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閑話3 魔神の足音

自分達よりもはるかに強い存在である竜族が一柱の神により瞬殺されたあの日、人々は現界した神の名を聞いた。

創造神アハティスと。

だが、破壊された大地と殺戮とも言える竜の屍を眼にした人々は、その力に驚き、いや畏怖を覚え、破壊と殺戮の女神と言う二つ名に加え、新たな二つ名を彼女に与えた。

それが浄化の女神と言うものである。


それは彼女の使徒として教会を立ち上げた創造神教の教主が唱え始めた「絶対王者として君臨していた竜族に対し破壊と殺戮を行い浄化することによって、この世界を人間族に住み良い世界へと創造してくださった」と言う教えから生まれたものであり、神罰が下ったその年を神暦元年とし、時代を数え始めた。


魔素に包まれたこの世界において、科学の発展はほとんど無く人々の生活を魔法が支えていた。

そのため、魔法に影響する神の存在は大きく、人族が生み出され六千五百年余り。

アハティスが現界してからちょうど千年。

神暦千年を迎えてもなお、破壊と殺戮の女神、浄化の女神と言う二つ名は消えることなく残り続けていた。


この時代は、海を行く船も大陸周辺を回る小船がせいぜいと言った時代であり、大陸間の移動などできるものではなかった。

それどころが、自分達の暮らす大陸だけが世界のすべてだと思っているものがほとんどと言う時代である。

そのためそれぞれの大陸では独自の文化が生まれ繁栄し廃れていくと言うことが幾度か繰り返されていた。


天空城となった台地があった場所、現在は氷山大陸がある場所を世界の中央として見ると、世界の北東に人族が多く暮らす大陸がある。

天空城から見れば、人が荷物を手に抱きかかえているように見える大陸であるが、その地に住まう者は、その全貌を知らない。

その大陸では、北東部を中心に大陸の約三分の一を一つの帝国が支配し、その南側には帝国と同等規模の創造神教国があり、にらみ合いを続けていた。

大陸の西側は、東側と巨大な山脈によって分断され、十を超える小国が乱立する地となっていた。


創造神教国、国主である現教主は、ベットから起き出すとすぐに毎朝の日課となる創造神である浄化の女神アハティスへの祈りをささげていた。


その時、彼の頭の中に声が響いた。


「敬虔なる我の信者である者よ。

 そなたに力を与えようぞ。

 今以上に我を称えよ。

 さすれば力を与えようぞ。

 力の代償を我に捧げよ。

 さすれば新たな力を与えようぞ。」


教主は涙した。

神が答えてくれたことに涙した。


力を与えられ、その代償を捧げると言う事は、敵国である帝国を討て。

そしてその命を、帝国民の命を捧げろとの神託であると教主は考えた。


それに力を与えると言われが、どのような力をどうやって与えられるのかと教主は疑問に思った。


そう思っていたのもつかの間、教主の眼の前の空間が音も無く割れた。

そしてそこから紫色の珠が現れ、教主の目の前に浮かんで止まった。

教主が両の手を出すと、珠はその手に吸い込まれるように動き、手の平の上に落ちた。


教主は、その珠の輝きに目を見張った。

美しい紫色に輝く珠。

教主はその魔力を感じた。

その力を感じ取った。

禍々しさを感じ取ったが教主はその珠を手から離す事は無かった。


教主は珠を目の前に持ってくると、その中に何かがあることを知っているかのように、珠の中を覗き込んだ。


教主の目には紫色の奥に赤い炎のように揺らめく何かが映っていた。

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