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七の王国  作者: 毎留
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第十三章 グリンピア王国の遺産(4)

「アトランティス? 聞いたことはないけど、この聖剣の名前に似ているな」

 ラックが聖剣アトラスの柄に手を当てた。そこにキャランが補足する。

「うん、この世界の歴史に登場する国はネリシア王国、グリンピア王国、イエローサ王国、レッディード王国の四つだけだからね。でもアトラスは古代ネリシア語で『希望』を意味する単語だし、アトランティスは『希望の』と訳すことができるんだ」

「キャランの言う通りよ。古代ネリシア王国には、いつの頃からかアトランティス王国という別の国の歌が伝わっていて、グリンピアへと引き継がれたの。このことは王室以外の人間に口外しないように言われていたけれど、もうそれを守る必要もなくなったから……」

 シーナが寂しげな表情を浮かべた。

「でもこれから向かう場所には、きっとそれ以上の秘密が眠っていると思うわ。そうでなければ、グリンピア王国が滅び、王族が最後の一人になるまで封印する必要なんてなかったはずだから」

 その言葉に全員がうなずく。

「では行きましょう。禁断の間へ案内するわ」

 シーナが先頭に立って歩き始めた。しかしかつての王宮の敷地内に入ったところで樹木の根に足をとられ、転びそうになる。とっさにラックが飛び出し、その体を支えた。

「いいよ、俺が先に行くからシーナは方角だけ教えてくれ」

 正直なところ、何が飛び出してくるか分からないこの状況で、シーナを先に行かせるのが不安だった。

「ごめんなさい、鈍臭くて。あっちよ」

 プライドが傷ついたのか、シーナは少しつんとした顔でつぶやいた。その指さすほうに歩いていくと、まわりの岩壁が黒く焦げた、地下へと続く階段の入り口が見えてきた。固く閉ざされた扉の上には、古代ネリシア語の碑文が残されている。


 1999年7月

 空から恐怖の大王が来るだろう

 アンゴルモアの大王を蘇らせ

 マルスの前後に首尾よく支配するために


 碑文にはそう書かれているらしい。

「実は今まで言えずにいたけど」と前置きして、キャランが説明を始めた。

「君たちはこの1999年をグリンピア王国歴だと思っていないだろうか? でもこの碑文は古代ネリシア語で書かれているね。だから僕はネリシア王国歴ではないかと考えた。そして古代ネリシア王国に関する数少ない文献を探しまわって、やっと判明したんだ。今年はネリシア王国歴で1999年になる。そして今日は七月二日だ」

「……言われてみればそうかもしれないわね。グリンピアの王宮にあった碑文だから、私はグリンピア王国歴だと勝手に思いこんでいたわ。でもそれが本当なら、この碑文に書かれた予言は今月のことなの? 今日私たちがここに来たのもすべては必然だったのかも」

「そうかもしれないね。さあ、先を急ごう」

 キャランが前を見据えると、その言葉に皆がうなずいた。それを確認してシーナが古代ネリシア語の詠唱を始める。

「ノーシ・リクラム・パーラン・ティガール」

 するとそれまでいかなる侵入者をも防いできた扉が自動で開き、下の階へと続く階段が現れた。

「古代ネリシア語で『扉よ、我に真実を示せ』と言うと、この扉が開く仕掛けなの。ここから先は私に先導させて。私はグリンピア王家最後の一人だから、この先にある秘密を誰よりも先に知る権利があるはずよ」

 そう言われて、ラックが先頭を譲った。シーナがナノを引き連れて階段を下りていくと、真っ暗だったはずの通路に明かりが灯っていく。

「まさか、こんな仕掛けがあったなんて……」

 キャランが放心したようにつぶやいた。人間を感知して点灯する明かりや、言葉を感知して開く扉など、かなり高度な技術を要するに違いない。彼が知る限り、現代にこのような技術は残されていないはずだ。

 シーナが階段を下りていくとその少し先に明かりが灯り、最後尾のジールが通り過ぎるとすぐに暗くなる。彼らの周囲だけが指向性の強い明かりに照らされ、その前後には闇が広がっていた。

「なんだか怖いな」最年少のノクトが素直な感想を口にする。

「大丈夫、これを作った人は私たちに何かを伝えようとしただけ。だから危険はないはず」

 シーナの言葉は自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

 やがて目の前が明るくなり、彼らは大きな部屋へと出た。中央には古代ネリシア語で書かれた碑文が置かれてあり、シーナとキャランがその碑文を慎重に訳しながらメモを取っていく。その内容は彼らにとって想像を絶するものだった。


