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七の王国  作者: 毎留
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第六章 神々の姿(4)

「ラック、加勢に来てやったぞ。やっぱり真のヒーローはこのタイミングで現れるものだよな」

 ジールの得意げな自己アピールに、ラックは苦笑いを浮かべる。

「でもどうしてここに?」

「俺も驚いたぜ。昨日の午後、突然シーナが俺たちの前に現れたんだからな。それで今日の戦いの詳細を聞いて、さっきから遠巻きに様子を見ていたのさ。この前はひどいことを言ってすまなかったな。俺は今からお前に加勢するぞ」

 ジールが丘の上を見上げると、障害物のない直線上に三基の砲台が見えた。その一基をめがけ、ジールが気合いのこもった声を発する。

「アース・インパルス!」

 衝撃波が砂漠を疾走し、砲台の車輪に直撃した。その姿勢が大きく傾き、砲撃部隊の兵士たちの動揺が見て取れる。

「もう一発だ」

「構わず撃ちなさい」

 ジールとシシカ女王の声はほぼ同時だった。

 衝撃波が別の砲台の前面に当たり、その突き上げる勢いで砲台ごと後ろにひっくり返るのと同時に、砲身が火を噴いた。斜め後方を向いた砲身から放たれた砲弾は、あろうことか後方にそびえ立つメーヤルの塔の最上部を直撃してしまう。

 塔の上部が煙で包まれるのを見て、人々のあいだに動揺が広がった。塔の最上階には知の女神メルネがいると信じられていたが、もしそれが事実なら女神を直接攻撃してしまったことになる。

 次第に煙が薄くなり、塔の最上部が見えてきた。あれだけの砲撃を受けたというのに傷一つついてない。するとその時、煙の中から背中に羽の生えた少女が飛び立つのが見えた。

 その顔立ちにはやや幼さが残る。年のころは十六歳くらいだろうか? ブラウンの髪をショートカットにして一部を黄色く染め、耳には大きな星型のイヤリングをしていた。黒と黄色の幾何学模様が織りこまれたブラウスの胸元には、派手なアクセサリーが光り、その上から黄色のスカーフを羽織っていた。細い両足が、黄色いミニスカートとヒールの高い茶色のブーツの間からのぞいている。

「ちょっとぉ、いきなり何すんのよぉ。この塔がぁ、ネリシア王国時代の建造物でなければぁ、崩壊してたでしょぉ」

 少女が声を上げた。語尾を伸ばすやや舌足らずな口調。黄色く派手な衣装も相まって、少し頭の弱そうな女の子にしか見えない。

 だが彼女の指摘するとおり、普通の建造物であればあの砲撃で全壊したはずなのに、メーヤルの塔には傷一つついてはいなかった。そしてその直撃にまきこまれたであろう彼女もまた、怪我けがはおろか着衣の汚れさえ見られない。

「それにぃ、ここにいるのは私だけじゃないのよぉ。陛下にもしものことがあったらぁ、あんたたち全員ただじゃおかないからねぇ」

 プリプリ怒る、という表現がふさわしいだろう。少女は愛らしい仕草で精いっぱい怒っていた。

「もしかして、あなたは知の女神メルネ様ですか?」

 その場にいた人間を代表して、リューイが質問を投げかけた。

 メーヤルの塔の最上階に住み、背中の羽で空を飛び、砲撃をもろに受けても傷一つ追わない、少し頭の弱そうな少女。知の女神と聞いて思い浮かべるイメージとはかけ離れているが、それ以外の可能性は考えられなかった。

「うん、そうだよぉ、よく分かったねぇ。っていうかぁ、ここ結構いろんな人たちがいるねぇ。ルサンヌ、久しぶりぃ。無事だったぁ?」

 知の女神メルネを自称する少女は、人々の群れからルサンヌの姿を見つけ出して手を振った。

「うん、おかげで無事だったよ、ありがとう。私は半信半疑だったけど、やっぱりメルネちゃんが知の女神だったんだね」

 ルサンヌも両手を挙げ、無邪気な笑みを浮かべた。知の女神に仕えるはずの修道女がメルネちゃんという不遜ふそんな呼び方をしたことに、両軍から動揺とヤジの声があがる。

「外野はうるさいなぁ。昔からルサンヌが私を呼ぶときはぁ、ちゃん付けなのよぉ」

 メルネが両手を振りながら、あたりのざわめきを抑えた。どうやら二人は旧知の仲らしい。

「あとは他にもぉ、フレイム・ドラゴンのラック君、アース・インパルスのジール君、グラビティ・クラッシュのノクト君、それにマイヤ様お気に入りでアニマル・マスターのシーナちゃんまでいるねぇ。ここにいないのはキャラン君くらいかなぁ。やっぱり私たちの計画にとってぇ、かなめとなる時代だけあるわぁ。これだけのデルタイ使いが集まるなんて壮観ねぇ」

 メルネの発する言葉の意味が分からず、再びあたりに動揺の声が湧出ゆうしゅつした。

 それにしても、なぜメルネは初対面であるラックたちの名を知っていたのだろうか?

