表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七の王国  作者: 毎留
70/103

第十四章 戦いの終わりと始まり(3)

 ラックたちが黒い霧の中へと踏み込むと、やはりそこには宇宙が広がっていた。

 真っ白な闇に、大小さまざまな黒い星が渦巻状の星雲と入り乱れて静かに輝いている。音は聞こえない。臭いもない。ただ、闇と光のコントラストだけが遠大な時空に広がっていた。

 陽子、中性子、電子など、我々の住む世界はごく小さな粒子の集まりによってできている。それらには反陽子、反中性子、反電子と呼ばれる対になる粒子があり、それらを集めたものが反物質である。ネリシア王国に伝わる高度な科学技術は、この反物質を動力源としてスクーターを飛ばし、この宇宙の最小構成単位である超ひもの振動条件を操ることで、スーパーストリング砲という強大な兵器を作り出した。

 現在まで反光子の存在は確認されていないが、我々の世界で光子として振舞う粒子が、超光速の世界では反光子として振舞うとしたら、そこは白い闇と黒い光で満たされた世界かもしれない。そして、その超光速の世界では時間を逆行するタイムトラベルも可能になるのである。

 タイムパラドックスという言葉がある。しかしそれを真に受けるのは単なる考察不足に過ぎない。

 かつて古代ネリシア王国の高名な物理学者だったミルド・メーヤル博士はそう述べた。博士によれば、それは時間の次元数を考察していないが故の初歩的な誤解なのだという。

 時間は一次元である――誰もがそう考えている。何の根拠もないのに、そう思いこんでいる。

 だが仮に自分たちと違う別の歴史を歩んできたパラレルワールドがあるとすれば、自分たちの歴史軸とパラレルワールドの歴史軸はパラレル(平行)に存在していることになる。そして二つの歴史軸がパラレルに存在しているとしたら、それを内包する時間は一次元であるはずがない。

 それではなぜ、人は時間を一次元と考えるのであろうか?

 なぜ、たった一つの決められた未来しかないと考えるのであろうか?

 なぜ、滅びの予言を信じるのであろうか?

 なぜ?



 その日、ネリシア王国の首都カシウスの上空には、雲ひとつない青空が広がっていた。

大地に目をやると、琥珀色の素材で覆われた幅1プレトロン(29.8メートル)ほどの道路が縦横無尽に広がり、その両脇には一定の間隔で柑橘系の街路樹が植えられている。道路を行き交うのは歩行者がほとんどであり、家畜や荷馬車の姿は見かけない。

 乗り物は皆、空を飛んでいるからだ。

 時折、道路わきの停留所に上空から銀色の箱が降りてきて、そこで乗客の入れ替えを済ませると、再び上空へと舞い上がっていった。銀色の箱から降りてきた老人が、すぐそばの街路樹にたわわに実ったオレンジ色の実をもいで食べ、喉を潤した。道行く人々は自由にそれを採って食べることが許されている。

 道路脇には二階建てや三階建ての立派な家屋が立ち並びんでいた。それぞれの家の庭には豊かな緑が茂り、その玄関には一家の平安を守るとされる海神像が立っていた。

 果実を食べる老人の横を、十歳くらいの少年が通りかかった。少年は複雑な幾何学紋様を編みこんだ鮮やかな色のローブを着て、その腰の部分を紐で縛っていた。模様の柄こそ違うものの、このあたりでよく見かける服装である。

 少年の名をリゼール・シガイレーという。リゼールは老人の姿を見て、自分も街路樹の果実を採ろうとしたが、背が届かなかった。それを見ていた通りすがりの男性が腕を伸ばし、果実を採ってリゼールに手渡してくれる。

 リゼールはぺこりと頭を下げてそれを受け取り、オレンジ色の皮をむいて、中から出てきた一房を口に含んだ。とたんに甘酸っぱい味と香りが口腔と鼻腔内に広がり、その表情が笑顔に変わる。

 時にネリシア王国暦1347年。彼らの祖先が星空の彼方からこの星に降り立った年から数えると、1348年が経とうとしていた。

 その間、王国に住む人々の暮らしは常に豊かであった。これと言った敵対勢力もなく、祖先が星空の彼方から持ちこんだとされる様々な文明機器は幾星霜もの間、壊れることもなく彼らの暮らしを支え続けてきた。彼らの祖先は地球という星から来たとされ、それゆえ彼ら自身も自分たちは地球人だと認識していた。

 人々はこの豊かで幸せな暮らしがいつまでも続くと信じていた。

 そう、その日までは――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