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ニーズヘッグの気持ち、桐太の思い


  あくる日。ニーズヘッグが目を覚ますと、桐太はすでに起きていて朝食を作っていた。

  何時もと変わらない風景。じゅうじゅうと焼ける卵の音。くつくつと沸くスープの匂い。それを作る桐太の姿。


  ああ、いつも通りだ。


  ニーズヘッグはそんなことを思う。昨日、あれだけ騒がしかったからどこかこんな日常は戻ってこないんじゃないかと思っていたんだろうか。

  日常の風景をただただ立ち尽くして見ていると、ふと桐太が振り返る。


「……おはよう。ってずっと見てたのか?」

「おはよう。なんか、そういう気分でな」


  にししと笑ってニーズヘッグはテーブルの前へと座る。すぐに桐太がカップを目の前に置く。


「ん、コーヒーでよかったか?」

「んむ、砂糖とミルクは」

「そのぐらい自分で出せ」


  桐太はそう言うとキッチンへと戻っていく。追いかけるようにニーズヘッグも立ち上がり、砂糖とミルクを用意してテーブルへと戻る。

  ずずずとコーヒーを飲んでいると、皿を持って桐太がやって来た。


「ほい、おまたせ」

「んむ、今日もうまそうじゃ」


  いただきます、といつものように挨拶をし皿へと手を伸ばす。もちろん、フォークを使ってだ。

  ニーズヘッグが来た当初から比べると、何倍も進歩していると言っていいだろう。なにせ最初は皿を出せば皿ごと飲み込み、手掴みは当たり前という状況だったのだから。

  本当にいつも通りで、和やかな朝食だった。

  そして、それだけで何もなく。そのまま3日間が過ぎていった。

  その間、桐太もニーズヘッグも例の話はしなかった。

  かさねが心配して来てくれたり、タラスクが普通に遊びに来たりして賑やかではあったけれど、それでも込み入った話にはならなかった。避けていたのかもしれない。

  けれども、それももう終わってしまう。


「そろそろ答えは出たのかしら」


  夜、またしても窓からやって来たファフニールは窓枠に腰掛けてニーズヘッグと桐太に問う。いつの間にかファフニールの足元にツィルニトラも眠っていた。


「邪魔するぜ、ってファフニールがもういやがる」

「いちゃ悪いのかしら」

「別に」


  当然のようにやって来たタラスクとファフニールが、早速口喧嘩を始めてしまう。

  けれどそれもすぐに終わり、全員が桐太とニーズヘッグを試すような視線を向ける。


「我は」

「俺は」


  発言が重なって、お互いに言うのを止めてしまう。

  ファフニールがため息をつき、桐太に先に話すように促す。


「俺は、ニーズと一緒にいたい……と思う。この後どうなるとか、俺がいなくなったらどうなるか、なんてまだわからないけれど、俺は今の生活が気に入ってるんだ。ニーズと一緒に暮らすこの生活が。だから、今は一緒にいたいと思う」

「ふぅん。それが坊やの解答なわけね」


  ファフニールは桐太の答えを聞き怪しく笑う。他の面々は黙ったままだ。


「それで?  ニーズヘッグはどうしたいの?」

「我は……」


  ニーズヘッグは大きく息を吸い込み、深呼吸をしてから、ファフニールの方を向いて話し始める。


「我も、この世界にいたいぞ!  この世界の料理は美味しいし、モデルの仕事も楽しいし、とーたやかさね、商店街の人や事務所の人たち、いろんな人に出会えて、今我はとても楽しいのだ!  だから、先のことはわからなくても、この世界にいたいのだ!」


  ニーズヘッグは力強く主張する。

  それを聞いたタラスクは大笑いをして桐太とニーズヘッグの間にやってくる。


「はっはっは!  俺はこいつら側につくぜ!  いい覚悟だったじゃねぇか!」


  2人の肩を抱き寄せて大声を出すタラスクに、桐太は耳を塞ぎ、ニーズヘッグは心底うざそうな顔をしている。

  そんな様子を、ファフニールは肩を竦めたようにして見ていた。


「こいつら側も何も、私だって……いいえ、私はニーズヘッグ側ね。彼がどうなろうとも、私には関係ないもの」

「お前は昔からそうだよな……わかりずらいって言うか……」


  まるで仲のいい姉弟のように口喧嘩を始めた2龍に、ぽかんとしてしまうニーズヘッグと桐太。

  そんな2人に話しかける声がする。


「あれはいつものこと。ほっといていい」

「えっ!?  誰!?」

「今のはツィル……あそこで寝てる龍だからっ」


  その後もドタバタとして、収集がついたのは数十分経ってからのことだった。


「とにかくっ、私もツィルニトラもニーズヘッグがここに残ることに反対はしてないわよ。ただ、心配だったというか……」


  ごにょごにょと話すファフニールの姿に、桐太はどこか安心する。

  その様子は、どう見ても妹の心配をする姉にしか見えなかったからだ。


「けど!  あなたのことを認めた訳ではなくてよ!  ニーズヘッグを泣かせるようなことをしたら承知しないんだからね!」


  だいぶ心配性の姉であるようだけれど。


「わかった。ニーズヘッグを泣かせたりなんかしない」


  わかればいいのよ、何て言いながらそっぽを向くファフニール。それを見て笑い転げるタラスク。我関せずと眠ったままのツィルニトラ。

  3匹の邪龍達は、しばらく話した後に帰っていくのだった。


「あ、私たちもしばらくこの世界にいるから、何かあったら呼びなさいね」


  ちょっとした爆弾を残しながら。

 

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