 困惑するラックとリューイの目が合った。リューイの眼にも困惑とおののきの感情が見て取れる。

「はい、それでは本題に入りまぁす。あの塔を攻撃した人ぉ、手を挙げてぇ」

 メルネが自分の右手を挙げて見せたが、誰もが口をつぐんだまま微動だにしない。

「素直に言わないとぉ、この場にいる全員に攻撃するよぉ。それでもいいのぉ?」

 その言葉に観念して、ジールが手を挙げた。

「砲撃の向きを狂わせたのは俺だ……です」

 イエローサ王国の守護神として、グリンピア王国の女神マイヤと同列の存在だと分かっていても、その見た目や喋り方からはあまり敬語を使う気になれない相手だった。

「それなら砲撃したのはだぁれ?」

 メルネが砲台のそばにいた兵士をにらみつけると、兵士は上目遣いになり、申し訳なさそうに答える。

「女王陛下の命で、私が砲撃しました」

「何よ、私のせいにするの?」

 今度はシシカ女王に睨みつけられ、兵士は激しく動揺した。

「いえ、そんなわけでは……」

「そう、お前のせいよ」

 シシカ女王が満足げにうなずく。そのやり取りを見ていたメルネの顔が険しくなった。

「あーあ、見苦しいなぁ。あんたぁ、今の女王でしょぉ。とてもリファの血を引いているとは思えないなぁ」

 メルネの言うリファとは、イエローサ王国の初代女王リファ・セイザールのことであろう。

「でもねぇ、あんたみたいな雑魚ざこには興味ないしぃ。私がこの場で手合わせしてみたいのはぁ」

 メルネは少し間をおいてから、ラックを指さした。

「じゃーん。フレイム・ドラゴンの使い手ラック君でぇす」

 そして今度はこぶしを握ったまま両腕を胸の前で向き合わせ、かき混ぜるようにグルグルと回した。それはイエローサ王国で女神メルネに祈りをささげるときに行われる動作と同じである。

「実はさぁ、これぇ、私がデルタイを発動する時の仕草なのよねぇ。名前はホッピング・ボムって言うんだけどさぁ」

 メルネが右手、左手の順に前方へと突き出しながら掌を開くと、ラックの目の前に二つの黒い玉が浮かび上がった。バリバリと放電音をあげながら、それらは次第に大きくなっていく。

「逃げろ」

 ラックや周囲の兵士たちがとっさに身の危険を感じ、後方に退いた。同時に二つの黒い玉が爆発し、ラックは馬上から吹き飛ばれて地面に転がる。

 見た目は少し頭の弱そうな不思議ちゃんにしか見えないが、その破壊力は本物だ。まともにくらったら即死だろう。ラックは兵士たちを巻き込まないように移動しながら、メルネを睨みつけた。

「ゴー、ゴー、ダンシング! 久しぶりにはじけるよぉ。それぇ、ホッピング・ボム!」

 メルネは空中でステップを踏む動作をしながら、再び両腕をグルグルと回し、両掌をラックに向けて開いた。ラックのそばに二つの黒い玉が忽然こつぜんと現れ、大きくなって爆発する。

 この少女は言動もそうだが、デルタイも文字通りはじけている。リューイが、デルタイは本人の性格を反映すると言っていたとおりである。

「どうしよう?」

 ラックが自問した。イエローサ王国の守護神に攻撃するのは気がひけたが、このまま逃げ回っていてもらちが明かない。いや、そもそもラックは一方的に攻撃を仕掛けられた側なのだ。黙ってやられる義理はない。

「反撃してやる。フレイム・ドラゴン!」

 ラックが全力で炎のドラゴンを放った。しかしそれはメルネの手掌しゅしょうによって簡単にはじかれ、虚空こくうへと消えて行った。冷や汗が背筋を伝わる中、ラックは一つだけ確信したことがあった。

 この女、こう見えてイギスより強い。

「さあ、どんどん行くよぉ。ホッピング・ボム!」 

 更にメルネの攻撃が続いたが、ラックはそれを避けるので精一杯だった。

 走り回るラックの足に乳酸が蓄積していく。突然その足が砂漠の砂に取られ、体勢を崩した。それを見計らったかのようなタイミングで、再び彼のすぐ傍に黒い玉が出現する。

「もうだめだ」

 ラックはその瞬間、死を覚悟した。

 同時に黒い玉が爆発するが、いつの間にか彼の前に出現した透明な壁がその大部分を吸収してくれたようであった。だがそれも完全ではなく、ラックの体は風圧で後方に吹き飛ばされる。

 痛みをこらえながら顔を上げると、ルサンヌが少し離れた場所から伸ばした両腕をラックへと向けていた。きっと彼女が空気の壁を作るデルタイでラックを守ってくれたのだろう。

「ありがと……」

 ラックが礼を言い終わる前に、再び黒い玉が現れた。今度は左右別々の方向に一つずつである。ルサンヌが再び空気の壁を作ろうとするが、まだ慣れないせいか間に合わない。

 ラックは今度こそ助からないと思った。しかし左右二つの黒い玉は白く変色し、そのまま小さくなって消滅してしまう。

 今度は何が起きたのだろうか?

 上空を見上げると、メルネは東の空を見つめているようであった。その視線の先には、背中の羽で空を飛び、緑色のローブを着た女性――六年前の豊穣祭で見た女神マイヤの姿がある。

「あ、マイヤ様だぁ。お久しぶりぃ」

 メルネがマイヤに手を振った。

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