 我々の遠い祖先は、星空の彼方にある地球という星から来た。

 そしてこの星に高度な科学技術を伝え、ネリシア王国を築いた。

 王国の名は初代女王ネリシアにちなんだものであり、首都カシウスはネリシア女王にゆかりのある人物の名に由来する。

 ネリシア王国では無限のエネルギーを生み出し、人々はスクーターと呼ばれる乗り物で自由に空を飛ぶことができた。

 また、現在ではその製法は失われてしまったが、オリハルコンやアルマニオンと呼ばれる金属も存在した。

 これらは決して自然界には存在しえない不思議な金属である。

 ネリシア王国では千年以上の繫栄と平和が続いたが、ある時、背中に羽を持つ者たちが現れた。

 漆黒の破壊神マイヤやアンゴルモアの大王ラプラスらによって、ネリシア王国の科学文明は奪い去られたのである。

 人々は絶望に打ちひしがれたが、そこに現れた戦士たちがまずマイヤを陥落させた。

 そして炎のドラゴンを七体同時に放ち、ラプラスを封印した。

 しかしラプラスの定めた未来を変えることはできなかった。

 我々はマイヤを王国の守護神として迎え入れ、後の世に漆黒の破壊神の正体を伝えることを禁じた。


「漆黒の破壊神マイヤ……グリンピア王国の女神マイヤ様がネリシア王国を滅ぼしたの? これが、グリンピア王国が滅びるまで決して明かされなかった真実?」

「アンゴルモアの大王ラプラスとは何者でしょう?」

「俺は二体のフレイム・ドラゴンを同時に放ち、それをクロスさせるのが精一杯だった。でもカシウスはそれを七体でやったのか?」

「ラック、待ってくれ。この碑文によれば、カシウスはネリシア王国建国時代の人物らしいぞ。それなら俺たちが知っている剣士カシウスとは何者なんだ?」

「俺たちは自分のことを地球人だと思っていたけど、ここは地球ではなかったのか?」

「レッディード王国はラックたちに関する歴史を捏造ねつぞうし、それを調べようとする僕を迫害した。それと同じようなことがグリンピア王国初期にも行われていたのか?」

 皆が思い思いにその疑問を口にした。これまでの常識がすべて覆るかのような思いだった。

 だがしばらく経って冷静さを取り戻したところで、キャランが首をかしげた。

「たしかに凄いことが書かれていたけど、今の僕たちがこれを知っても何にもできない。果たしてこれで終わりなんだろうか?」

「いいえ、あの扉の先に地下二階へと続く通路があるわ」

 シーナが元来た方向を指さす。碑文に気を取られていて気付かなかったが、今下りてきた階段の隣に、炎のように燦然と輝く扉があった。キャランがごくりと唾を飲みこんだ。

「オリハルコンの扉だって? 地上の扉も十分堅牢だったけど、ここから先だけは何としても侵入者から守りたいという設計者の強い意志を感じるぞ」

「その通りよ。そしてあの扉を開ける合言葉は、テラノム・サーサスール」

 シーナが詠唱えいしょうすると、オリハルコンの扉が音もなく開き始めた。奥には下の階へと続く階段が伸びている。

「地下二階か。きっとまたとんでもないものがありそうだな」

 ラックが無意識に聖剣の柄を握りしめた。

「大丈夫、心配はらないわ。合言葉からも分かるとおり、あの奥にあるのは仲間へのメッセージよ」

シーナは階段を見据えたまま静かに答えた。彼女の言う通り、合言葉の意味は「我々は仲間だ」なのである。

 六人は再び自分たちの周囲だけがライトアップされ、前後がまったく見えない階段を下り始めた。見通しが利かない、大地の深淵まで延々と伸びているかのような階段――だがそれも終わりを告げ、彼らは再び広い部屋へと出た。

 部屋の中央には石碑があり、その奥には椅子とハンドルのついたこれまで見たことのない小型の乗り物が六機置かれていた。そのうちの一機には、直径0.5プース(15センチ)、長さ4プース(1.2メートル)ほどの筒のようなものが立てかけられている。また別の一機は、前方にある風除かぜよけのフードが大きくゆがんでいる。

 石碑には古代ネリシア語でこう記されていた。


 私の名はソリナ・マハイラ。

 グリンピア王国暦620年7月、すなわちネリシア王国暦1999年7月、

 アンゴルモアの大王ラプラスが蘇るであろう。

 その計画を阻止するために、今こそネリシア王国最後の遺品を託そう。

 広大なる空は汝らのもの。スクーターの機動力がそれを可能にするであろう。

 偉大なる力は汝らのもの。スーパーストリング砲の破壊力がそれを可能にするであろう。

 旅人たちよ、残された時間は少ない。

 ラプラス復活の地、メーヤルの塔を目指しなさい。

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