新しい出会い 序
桐太とニーズヘッグの出会いから1週間が過ぎた。
ニーズヘッグは今も我が物顔で桐太の家に住み着いている。もっとも、お人好しの桐太がニーズヘッグを追い出せるはずもないのだが。
ニーズヘッグの食欲は桐太の財布を圧迫しているが、初日よりはだいぶマシになっているので桐太もどうにかやっていけている。それでも常人で言うところの5人前は平気で平らげているのだが。
今はどうにかなっているが、決壊することは目に見えている。
そうならないために何か解決策を見出すべく、桐太は大学の図書室へとやってきていた。
「龍、ドラゴン、……この辺りか?」
解決策になるかはわからないが、ニーズヘッグ自身のことをもう少し知りたいと、伝承の載った本を探す桐太。
ニーズヘッグは自らを邪龍だと言っていた。証拠になるようなものは特別なかったが、化け物であることは疑う余地もない。桐太は、ニーズヘッグが目の前でオーブントースターを食べているところを見ていたのだから。
何冊かの本を見つけ、ページをパラパラと捲る。ニーズヘッグ、ニーズホッグ、ニーズヘグ、など様々な呼び方があることと、神話上の生物だということがわかる。
「……神話上の生物のことを調べて、家計の圧迫の解消なんてわかるはずもないよなぁ……」
「へぇ、珍しいチョイスをしてるね」
桐太が声に驚き振り向くと、1人の女性が立っていた。日本人らしい黒髪を肩口で切りそろえた美人だ。
桐太は彼女のことを知っていた。いや、知っているだけであれば、彼女のことを知っている人間は日本中にいるだろう。
「この本より、貴女が登校してる方が珍しいですけどね。小林先輩」
「言ってくれるなよ。私だって、忙しくないときはちゃぁんと登校しているさ」
「今日はモデルの仕事は忙しくない、と?」
小林かさねは雑誌のモデルだ。有名なファッション誌『dólce』の専属モデルであり、高校生や大学生に絶大な人気を誇っている。整った顔立ちに加え、出るところは出ているモデル体型。すれ違えば誰もが振り返る美人さんだ。
桐太は彼女とちょっとした縁で知り合い、今では世間話をするぐらいには仲はいい。
「そう、それなんだが聞いておくれよ桐太少年」
「俺もう20だし少年って年齢じゃないんすけど」
「まぁ、そう言うな。今日は本当は撮影だったんだがね? 2人での撮影なのに、相方の子が季節外れのインフルエンザになってしまってね。数日スケジュールに空きができてしまったのだよ」
それは災難だなと桐太は思った。かさねではなく、インフルエンザになった名も知らない子のことを思ってだが。
「どこかに美少女でもいれば代役を頼んでもいいのだけどね。そんなほいほいと現れるわけでもないし、たまの休日を謳歌しようと思ってね」
「大学は休日を謳歌しに来る場所じゃないですけどね」
「大学にも友人はいるし、桐太少年と話すのも、私は好きだよ? 君は私を人気モデルという眼鏡では見てこないからね。そう言う時間も、私にとっては休日さ」
実際のところ、桐太はかさね本人に出会うまで『モデル小林かさね』を知らなかったし、知った後も特に興味は湧かなかったのだ。そのせいで妙に気に入られてしまっているのだが。
桐太はかさねと他愛ない話をしながら、ふと考えた。
「どこかに美少女でもいれば代役を頼んでもいい」
確かにかさねはこう言った。
これは、今の桐太の財布事情をどうにかできるのではないか。そう考えた桐太はかさねに質問を投げかける。
「小林先輩、さっきモデルの代役の話がありましたけど」
「ああ、したね。……いや、桐太少年じゃさすがに無理だと思うよ?」
「いや、俺はしないけど……。それって給料なんかもでますかね?」
「それはもちろん出るよ。仕事だから当然だよ。でも、私のお眼鏡に叶う美少女じゃないと」
桐太は自分でも気がつかなかったが、きっと悪い顔をしているだろう。そんな顔のまま、かさねにこう言った。
「多分小林先輩のお眼鏡に叶う美少女、紹介できますよ」