それは、運命の出会いだった
九重桐太は夜遅くだというのに、オーブントースターを抱えフラフラと歩いていた。
連日のバイトで体力が限界だと言うのに、いざ家に帰って簡単に食事を作ろうと思ったら肝心のオーブントースターが壊れてしまったのである。
それ自体はまぁまだいい。桐太本人もそろそろ替え時だと思っていたから、「あぁ、とうとう逝ったか……」と思った程度だ。
しかし、タイミングが悪かった。
粗大ゴミの回収は明日の朝である。明日の朝に出せばいいのかもしれないが、今の体調で明日の朝に起きれる気が、桐太は全くと言っていいほどしなかった。
なので仕方がなくこんな時間にゴミ捨て場まで歩いているわけなのだが。
「はぁ……もうダメ。疲れた。帰って寝たい」
ブツブツと呟きながら歩く桐太。側からみれば不気味に見えたかもしれないが、幸いにもこの道は人の通りがほとんどない。それこそ、桐太のように粗大ゴミを捨てにくる人しかやってこない。
もうそろそろでゴミ捨て場にたどり着くと思ったが、何やら様子がおかしいことに気がつく。
普通、明日が回収日であればこの時間にゴミが多くあってもおかしくないはずだ。少なくても、全くないということは桐太の記憶にはなかった。
そうだと言うのに、目の前のゴミ捨て場にはゴミが1つもなかった。
ゴミがないだけであれば、そういう日があってもまぁおかしくはないだろう。
ただ、本来ゴミが捨ててある場所に裸の美少女が横たわっていたのであれば話は変わってくる。
「へ……? え……?」
裸がどうとか、そういうことを思う前に、まず理解不能だった。
思わず手に抱えていたオーブントースターをその場に落としてしまう。ガシャン! と大きな音がなり、横たわっていた美少女が起き上がる。
「くあ……、よく寝た。……あ」
桐太の目の前で起きた少女から、きゅるるとかわいらしくお腹が鳴る。
少女はキョロキョロと辺りを見回すと、桐太が落としたオーブントースターに目を向ける。
「あの、そんなところで寝てだいじょ」
「それは食べていいのか?」
桐太が心配の言葉をかけるよりも先に、少女が口を開く。
「へっ? いや、これは食べ物じゃ……」
ただ、その言葉の意味を、桐太は理解ができなかった。言葉の意味を理解するよりも先に、信じられない光景を見ることになる。
桐太の返事を無視して少女がオーブントースターを掴むと、口をその小顔に似合わないほどに、というよりも人間ではありえないほどに大口を開けて、ガリガリと、かじりつく。
少女が咀嚼するたびに、まるでトンカチで機械を叩き壊すような、そんな音が聞こえてくる。
そう時間も経たないうちに、ごくんと、オーブントースターは少女の腹の中へと消えてしまった。
桐太は目の前の光景が信じられなかった。そして、だんだんと恐怖を覚えてくる。
目の前のそれは人間じゃない。化け物だ。
今は持っていたオーブントースターを食べていたが、もしかしたら自分も食べられてしまうんじゃないだろうか。
そんな思いが桐太の全身を支配する。
そして、少女は口を開く。
「……足りない」
先ほどと変わらず、いや、中途半端に腹に入れた分余計に腹が空いたのかもしれない。きゅるるるるとお腹の音が鳴り響く。その音はかわいらしかったが、桐太には死刑宣告のように聞こえた。
少女、ニーズヘッグは考える。
目の前には人間が1人いるが、そんなものじゃ全く足りない。
けれど、この空腹感はどうにも抑えようがなかった。
よりたくさん食べるために、空腹感を埋めるために。ニーズヘッグは思ったことを口にする。
「もっと食べたいんだけれど、どこにいけばいい?」
どうやら、桐太の命はひとまず助かったらしい。