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七の王国  作者: 毎留
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第六章 神々の姿(3)

 そして五年が過ぎた現在、二人は王国の聖地とも言うべきメーヤルの塔の南に広がる砂漠で対峙たいじしていた。

「リューイ。お前と戦うのは私の本意ではない。おとなしくメーヤルの塔を明け渡せ」

「何を今さら。そんなことできるわけがないでしょう」

「そうか、残念だ。ところでお前の隣にいるのは、お前が作った幻か?」

 カプリーの質問に、ラックが憮然ぶぜんとした顔で答える。

「失礼なことを言うな。なんで俺がこいつに作られなきゃならねえんだよ」

「その通りです。彼は同い年のシーナという女性に一方的に想いを寄せる生身の男性ですよ」

 リューイは同調しながらも、そこに余計な情報をつけ加えた。いちいち喧嘩腰になるラックへの軽い仕返しだろう。ラックがリューイを睨みつける。

「リューイの作った幻でもそのくらいの台詞は言うだろうからな。判断に迷うところだ。だが、攻撃してみれば分かること」

 カプリーの声と同時に、ラックの目の前から一本の槍が現れた。突然の出来事だがラックは辛うじてかわし、馬の手綱を引いて後ろに下がる。

「なんだ? 今のは……」

 左肩にけるような痛みを感じる。右手で触ってみると、てのひらが赤く染まった。かわしたつもりだったが、少しかすっていたようだ。

 カプリーが何らかのデルタイの持ち主だとは聞いていたが、それが分からないままここに漫然と留まるのは危険である。

 ラックの本能が警戒信号を発した。攻撃は最大の防御なりという言葉を思い出し、馬上で剣を構える。

「フレイム・ドラゴン!」

 しかしラックが放った炎のドラゴンは、カプリーのところに届く手前で何者かによってはじかれ、軌道を変えた。ラックはますますもって身の危険を感じるが、その一方でラックのデルタイを見たカプリーにも動揺が見て取れた。

「はじかれたということは、幻ではなく実体ということだな。あれは本物のフレイム・ドラゴンか?」

 カプリーが自問した。それが皮肉にも、彼女自身のデルタイの正体をリューイに悟らせるヒントになる。

「なるほど。フレイム・ドラゴンをはじいたということは、そこに実体が隠れているということですね。シーナさんの情報より兵力が少なかった理由がやっと分かりました」

 つまりカプリーのデルタイはリューイと真逆なのだ。リューイのデルタイが幻、つまり存在しないものを存在するかのように見せるのに対し、カプリーのデルタイは実際に存在する兵士たちの姿を相手の目に見えないようにするものだったのである。しかもこのデルタイは二人が仲たがいした後に目覚めている。もしかしたらカプリーの側にもリューイに対する強い思い入れ、そして反駁はんぱくする気持ちがあったのかもしれない。好きという感情は、嫌いという感情に容易に変化しうる。しかし無関心にはなり得ないものだ。

 カプリーのデルタイによって姿を消した兵士たちの一部は最初からラックたちとカプリーの間に控えており、そうとも知らずに近づいたラックは至近距離から攻撃を受けることになったのだろう。

「ラックさん、我々とカプリーの間には、彼女のデルタイによって姿を消した兵士たちがいます。うかつに近づくと危険ですよ」

「なるほど、そういうことか。ところで俺はカプリーを食い止めれば良いんだな?」

「ええ、でも何を?」

 リューイが質問するより先に、ラックは上空に向けてフレイム・ドラゴンを放った。それは大きく弧を描き、透明な兵士たちの頭上を越えてカプリーに直撃した。

「フレイム・ドラゴンの軌道を曲げるのは結構難しくてね。俺なりに頑張って修行したんだぜ」

 ラックがリューイに勝ち誇った表情を見せる。

 カプリーが落馬すると共に、ラックたちの目の前に前方と上方を盾で守った兵士たちの陣形が姿を現した。最前列の兵士たちが前方に盾を構え、その後方の兵士たちが上方に盾を構えていた。そしてそのすき間には槍部隊が控える陣形をファランクスの密集陣形と呼ぶ。目に見えない鉄壁の陣形で前進し、メーヤルの塔までたどり着くつもりだったのだろう。

