第10話 魔神の魔法
下界の情報は、神龍カルミルアの眷属である竜種が持ち帰り、私達の元へ届けてくれる。
それはあの事件があった後も変わっていない。
それどころか、事件後の方が、それ以前と比べて竜種は勤勉になった。
でも私がその気配を感じたのは、たまたま天空城から私を祭っている創造神教国を覗いているときだった。
たまたまよ?本当にたまたま覗いただけなのよ?
暇さえあれば覗いたりしてないわよ?
自分を崇めてくれるのがうれしくて、毎日のように覗いてなんかいないわよ?
いいとこ年に1回……いえ、年に数回だけよ?
本当よ?
創造神教国は隣接する帝国や小国へ同時に攻め入った。
戦争を起こす理由など千差万別であり、今回も私利私欲で攻め込んだのでしょうね。
と私は思っていた。
そしてそこに住まう人を捕らえて隷属させ、自分を上位者として君臨するのかと思っていた。
ところが現実は違っていた。
創造神教国は、戦争に勝利すると降伏した兵士だけではなくそこに住む人のすべてを捕らえ、私への供物として殺して行った。
私への供物で人間族が人間族を殺す?
そのような話を私は知らない。
そのような天啓を与えたことなど無い。
もちろん他の誰もそんな天啓など与えていない。
それなのに必ず、
「アハティス様がお望みだ。
お前の命をアハティス様に捧げられることを幸運と思え。」
と言ってその首を刎ねている。
私はそんなことを望んだことなどない。
今も望んでいない。
未だ数が少ない人族の数を減らすことを私が望むはずがない。
私がその気配に気付いたのは、創造神教国が帝国の四分の一ほどまで攻め込み、小国方面では三つの小国が消滅してからだった。
兵と兵のぶつかり合いのとき、創造神教国の兵隊の強さに驚いた。
兵隊は強力な魔法を使い、さらには鉄の剣で魔法を切り裂いていた。
それを始めて見たとき、創造神教国において魔法の昇華と技の昇華が偶然にも重なり、より強い力を持つことができたのかと思った。
だから力を得た教主が大陸の統一に乗り出したのかと思った。
やっぱり現実は違っていた。
教主自らが最前線に立ち戦闘鼓舞の魔法を使い、士気高揚と攻撃力増強、守備力増強を行っていた。
教主自らが発動した魔法はかなり強力な魔法であり、普通であれば自らの命を削る程の力を使う魔法である。
教主はそれを毎日のように何度も使っていた。
教主の魔力の強さに明らかな違和感を覚えた私は、戦場を良く観察することにした。
そしておかしな点に気付いた。
本来、戦闘鼓舞の魔法は、士気高揚し攻守を増強する魔法でしかない。
それなのに、片腕を落とされた兵士の士気が下がらず、残された片腕でも悪鬼のように武器を振るう。
足に重症を負い歩けない兵士であっても、匍匐前進しながらでも敵に向かって行く。
それどころか短剣が体に刺さった状態で戦い続ける者がおり、すぐに手当てすれば助かったかも知れない命だったのに、戦闘中にその者の命のともし火を消していた。
どんなに怪我を負っても敵への憎悪を持ち、自らの感情からは死への恐怖が無くなる。
士気をあげるなんてものではない。
死を恐れない状態にする精神魔法。
確かに教主が使う魔法は戦闘鼓舞の魔法だった。
私に祈り世界に満ちている魔素を集め、それを用いる魔法。
その仲間を強化する戦闘鼓舞の魔法を広域化して使っているのかと思っていた。
その広域化のために使っているであろうと思っていた彼の首に下げられた紫色の魔法発動珠。
戦闘鼓舞の魔法を吸い上げそこから発動し広域化しているのかと思っていたけど、そうではなかった。
世界に漂う魔素に包まれていたから気付くのが遅れた。
私は知っていた。
あの力を。
力の中央にあるのは……そうあれは魔神の力。
知識と知恵を司る女神マクロシア。
そのシアの父を魔王として母に敵対させた他の世界の創造神……の力だ。
悪意ある精神系統魔法。
私を魔神として崇め忠誠を誓うことで恐怖と言う感情を捨て去り心を操る魔法。
そして戦闘後には、かけられた者は心が抜け殻となる魔法。
命を奪わない限り、何度も上書きして掛けることはできるから兵は消耗品ではないのかもしれないけれど、命を育む私の世界には即さない魔法。
私は、私達はそのような魔法をこの世界には存在させていない。




