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自己紹介


「さて、と」


  桐太はお茶を配り終えると、そんな声をあげた。1人寝ているが、ここにいる全員分、5人分用意した。

  ここにいるのは龍、それも邪龍が4人、1人は正体がわからないが、邪龍であるファフニールが連れて来ているのだ。おそらく邪龍だろうと桐太は踏んでいる。がっはっはとタラスクが大音量で笑っているのにも関わらず、スヤスヤと眠っていた。

  そんな4匹の龍と人間1人でテーブルを囲っている。桐太の真横にニーズヘッグ。右向いにタラスク。左向いにファフニール。正面には横になっていて見えないが、最後の1匹がこの状況でもまだ寝ていた。


「とりあえず、自己紹介をしましょう」

「自己紹介、ですか」

「そう、自己紹介。お互いの名前も知らないのに、話も何も進まないでしょう?」


  黒いドレスの邪龍、ファフニールがそう言う。

  名前だけはなんだかんだでわかってはいるのだが、桐太としてもそうしてもらえるとありがたいので、無言で頷いた。


「私はファフニール。強欲のファフニールですわ。よろしくお願い致しますわ」

「強欲……」


  強欲。一般的には金銀財宝といったものに対する物欲に使われる言葉だ。

  そしてファフニールという龍の話は、かさねから聞いていた。


『ニーズヘッグという神話上の龍がいるのだから、他の龍がいてもおかしくはない。

  それにニーズヘッグは自身を暴食の邪龍だと言っていた。暴食というのは7つの大罪の1つだ。暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、嫉妬、強欲。人間の醜い部分を指して大罪と呼んだわけだ。

  ニーズちゃんはタラスクという色欲の邪龍がいると言った。ともすれば、他の大罪の邪龍がいてもおかしくない。

  さすがに他の龍が何かなんて私にはわからないが、強欲の邪龍は予想がつく。ファフニールという、黒い、蛇のような龍だよ』


  なるほど、確かに黒い。胸元の大きく開いたドレスは妖艶で、その視線はまるで蛇のように嫌らしくまとわりつくようだ。テーブルに前のめりになり、そのはち切れんばかりの胸元を惜しげもなく強調してくる。

  いろんな意味で黒いなぁ、などと桐太は考える。


「ふふっ……」

「ええぃ!  とーた!  あまりあの雌蛇のことを見るな!」

「わ、わかってるってニーズ」


  ポカポカと桐太の腕を叩くニーズヘッグ。

  その様子に、ファフニールは驚き、タラスクは笑っていた。


「んじゃあ、次は俺か?  俺はタラスク。色欲のタラスクだ。好物はガキと処女!  よろしくな!」


  白く健康的な歯をニカッと出し、いい笑顔で桐太の方を向くライダースーツの男。見た目の印象とは裏腹に最低の自己紹介だった。


「うわ……」

「きも……」

「引きますわ……」


  ドン引きだった。何も知らなかった桐太だけならず、顔馴染みであるはずのニーズヘッグやファフニールまで引いていた。


「ひっどくねぇ!?  しょうがねぇだろうよ、そういう化け物なんだからよ」

「『そういう化け物』って、どういうことだ?」


  まるで他人事のように言うタラスクに、桐太は疑問を覚える。

  タラスクは、それこそ本当に他人事のように答え始める。


「気が付いた時には『こう』だったからな。俺もニーズヘッグも、ファフニールやそこで寝てるツィルニトラもそうだ。俺たちは生まれてからちゃんと自我を持つまで、本能のままに生きて来た。俺は女を食うことしか考えなかったし、ニーズヘッグもそうだろう?」


  ニーズヘッグはこくこくと頷いている。ファフニールも同様だ。


「補足すると、自我を持つまで、なんてタラスクは言うけれど自我を持ってからもほとんど変わらずに生きているわね。ニーズヘッグはありとあらゆるものを食べつくしていたし、タラスクも女子どもを食い散らかしていたでしょう?」

「そういうお前も宝石だの本だの執拗に集めていただろ。むしろ自我を持ってからの方が、人に化けてより狡猾に集めていなかったか?」


  そう言ったタラスクに、ファフニールが余計なことを言うなと睨む。「おぉ怖い怖い」なんてタラスクはおどけてみせる。


「とにかく、私たち邪龍はそれぞれの欲望から生まれた化け物。その子の暴食の欲望を、あなたは満たすことができまして?」

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