「一応、手加減はしたぞ。元々はあんたの仲間だったんだろ?」

「ありがとう、恩に切ります。かつての同僚であり、朋友でした。私にとって大事な人であり……今は敵です」

 リューイの表情が険しくなった。

「全軍、かかれ。左舷から敵の陣形を切り崩しなさい」

 リューイの声と共に、後方に控えていたイエローサ兵たちが前進を始め、両軍入り乱れての激しい戦闘が始まった。こうなればカプリーのデルタイをもってしても、自軍だけの姿を消すような器用な真似はできないだろう。

「やめて!」

 その時、不意に一人の修道女が声を上げた。昨日、修道院でリューイと口論になったルサンヌだ。後ろから両軍の戦いを見守っていたのだろう。その横にはナノを抱くシーナの姿もある。ルサンヌはさらに声を張り上げたが、その声はもう兵士たちの耳には届かない。剣が、槍が、両軍の間で入り乱れ、両軍の兵が傷つき倒れていく。

「もう、戦いをやめて!」

 再びルサンヌが叫び、無意識に両手を前方に伸ばした。その瞬間、彼女の全身が淡い光を帯び、両軍の間に見えない空気の壁が出現した。壁は両軍を分かち、それ以上の戦闘を不可能にする。

 いくら剣や槍を振るおうが空気の壁にはばまれることを知った兵士たちが、お互いににらみを効かせながら間合いを取った。

 その不思議な現象に驚いたリューイが辺りを見回し、両手を伸ばすルサンヌの姿を見つけた。そしてこの不思議な壁がルサンヌのデルタイによって生み出されたことをいち早く悟る。

「なるほど、それがあなたのデルタイ、そしてあなたの答えですか。人々を傷つけさせない、ただ守るだけのデルタイ。立派な答えです。少なくとも戦うしかなかった私よりはね」

 リューイが自嘲じちょう気味に笑った。その時、不意に巨大な砲弾がカプリーの率いる陣営に着弾した。爆音とともに数十人の兵士が吹き飛ばされる。

「なにごとだ?」

 兵士たちが砲弾の飛来した方角を見ると、小高い丘の上から両軍を射程に収めた移動式の大砲三基が現れた。遠距離攻撃を得意とする、イエローサ王国の砲撃部隊である。

 そしてその横には、イエローサ王国のシシカ女王その人の姿があった。小柄だが背の高い帽子をかぶることで威圧感を演出している。

「女王陛下、どうしてここに」

 リューイが放心した様子で女王をあおぎ見た。しかし女王はそれを意に介せず、勝ち誇った笑いを浮かべる。

「この国の平穏のためには、このくらいの犠牲など些細ささいなことなのよ。さ、続けなさい」

「砲撃用意。撃て!」

 女王軍の兵士が声を張り上げると、三基の大砲が火を吹いた。リューイはそれを恨めしそうに見つめながら、唇をかんでいる。

「今回、両軍間で大砲は使わないと約束したはずです。私には白兵戦を命じておきながら……我が軍をおとりに使ったのですか?」

「どうしてまた攻撃するの? もうこれで終わると思ったのに……。あの人たちにだって家族がいるはずなのに、これ以上戦い続けても私のような思いをする人間が生まれるだけなのに……」

 ルサンヌは放心した表情で、がっくりと地面に膝を付いた。眼には悔し涙があふれている。

「あの砲台、邪魔だな。叩き壊すぞ」

 その姿を遠巻きに見ていたラックがフレイム・ドラゴンを放とうと構えるが、リューイによって引き留められた。

「あなたのデルタイは炎のドラゴン。砲弾の火薬に引火すれば、あの場で爆発を起こしますよ。女王陛下を巻きこむような惨事となれば、今度はイエローサとグリンピアの全面戦争にもなりかねません」

 その言葉で、ことの重大性を認識したラックがうなだれる。

「ちくしょう。こんな時、あいつがいれば……」

 そう、ジールがいれば、アース・インパルスの衝撃波で砲台だけを引火させずに壊すこともできただろうに。

 だがジールとは国境広場で別れて以降、音信不通になっていた。

 ラックが無力感に打ちひしがれたその時である。

「あの砲台を壊せばいいんだな」

 後方から聞き覚えのある声が聞こえた。ラックが振り返ると、そこにはジールとノクトの姿があった。

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