そこから世界中に散らばっていった。だとすれば、この遺跡はその着陸地点を後世に伝えるためのメモリアル的なものかもしれない。
恐らくは空を飛ぶスクーターと同じ原理なのだろう。遺跡のすぐそばにはオリハルコンでコーティングされた方舟が今も重力を無視した形で浮かんでおり、その入り口と思われる場所に向けて一本の橋がかけられていた。
だが、その扉は堅く閉ざされている。
そしてその近くには、ラック、ジール、ルサンヌ、キャラン、カーウィン王子の五人が立っていた。ナノは黒猫の姿のまま、シーナの腕に抱かれている。かつて未来の世界でよく見かけた光景だ。
シーナはそこでふと一冊の絵本を思い出した。幼い頃、ネイネの膝の上で幾度となく読んでもらったもので、タイトルは「天空の神殿」である。その中に、主人公たちが七個のアイテムを集め、合言葉を言うと扉を開く場面があったはずだ。
「天空の神殿という絵本を知っているかしら?」
「いや、知らないな」
シーナの問いかけに、ラックがかぶりを振った。後方にいる仲間たちも、読書家のキャランを含め、みな心当たりはないらしい。
「そうなの? 有名な絵本だと思っていたわ」
シーナは皆の意外な反応に戸惑った。しかし彼女以外に誰も知らないのであれば、あの絵本は王族専用だったのかもしれない。
そもそも「天空の神殿」というタイトルと言い、七個のアイテムを集め、合言葉で扉を開く場面と言い、現在の状況と重なりあう部分が多い。時の流れから言って、ここでのエピソードを元に作られた絵本が、極秘裡に後世のグリンピア王家へと伝えられた可能性がある。
「その絵本ではね、主人公たちが七個のアイテムを集め、合言葉を言うと扉が開くのよ」
「それは面白いな。して、その合言葉とは?」
いつの間にかカーウィン王子がシーナの隣に来て、七個のペンダントを方舟に向けてかざしていた。
「もちろん殿下もご存知のあの言葉です」
「それなら私が言おう。テラノム・サーサスール」
王子の声に反応し、方舟の扉がゆっくりと開き始めた。扉の奥から冷たい風が吹いてくる。
「さあ、行こうか」
カーウィン王子が先達し、ナノを抱いたシーナ、そしてラックたちがそれに続いた。彼らの進む前方が指向性の強い明かりで次々に照らし出されていく。かつて、いや、グリンピア王国が滅んだ後の未来の世界で、宝物庫の地下へと進んでいった時と同じである。距離感を失わせる闇の中をしばらく進むと、急にその視界が開けた。
そこは、方舟の心臓部とも言うべき制御室だった。ラックたちが見たこともない不思議な計器や操縦桿が壁一面を覆っている。そこを歩く彼らの姿を追って、部屋の片隅に取り付けられた監視カメラが動いていく。
まだ、この方舟の動力は生きているのだ。
突然、制御室の中央に一人の女性が現れた。着ている服は違うが、シーナに瓜二つである。向こう側が透けて見える半透明な姿は、砂漠のオアシスで見たのと同じ立体映像であることを物語っていた。
「ようこそ、方舟へ。私の名はネリシア。アトランティス王国エラシッポス王家の最後の女王であり、ネリシア王国の初代女王です。ここを訪れたあなたたちに、私たちの身に起きた真実を伝えましょう。あの日、私とカシウスを引き裂いた大いなる災厄を」
ネリシアの映像はそう言い残すと姿を消し、かわりにナレーションのついた立体映像のビデオ上映が始まった。




