プロローグ
プロローグ。なので、極短いもの。ここから白奈の物語は始まります。
「白奈~! そっち行った~!」
「うえぇ⁉ わわわっ⁉」
一匹の魔物の接近に、白い髪が慌ただしくたなびく。燃えるような赤い瞳は、明確な焦りの色を帯びていた。
対応しようと慌ててタブレットを出そうとするが、手がもつれて上手く出すことが出来ない。魔物は見る見るうちに、白奈に近づいて来ている。
「あわわわわわ――ひゃあっ⁉」
「何やってるの⁉」
後ずさりしながらゴソゴソやっていると、地面から飛び出していた木の根に足を取られ、盛大に尻もちをついてしまう。
「いったぁ……」
「痛がってないで⁉ 防御防御!」
「あっ! ま、間に合ってぇ!」
魔物は既に目の前まで迫って来ている。防御のために魔法を使おうと手を前にかざすが、間に合うかは五分五分というところだろうか。魔法の展開が先か、魔物の鋭い爪で切り裂かれるのが先か。そんなときだった。
「えっ⁉」
目の前にいた魔物が、突如白奈の視界から消え去る。激しく吹き飛ばされたのだ。横っ腹に、強烈な打撃を受けたために。
「え、栄華ちゃん!」
「はぁ……しっかりして白奈。貴女は、私たちの隊長なんだから」
「うっ。ご、ごめん」
叱責を受け、反射的に謝ってしまう。
「謝るのは後よ。まずは任務を遂行する――ほら、立って」
「あ、ありがとぉ」
差し伸べられた手を取り、立ち上がる。言う通り、先に任務を終わらせなければ。
「チェリムは一人で戦ってくれている。私たちも頑張るわよ」
「う、うん」
横目で見ると、少し離れたところでチェリムが魔物と一対一で戦っているのが見える。こちらを早く片付けて、あちらに増援に行きたいところだ。
「私が接近戦を仕掛けるわ。白奈は援護をお願い」
「分かったぁ!」
魔力を足に集中させ、素早く動く技術《クイック》。栄華はそれを使って瞬時に魔物の目の前に移動。獣型の魔物の顎に肘を打ち込みその威力で浮かせる。それに追撃を加えるべく、四本の魔法の矢を放つ白奈。高速で迫る矢は、見事に全弾命中。恐らく、相当の衝撃に襲われていることだろう。
だが不思議なことに、魔法を受けた魔物の身体はほとんど移動しておらず、まるで静止しているよう。敢えて大きく動かさないよう、向かう方向を上手く調節したのだ。このために。
「はぁっ!」
とどめの一撃が、魔物の身体へと叩き込まれる。魔力を纏い身体能力を強化した栄華の全力の回し蹴りを胸に受け、その威力に吹き飛ばされて思いっきり木へと叩きつけられた。
まったく動く様子の無い魔物を見ると、蹴りを叩きこまれた胸部が陥没している。獣型の魔物は元々からだが頑丈で、それを更に魔力で強化しているために相当硬い。それを回し蹴りの一撃でのしてしまった栄華。
「あ、相変わらず凄い威力だよぉ……」
そもそもで、魔物の数は数体と多くは無い。こちらは栄華に任せておけばまず問題無いだろう。ならばとチェリムの方を見てみると、そちらもあと少しで倒せるといったところ。
「……はぁぁ」
天を仰ぎ、思わず溜息。まったくもって、今日は良いところ無く終わりそうだ。
空は見事に晴れ渡っている。だがいくら眺めていても、白奈の気持ちが晴れることは無かった。
どれくらいの期間で次を上げられるかは分かりませんが、あまり空けないで上げれるようにしたいと思っております。