暴食の邪龍が満たされるには
その日の夜、ニーズヘッグと桐太は2人で同じベッドに眠っていた。
普段は別々に寝ているのだけれど、今日はニーズヘッグがこうしたいということで桐太も仕方なしに了承した。
「桐太、まだ起きてるか……?」
「……ん、起きてるよ」
桐太はニーズヘッグに背を向けたまま答える。ニーズヘッグの方を向いたままだと、緊張で眠れなかったからだ。それでも、もぞもぞと動くニーズヘッグの足が当たったりして全然眠れなかったのだけれど。
ニーズヘッグの方も自分から言いだしたはいいものの、なんだか眠れなくなってしまっていた。こちらも桐太の方は向いてはおらず、窓の方を向いて横になっている。
「なんだ、その……すまないな」
「なにがだ?」
お互いの顔が見えないまま話をする。見えてないはずなのに、なんとなく、お互いの表情がわかるような気がする。
ニーズヘッグは今、困ったような顔をしているに違いないと桐太は思っている。
「ファフニール達が来たこと……いや、もっと言えば我が来たことか」
「そんなことは……」
ない。と言い切れないのが桐太の残念なところだった。まぁ、実際問題としてニーズヘッグはかなり迷惑をかけているので、桐太の反応も仕方がないのかもしれない。
桐太は一度止めた言葉を、もう一度続けていく。
「そんなことは、ないとは言い切れないけれど、でも、ニーズが来たことは、ニーズを見つけたのが俺でよかったと思ってるよ」
桐太は頬をぽりぽりと掻きながらそんなことを言う。
ニーズヘッグはくるりと反対側を向き、桐太の背中に抱きついた。
「我も、最初に会ったのがとーたでよかった。ありがとう。我に色々なものを教えてくれて、ありがとう」
ぎゅうと抱きついたニーズヘッグの感触が桐太に伝わる。
いくら邪龍と言っても、今のニーズヘッグはどこからどう見ても只の女の子だ。シャンプーのせいかいい匂いと、柔らかい感触が伝わり、桐太の心臓がばくばくと鳴っていく。
しかしふと見てみると、身体に巻き付いたニーズヘッグの細腕が震えているようだった。ニーズヘッグも勇気を出してこんな行動を取っているのだろう。
「俺のほうこそありがとう。今の生活はなんだかんだで楽しいけど、それはニーズヘッグのおかげだ。だから、ありがとう」
そう言って震えるニーズヘッグの手に自分の手を重ねる。
そんな単純なことでニーズヘッグの緊張はほぐれ、人肌の暖かさでだんだんと眠たくなり、桐太に抱きついたままニーズヘッグは眠ってしまった。
一方の桐太は抱きつかれたのが気になってしまい、なかなか眠れないのだった。
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それからのことは、特に特筆するべきことはないだろう。
ただ、邪龍と人間という種族の違う2人がどうなったのか。
きっと困難が待ち受けているだろう。苦難が待ち受けているだろう。
けれども、2人で協力すれば、それも乗り越えられる。
「とーた! 早くいくぞ!」
「待てっての。……っしょっと」
「ふふっ、お弁当、楽しみだのう」
「お前はそればっかりだな……みんなで花見だってのに」
そうすればきっと、楽しい日々が続いていくから。
だから、これからもあなたのそばに。
そうすれば、私の思いは満たされるから。




