第八章 私たちは仲間だ(2)
フュードの家の中は、土間の上に藁が敷かれ、その片隅に農作業用具や生活用品が積み上げられただけの質素なものであった。
「すまんな、まさか客人が来るとは思っていなかった」
フュードは小さく笑うと、中央にある囲炉裏に火をくべた。そしてラックたちに真新しい藁の山をイス代わりに使うよう勧めた。少し遅れてこの村に到着したジールとルサンヌも、すでに話の輪の中に加わっている。
「あらためて自己紹介する。私の名前はフュード・シューネイルだ。十五年前までは有志たちから寄付を集い、ここで孤児院を営んでいた。ところで君たちがここに来た理由は何だね?」
「カシウスの伝説について、あなたが知っていることを教えて欲しいのです」
ラックが単刀直入に言った。
「ふむ、そういうことか。しかしまだ君たちの素性がよく分からないのでね。まずはそれを教えて欲しい」
「はい」とラックがうなずき、まずは簡単に自分たちの自己紹介をする。
「これまでの経緯ですが、六年前にグリンピア王国で豊穣祭があった日の夜、レッディード王国の最精鋭部隊赤いトラが襲ってきました。もともと王宮にはこれと同じようなオリハルコンのペンダントが二個あったそうですが、聖剣とともに奴らに奪われました。そして俺の父さんはそれを阻止しようとして、敵の隊長イギス・ダンサンに命を奪われ……」
「イギス・ダンサン?」フュードが眉をひそめた。
「その時、俺はフレイム・ドラゴンのデルタイに目覚めたんです」
「では君がその使い手だというのか?」
「嘘だと思うなら後で見せますよ。でもそのせいで俺はイギスに目をつけられてしまい、森の中に逃げこんだところで、ここにいるノクトの祖父と出会ったのです。ノクトたちは剣士カシウスの末裔で、そこには代々二つのペンダントが伝わっていましたが、そのうちの一つをフレイム・ドラゴンの使い手である俺に譲り渡すように言い伝えられていたそうです。だからこのペンダントは今、俺が持っています」
ラックは自分の持つペンダントを再びフュードに見せた。そこには炎のように燦然と輝くオリハルコンがはめこまれている。
「それ以来、俺はイギス・ダンサンを超える剣士になること、そしてレッディード王国から聖剣を取り戻すことを目標に修行を積んできました」
「そうか……」フュードは地面を見つめながら、力なくつぶやいた。
「そして先月、俺はジールやシーナとともにノキリの村に行くことになり、そこでノクトと出会いました。でもその時に赤いトラが村を襲ってきて、ノクトが持っていたもう一つのペンダントは奴らに奪われてしまいました。それで剣士カシウスの仲間だった人の子孫がこの村にいると聞き、何か力になってもらえるかもしれないと思って来たのです」
「ノキリの村も赤いトラに襲われたのか? そんなことがあったとは……。それで君たちは剣士カシウスの伝説についてどこまで知っているんだ?」
その質問に、今度はシーナが答え始める。
「私たちが知っているのは、ペンダントにはめ込まれた金属の名がオリハルコンだということ、聖剣の名前が古代ネリシア王国の言葉で“希望”を意味するアトラスだということ、そしてノキリの村には古代ネリシア王国の言葉で書かれた未来を予言する石板があったことです」
「未来を予言だと?」
怪訝そうな顔をするフュードに、シーナはノキリの村で見つけた石板のことを話した。
「そうか。イエローサやレッディードの建国、君たちの来訪がその石板に予言されていたのか。何とも不思議な話だな。ただ、残念ながら我が家にはそのような石板は伝えられていない」
「それなら、あなたの一族は何を伝えてきたんですか?」
ノクトが尋ねる。
「いいだろう、私が知っていることをすべて話そう。どうやら君たちは本物のようだ。まずオリハルコンについてだが、今より遥かに高度な文明を持っていた古代ネリシア王国が生み出したとされる金属だ。赤い炎のように燦然と輝く色合いをしているが、銅と亜鉛の中間の金属だと言われている」
「中間の金属? 銅と亜鉛を混ぜると真鍮になるけど、それとは違うみたいですね。明らかにオリハルコンと真鍮は別物だし……」
シーナが首をかしげた。
「たしかにその通りだ。あるいは他にもっと秘密があるのかもしれないがね。ともかくそのオリハルコンが埋めこまれたペンダントは、この世界に合計で七個あると言われている。そのうち三個はここにそろっている。私が持つ二個とラック君の持つ一個だ」
フュードはその場にある三個のペンダントを順に指し示した。そこにシーナが補足する。
「王宮にあった二個とノキリの村にあった一個はレッディード王国に奪われたので、現時点で行方が分からないのは残り一個ですね」
「この七個が聖剣を復活させる鍵となるのだ」
「鍵?」とシーナが聞き返した。
「そう、聖剣も七個のペンダントもオリハルコンで作られている。そしてそれらを揃えた時、聖剣が復活すると伝えられてきた。……少なくとも私の家系ではな。これは聖剣のとてつもない力を知っていたカシウスたちが、後世の者たちが簡単には悪用できぬよう、古代ネリシア王国の秘術を使って封印したためだと言われている」
「なるほど、それでグリンピア王国で行われてきた剣闘技大会の歴代優勝者たちは、誰も聖剣を鞘から抜くことができなかったのか」
ラックが納得したようにうなずいた。
「でもレッディード王国はそのことを知っていたのかしら? グリンピア王国の首都カシウスでは六年前に聖剣とペンダントが奪われ、一ヶ月ほど前にはノキリの村が襲われてペンダントの一個が奪われました。この村を十五年前にレッディード王国が襲ってきたのも、村人が持つペンダントを狙っていたからだと聞いています」
シーナの言葉に耳を傾けるフュードが唇をかんだ。
「そう、すべては私の過ちだ……」
「どういうことですか?」シーナはあくまでも穏やかな口調で尋ねる。
「私はこのことをある男に話してしまった」
「それを私たちにも話してもらえますか?」
「そうだな。思い出したくはないが、私にはそれを君たちに話す責務がある」
フュードは大きくため息をついてから、かつての惨劇について少しずつ語り始めた。




