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七の王国  作者: 毎留
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第五章 戒律の王国(4)

 国境線の西にあるイエローサ側の広場を乾いた風が吹き抜けていった。いつもなら人々が通り過ぎるだけの味気ない場所に、今は人々の熱気が渦巻いている。

「一体、何があったのさ?」

「行方不明になっていたグリンピアのティーナ姫が現れたらしい」

「国境やぶりの男がいて、ここで暴れだしたんだ」

「私は見たよ、あれは絶対フレイム・ドラゴンだね」

「剣士カシウスの? そんなバカな」

「それでその姫様と国境やぶりの男はどうなった?」

「リューイ・レイレリールさんが取調べをしているそうだ」

 ジールとノクトはそのうわさ話に聞き耳を立てながら、ラックとシーナが連れて行かれた先をじっと見つめていた。

「まずいな、シーナのことがばれている」

 ジールが隣にいたノクトにだけ聞こえる声でつぶやいた。

「それ、どういうこと?」

 ノクトはまだシーナが行方不明になったティーナ王女だと知らない。そのあたりの事情や経緯を、ジールは小声で説明した。

「そうか、でもそういう事情なら二人とも危ないんじゃないか?」

 ノクトが不安げな表情を浮かべたその時、取調べが行われていた建物の扉が開き、ラックと一人の若い女が姿を現した。

「おい、ラック、シーナ、無事か?」

 ジールとノクトが駆け寄ろうとするのを、イエローサ王国の兵士数人が阻止して、小さな声でささやく。

「俺たちに話を合わせろ。目の前にいるあの女がお前たちの連れのシーナだということにするんだ」

 そう言われて見ると、最初シーナかと思った女は微妙に顔立ちが違う別人だった。シーナに似た代役を立てることで、ここに現れたのがティーナ姫ではないと人々に納得させるつもりなのだろうか。

「分かった。とりあえずそうするよ」ジールがうなずいた。

 ノクトも何となく事情を察したのか、「俺は黙っているよ」と答える。

 その頃合いを見計らったかのように、ラックたちの後ろから二人の男が現れた。黄色と若草色の制服を着ており、それぞれイエローサとグリンピアの人間だと分かる。

「ティーナ姫とは他人の空似でしたね」

 イエローサの男がグリンピアの男に話しかける。

「どうやらそのようだな。先ほどは姫そっくりだと思ったのだが……」

 グリンピアの男がいささか腑に落ちない様子で首をかしげた。

「ではそれが確認できたところで、私から皆さんに説明させていただきましょう。私はイエローサ王国の軍属でリューイ・レイレリールと申します。先ほどはこちらにおられるグリンピア王国審査官のハルス・ロイフォー殿がこの女性を行方不明のティーナ姫と勘違いされたようですが、ご本人の言われるとおり他人の空似でした。そしてこちらの男性はフレイム・ドラゴンの物まねをする旅の手品師だったようです」

 リューイが右手の指をパチンと鳴らすと、ラックが地面に手をかざした。そこから火柱のようなフレイム・ドラゴンが現れ、すぐに消えていく。これがリューイの生み出した幻だと気付く者はいない。

「タネは明かせないと言っていますが、彼らはこの手品で剣士カシウスとティーナ姫の寸劇を演じ、チップをもらって旅を続けていたそうです。今回は国境やぶりをして人目を惹き、たくさんのチップを集めるつもりだったようですが、彼らはその愚かな行為のせいで収容所に送られることになってしまいました。こんな彼らを哀れと思うなら、最後にチップを恵んでやってください」

 リューイと名乗った男の話を聞き、その場にいた人々はラックをののしりながら次第に散っていった。一部の者はラックの足元にコインを投げていくが、大した額でない。グリンピアの審査官も首をひねりながら自分の持ち場に戻っていった。

 あとに残されたのはリューイ、ラック、そしてシーナ似の女だけである。リューイが満足そうな笑みを浮かべる横で、ラックの目はどこか空ろだった。

「ラック、一体何があったんだ?」

 ジールとノクトが駆け寄ると、ラックが悔しそうに唇をかんだ。

「俺もシーナも無事だ。でもシーナはしばらく釈放されない」

「だから何があったんだよ」

「シーナを人質に取られた。そして俺はジールと一緒に兵士としてこの国の政府軍に加われと言われた」

「どうして俺たちがイエローサ軍に加わらないといけないんだよ?」

「もうすぐこの国で内戦が起きる。イエローサ王室に反旗を翻した反乱軍が相手だそうだ」

「そんなの、俺たちとは関係ないだろ」

「頼む、俺と一緒に戦ってくれ。お前はいつだってフレイム・ドラゴンの使い手である俺に協力してくれるんだろ?」

 すがるような声を出すラックが、ジールから目を背ける。

「はあ? いい気になるなよ。どうして俺がお前みたいなクソ生意気な奴に協力しないといけないんだ。バカにするのもいい加減にしろ。他国の戦争に巻き込まれるなんて真っ平だ」

 ジールは激しく悪態をつき、オロオロしているノクトにも怒鳴りつけた。

「お前もこんな奴らにつきあって他国の内乱に巻きこまれる必要はねえ。さあ、行くぞ」

 ノクトは速足で立ち去るジールとその場に立ち尽くすラックの顔を見比べてから、ジールの後を追う。しかしその足は速く、ようやく追いついたのはだい離れた場所だった。

「おい、待ってくれよ。ジール」

 その言葉にジールの足が止まった。

「良かったのか、ラックとあんな別れ方して」

「もちろんさ」

 振り返るジールがにやりと笑う。

「あれはな、俺たちの合図なんだよ。六年前、フレイム・ドラゴンのデルタイに目覚めたラックは赤いトラのイギスに命を狙われることになって、それ以来最近まで俺たちは山奥の村に隠れて修行をしていたんだ。俺は正直、悔しかったぜ。『どうして伝説のデルタイの使い手が俺じゃなくてラックなんだ、お前だけフレイム・ドラゴンの使い手になりやがって』とか言って、何度も喧嘩けんかしたもんだ。そのたびに仲直りしたけどな。そんな経緯があるから、ラックが『フレイム・ドラゴンの使い手』と自分から言い出すのは、俺に喧嘩を売る合図になったんだ。あいつはきっと目の前にいるイエローサの人間をあざむいて、俺に別行動して欲しいと伝えてきたんだと思う」

「ふーん、そういうことだったのか。俺はまたてっきり二人が本気で喧嘩したのかと思ったよ」

「この生意気な野郎め、と腹が立ったのも事実さ。でも俺はあいつを信じるよ」

 ジールはラックたちの出てきた建物を見つめた。すでに屋内に入ってしまったのか、そこに人影はない。

「さあ、とりあえずは今日の宿を探さないとな。砂漠で野宿してサソリに刺されるのはごめんだ」

 ジールが肩をすくめる。砂地へと伸びる影はすでに長くなり始めていた。

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