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七の王国  作者: 毎留
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第八章 私たちは仲間だ(4)

 フュードの話を聞き終えたラックたちに、しばしの沈黙が訪れた。みな複雑な表情で、フュードにどう声をかけてよいのか考えあぐねている。

 しかしフュードはその視線から逃げることなく正面から向きあっていた。

「すべては私の責任だ。私が一族のおきてを破ってレッディードの人間にペンダントの秘密を話してしまったため、この村は襲われた。しかもその時、ペンダントだけ持って逃げ隠れていた。その結果、多くの村人たちが命を落とすことになった。言い逃れはできない」

 フュードの独白が続き、その場に重い空気が立ちこめた。

「だが、私はそれでも先祖代々の言い伝えを守り、伝えていかなければならなかった。いつの日か剣士カシウスの末裔がオリハルコンのペンダントを持ってこの村を訪れること。聖剣の封印を解くには七個のペンダントが必要になること。いずれ漆黒の破壊神が蘇ること。それに対抗する者として、剣士カシウスの遺志を継ぐフレイム・ドラゴンの使い手が現れること。そして何があっても二個のペンダントを守り抜くこと。正直なところ、私にはそれらの言い伝えがどう結びつくのか、その全容が分からなかった。だから十五年前の惨劇の後、ほとんどの村人たちが去っていく中で、私だけはこの村に留まるしかなかった。でも赤いトラが再び襲ってきたら、二個のペンダントを奴らに奪われてしまう可能性が高い。それならば片方だけでも信頼のおける男に託そうと思って、リューイに預けることにした」

 だからカシウスの仲間の子孫でもないリューイがあのペンダントを持っていたのだと、ラックはようやく理解した。そしてリューイはそのただならぬ歴史的背景についても知っていたのかもしれない。それゆえオリハルコンのペンダントの持ち主であり、フレイム・ドラゴンの使い手であるラックをフュードに引きあわせるために貴重な時間を割いてくれたのだろう。ラックを自軍の戦いに参加させ、その「交換条件」としてハプスの村に案内する。そしてそのために国境警備に向かう本体に後れをとってまで、ラックたちに付き合ってくれた。だがそれも単にラックとの約束を守るためではなく、ラックたちをフュードに引き合わせ、同時に自分の持つペンダントをフュードに返却することが、レッディードとの国境警備よりも重要であると直感していたのかもしれない。

 ラックを戦いに参加させたこと、そして共にハプスの村まで来たこと。その双方がリューイの目的だったとすれば、ラックは彼の思惑おもわく通りに動かされていたことになる。その点は悔しいが、今となっては駆け引きに長けた優秀な軍師だと認めるより他にない。

「そして今日、そのリューイが君たちをここに連れてきてくれた。君たちと出会って、私もようやく理解できた気がするよ。我が一族の使命は、聖剣の封印を解くにふさわしいフレイム・ドラゴンの使い手に、先祖代々伝わるペンダントを託すことだったのだ。ラック、すまないが君の持つデルタイを私に見せてもらえないだろうか?」

 フュードがそう申し出た。彼がラックにペンダントを託すために今までこの村で待っていたのだとすれば、それを受け取ることが礼儀であろう。またそうでなければ、十五年前の惨劇――この村で払われた大きな犠牲に報いることもできない。

「いいですよ、家の外に出ましょう」

 ラックは真っ先に外に出ると、北の空、つまりレッディード王国がある方角へと向き直った。そして皆が出てくるのを待ってから剣を構える。

「行くぞ、これが俺のフレイム・ドラゴンだ!」

 ラックが剣先から放った赤い炎のドラゴンは、長い尾を引きながら青い空の彼方へと消えていった。それはこれからレッディード王国へと乗りこむ彼の意思表示でもあった。イギスを超える剣士になり、奪われた聖剣を取り戻すこと。それがラックの道であるならば、その向かう先はレッディード王国をおいて他にない。

 フュードはそれを見届けると、自分が持つ二個のペンダントをラックに差し出した。

「ありがとう、たしかにこの目で見せてもらったよ。そして私は今こそ確信した。我が一族の使命は何があってもこれらのペンダントを守り抜き、それを今日君たちに託すことだったのだと」

「そう言ってもらえれば幸いです」

 ラックは心を落ち着かせるために目を閉じた。不幸な出来事があったとはいえ、フュードの一族は五百年以上もの間、ずっとこの地でラックを待っていたのである。その思いを無碍むげにすることはできない。重い責務と高揚感にラックの胸が高鳴った。

