閑話6 聖女から癒しの女神へ
わたしの名前はサーシャ。
今はアハティス様のもと、癒しの女神をさせていただいております。
アハティス様と初めて出会ったのは、まだわたしが人間として生きていた頃のことです。
わたしはアハティス様のお父様が創造神としてお造りになった世界に住んでおりました。
創造神様の教会の孤児院で育てられ、光の魔法に適正があったことが見出され、神官としての魔法教育を受けさせていただけました。
そこから私の光の魔法の適正が花開いたのです。
わたしの魔法の力は、死を迎えた人を生き返らせることはできませんでしたが、瀕死の重症を負った者の傷を癒す、片腕がとれてしまった者の腕を取り付ける、それどころか欠損部位を魔力で生み出し新たにつくることさえできたのです。
そのような力を持ったわたしは、「聖女」や「創造神様の愛娘」と言う二つ名をいただき、神殿の奥で暮らしておりました。
そんな折、異世界から召喚された勇者タカオと出会ったのです。
勇者タカオは、自分は主人公であるから、わたしに自分に尽くすように求めました。
ですが教会が私の癒しの力を外に出すことを認めず、タカオには別な者を供として差し出しました。
それでもタカオはわたしを求めて何度も教会を訪れました。
教会に来るたびに、花を、服を、食べ物を、宝石を……。
いろいろな物をお土産として渡されました。
物ではわたしの心は動くことはありませんでした。
それに彼は後にハーレム勇者と呼ばれるほど、女性が回りに集まっていたのです。
毎回違う女性と一緒に教会を訪れていたのですから、わたしに構う必要など無かったと思います。
ある日、わたしは創造神様への祈りの間で、神への祈りを捧げておりました。
そこにタカオが入室してきました。
祈願中は、関係者以外立ち入り禁止でした。
ですがタカオは勇者の身分を出し、強行的に入室したのです。
そして祈りの最中のわたしの腕を掴み、強制的に祈りを止めさせました。
「勇者として命じる。
聖女サーシャよ。
我が力となり、我を癒せ。」
わたしは返答に困りました。
なぜなら創造神様への祈りを邪魔をすると言う事は、創造神様を冒涜する行為であり、教会の中では許される行為ではありません。
もちろん、勇者だからといって、特別に許される行為でもありません。
「腕を離していただけますか?」
わたしの言葉にタカオは、腕を離しました。
わたしは軽く深呼吸をすると、タカオを見て言いました。
「あなたが勇者であると教会は認めません。
いえ、このような行いをした今、勇者であると認めることはできません。」
「俺は創造神からこの世界に召喚された勇者だ。
創造神の神官であり、聖女であるお前は、俺に尽くす義務がある。」
どこからどうすればそのようなことになるのでしょうか。
「神官は創造神様の神官であり、勇者の神官ではありません。
勇者には御付きの神官が教会から派遣されているはずですが?」
「そんなのは関係が無い。
俺は聖女であるお前が欲しいんだ。
一緒に旅をすれば、俺の良さがわかる。
だから一緒に来るんだ!」
自分の都合で話を進めようとするなんて、孤児院の子供でもそんな言い方をしません。
どれだけ我侭な子供なのでしょうか。
「そのような…………。」
わたしが言葉を続けようとしたとき、世界が光り輝きました。
光の中からミディアムヘアーの白銀色の髪の女性が飛び出し、タカオを殴りつけました。
そして、その後からもう一人、金色の髪の女性が現われタカオを魔力で縛りました。
『いい加減にしなさい、馬鹿タカオ。
お父様もあなたの行動に困っています。
お父様の勇者として、嫌がる女性を無理やりに連れ出そうとするとはどう言う事ですか。
創世神様から頂いた魂と言えど、返答によっては命はありませんよ。』
金色の髪の女性がタカオをにらみつけながら、そう言いました。
言ったと思うのですが、口は動いていません。
あれ?
口が動いてないのに声が聞こえてた?
「アハティス様。
俺は、無理やりに連れ出そうとしてない。
聖女として勇者を助けるのは当たり前だから、彼女を供にしようとしたんだ!」
『何を自分勝手なことを言っているのですか。
あなたは私が来なければ力ずくでも連れ出していたでしょう。』
「それは……。」
『勇者タカオ。
あなたには呆れました。
今後、この娘に近付くことは許しません。
今回は目をつぶりますが次回はありません。
もしも次に同じことを行ったら勇者の力を封印します。
ここから退室しなさい。』
そう金髪の女性が言うとタカオはその場から消えました。
『娘よ……。』
金髪の女性がわたしを見ています。
初めて彼女の顔をまじまじと見ました。
肌は透き通るように白くて綺麗です。
それに彼女の目も金色に輝いています。
『聖女であり、お父様の愛娘ね。
それでは、私の妹なのかしら。』
そう彼女は言うとわたしに笑顔を見せてくれました。
『私の名前はアハティス。
この世界の創造神の娘。
娘……いや、サーシャよ。
あなたはこの世界一の癒し手。
あなたは世界の理を知ることによって、その癒しの力を神の高みにまで育てることができることでしょう。』
わたしは何も答えられず、ただアハティス、彼女を見ていることしか出来ませんでした。
そして、彼女はわたしを見て微笑むとその場から消えました。
そのときには、もう一人居たはずの白銀色の髪の女性も消えていました。
それから、勇者タカオはわたしの前に姿を見せることはありませんでした。
よほど勇者の力を消されることが怖かったのだと思います。
それが女神アハティス。
彼女とわたしが初めてあった遠い記憶です。
わたしはその時から、創造神と女神アハティスの神官として祈りを捧げるようになりました。
そして、わたしが寿命を迎えたときのことです。
わたしは寿命を全うするときに、世界を癒しました。
その力が認められ、わたしの魂は輪廻の輪に乗らず創造神の元へと旅立ちました。
そしてわたしはそこで彼女に再会し、彼女の供となることができました。




