襲来 2
「だっはっは! なんだこの飲みもんうめぇなぁ!」
「……耳がいたい」
馬鹿みたいに笑いながら、グビグビとお茶を飲み干すタラスク。無理やり横に座らされたニーズヘッグは、それはもう不機嫌であるし、桐太は訳もわからずハラハラだった。
とりあえずニーズヘッグの機嫌をどうにかしようと、取っておいていた茶菓子を出すと。
「おお!? こんなもんまであんのか! いやぁなんか悪いなぁ!」
と言ってタラスクが全て食べつくしてしまう。ニーズヘッグはますます不機嫌だ。
もうこうなってしまっては桐太にはどうしようもなかった。
「……もう我慢ならん。タラスク! 表にでろぉ! 我が直々にお前を貪り喰らってくれるわ!」
「ほぉ……? いい度胸じゃねぇかぁ、ニーズヘッグぅ……! てめぇのその落ちぶれた魔力で俺に勝てるだなんて思うなよ? あぁ!?」
「貴様ごとき喰らうのに魔力なんぞいらんわ! せいぜい甲羅を蒸し焼きにするのに火魔法が使えれば十分だ!」
ビリビリと、まるで肌が焼けるような感覚が桐太を襲う。
目の前にいるのは中学生ぐらいの少女と、ライダースーツの大男だ。変な取り合わせだが、親戚が集まったなどと考えれば全くおかしいというわけでもない。
しかし、彼らの発する殺気だろうか。それが桐太にもビリビリと伝わってくる。実際には彼女らが放っているのは魔力なのだが。
桐太の世界には魔力はほとんどない。
それは全くないわけではないが、魔法を使うのには全く足りない微細な量だ。それ故に、この世界の人間が魔力を感じることなどほとんどない。
だというのに、目の前の2人が発する魔力に、桐太は気圧されていた。桐太はそれを魔力だと認識はしていなかった。けれども、それはまるで殺気のように桐太に突き刺さる。
チリチリと肌が焼けるように。汗が吹き出し、喉が乾く。目を離せば殺されるのではないかと。
この頃は忘れていたが、ニーズヘッグはやはり化け物なのだと、桐太は再認識をする。
「ほら、そこまでになさい」
不意に。第3者の声がする。
がくりと大男、タラスクがその場に倒れる。
ニーズヘッグもふらりと倒れてーー
「っ! 危ない!」
テーブルにぶつけそうになるのを、間一髪で抱きかかえて阻止することに成功する桐太。
「あら、いい男じゃない。欲しくなっちゃうわ」
いつの間にか、窓辺に佇む黒いドレスの女がいた。いや、ドレスの女だけではなく、もう1人、ネグリジェを着た女がドレスの女の足元に転がっていた。
ドレスの女は桐太をジロジロと舐めるように見回す。桐太はゴクリと息を飲む。
「あぁ、緊張しないでいいわ。私たちはニーズヘッグを回収したら帰るから」
「どういうことだよ……?」
突然の出来事に、桐太はひどく混乱していた。




