そして青年はオカンへと至る
「いやー、食べた食べた! 『味わう』というのはなかなかに面白いものだな!」
「そりゃどうも……」
「本当はまだ食べたりないんだけどな」
「まだ食べられるのか……」
最初にカレーを出してから1時間ぐらいだろうか。その1時間で、ニーズヘッグは桐太の家にある食料を全て平らげてしまった。
最初はレトルトの非常食を主に出していたのだが、それがなくなってもまだお代わりを要求するニーズヘッグに、桐太は律儀に冷凍のご飯でチャーハンを作ったりと色々出し尽くし、材料がなくなったところで土下座で「勘弁してください」と謝り今に至るのだった。
食べ終わると今度は桐太よりも先にベットに横になったニーズヘッグは、そのまま眠り出してしまった。
ニーズヘッグは桐太に渡されたパーカー1枚しか着ていないので、チラチラと見えてはいけないところが見えそうになってしまう。
それが居た堪れなかった桐太は、起こすこともなく後片付けを始めるのだった。
食器を洗い終え、その間に風呂の用意をしていた桐太は、ニーズヘッグの様子をちらりと見る。
スヤスヤと寝息をたてる彼女を見て、よくよく見れば泥やなんかで布団が汚れてしまっているのを見ると、深いため息をついてから諦めて風呂に入ることにした。
桐太は湯船に浸かり、疲れを癒しながら頭の中であれこれと考える。
(汚れた布団カバーを洗濯して、それから食料の補充だなぁ……。なかなか手痛い出費だなぁ……)
ため息をつきながら、1度湯船から出ようと立ち上がった時にそれは起こった。
耳をすましてみると脱衣所の方からドタバタと音がする。
何事かと思って風呂場のドアを開けようとした時にはもう遅かった。
「貴様だけ水浴びとはずるいではないか!」
ばん! とドアを勢いよく開け、ニーズヘッグが風呂場に侵入して来る。
全体的に白っぽく、スレンダーな肢体を惜しげもなく見せつけてニーズヘッグはやってきた。
「ちょぉ!? なんで入って来るんだよ!」
桐太はドアとは反対側を向き、身を隠すように湯船へと入る。
「まぁまぁ、よいではないか。貴様ばっかりいい思いをしよって」
そう言ったニーズヘッグの後ろには、どうやって脱いだのか、ビリビリに破られた桐太の上着がそこにあった。
桐太がため息をついたことなどいざ知らず。ニーズヘッグは真っ直ぐに湯船へと近づきその足を入れようとして……
「待って」
「え?」
「そのまま入る気? その汚いままで? 先に身体洗うべきじゃないの?」
「え、その」
「いいからそこに座って。早く」
「あ、はい」
言われるがままに椅子に座らされ、身体を洗われるニーズヘッグ。
一方で、無心でニーズヘッグの身体を洗う桐太。
桐太のお人好しが、オカン属性にまで成長を遂げた瞬間であった。