「ありがとう。俺もあなたの一族の思いを無駄にはしないと約束します」

 ラックが二つのペンダントを受け取ると、フュードは節目がちに微笑んだ。

「こちらこそありがとう。その上でさらにもう一つ頼みがあるのだが、私のデルタイを試させてもらえないだろうか?」

「え?」

 フュードの意外な申し出に、誰もが面食らった。

「自分でも確信はないが、私は君たちのデルタイを強化できるかもしれない」

「それはどういうことですか?」シーナが尋ねた。

「実は先ほどの言い伝えとは別に、私が幼い頃に母がよく歌ってくれた歌があってな。その歌詞が『私のデルタイは私を救えない。目の前の人を救えない。だけど私と出会った時、フレイム・ドラゴンは真の力を解き放つだろう』と言うものだったのだ。そして十五年前のあの日、私は自分の愚かさ、そして無力感を感じるのと同時に、新たなデルタイが宿るのを感じた。恐らくそれは他人のデルタイを強化するものではないかと思っているが、実際に試す機会がなかったのだ」

「それは……その歌はフュードさんのお母さんが作ったのですか?」

 シーナが首をかしげる。

「いや、母も自分の父方の祖母、つまり二代前のペンダントの伝承者から教わったと言っていた」

「それなら多分、剣士カシウスの仲間だったというフュードさんの遠い先祖の時代から伝わっていたものでしょうね。そしてその人は十五年前にこの村で起きた惨劇、そこでフュードさんが村人たちを救えなかったこと、そして今日私たちが出会うこと、それらすべてを予言していたとしか思えません」

「やっぱりそうか。私もそんな気がしたが、どうしても信じられなかった。でも剣士カシウスは未来を予言する石板をノキリの村に残していたようだし、もしかしたら私の祖先にもそのような予知能力があったのかもしれないな」

「きっとフュードさんがデルタイに目覚めることも、ご先祖様は知っていたのでしょうね」

 シーナはラックの横顔を見つめた。グリンピアの建国伝説に出てくる英雄カシウスとその仲間たちは、各地にさまざまな予言をちりばめ、静かに、だが確実に、新しく誕生したフレイム・ドラゴンの使い手を導いている。

「ラック、私はこの申し出を受けたほうが良いと思うけど、あなたはどう思う?」シーナが問うた。

「そうだな、俺も同意見だ。でもフュードさんのデルタイがフレイム・ドラゴンだけを強化するのか、他のデルタイにも有効なのか、そこは興味がある」

「それならまず俺に試してくれよ」

 声を上げたのはジールだった。

「俺はこれまでラックの背中ばかり見てきた。デルタイに目覚めたのもラックが先だし、いつもラックは俺の一歩先を歩いていた。でも俺だってほんの一瞬でいいから、ラックより先を歩いてみたい。だからフュードさんのデルタイをまず俺に試して欲しいんだ」

「ということは、君もデルタイの使い手なのか?」

「ああ、衝撃波で標的を吹き飛ばすデルタイを持っていてね」

「でも本当にいいのか?」

「もちろん」と答えるジールの目に迷いはなかった。

「よし、分かった。まずは現時点での君のデルタイを見せてくれないか?」

「そうこなくっちゃ。行くぜ、アース・インパルス!」

 ジールは斧を取り出し、地面に打ち付けた。衝撃波が大地を伝い、正面に立つ枯れ木を粉砕する。それを見たフュードが納得の表情でうなずいた。

「見事だ。では私のデルタイを試そう」

 フュードがジールに向けて右手を伸ばすと、ジールの体が一瞬だけ光った。ジールは不思議そうに自分の両腕を見つめている。

「もう一度、そのデルタイを試してくれないか?」

 その言葉にジールがうなずき、再び斧をふるった。

「アース・インパルス!」

 地面に巨大な亀裂をうがち、数本の木を貫いてその正面にそびえる山の一角を吹き飛ばす。

 それを目にした全員が言葉を失った。明らかにジールのデルタイは元の何倍にも強化されていたのである。

「良かった……」

 フュードは安堵あんどの息を吐いた。

「フュードさん、俺にもあなたのデルタイを使ってください」

 ラックが頭を下げると、少し遅れてシーナ、ルサンヌ、ノクトの三人も頭を下げた。

「ありがとう。君たちの役に立てるなら、私にとってこれ以上の喜びはない」

 フュードもまた彼らに向かって頭を下げる。積年の自責の念が少しだけ軽くなった気がした。

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