襲来
ある日、桐太が晩御飯を作り、ニーズヘッグがテレビを見ながらごろごろとしているいつもの日常。
そんな日常に似つかわしくない、ドタドタとした音と、ガラの悪そうな笑い声が聞こえてくる。閑静な住宅街にこの喧騒はうるさく目立って仕方がない。
「なんだ……騒々しい」
「暴走族とかヤンキーでもいるのかな……この辺じゃそんなのいないはずなんだけど」
「うるさいのう……」
桐太も手を止めて耳を澄ましてみる。すると、その声がだんだんと近づいてきているような、そんな気がしてきた。
声が大きくなったと思ったら、ピンポンとチャイムがなる。声の主は玄関のドアを挟んですぐそばにいるらしい。少し様子を伺って見ていれば、今度はダンダンとノックをする音まで聞こえてきた。「誰もいねーのかぁ?」なんて声も聞こえる。
勧誘か詐欺か、訝しみながら桐太が対応をしようとすると、ニーズヘッグが桐太を制止させる。
「待て、とーたよ」
「待てって……お客さんだろ。いや客か?……とにかく、さすがに出ないわけには」
「いや、我が出る」
「え、ちょっと」
ニーズヘッグの意外な提案に桐太は驚いた。
面倒臭がりなニーズヘッグが来客の対応をするなんて本当に珍しかったからだ。ここ最近は家事を手伝うようにもなったが、それでもほとんどやらないに等しいのだから、やはり珍しいのだ。
よっこらせ、なんて声を出して立ち上がり玄関へと向かうニーズヘッグを、桐太は後ろから見守っていた。
ガチャリ。
ドアを開けると、2mはありそうな大男が立っていた。金髪をオールバックで纏め、ライダースーツを身にまとった、どこか時代錯誤な大男だ。
「がっはっはっは! 僅かな魔力を辿ってきたが、俺が当たりを引いたようだぜ!」
「はぁ……どこかで感じたことのある魔力だと思ったらやはりお前か……タラスク」
「暴食のぉ! ひっさしぶりだぜぇ!」
「ええい! やめんか馬鹿者! それにきんじょめーわくじゃ!」
どうやら声の主はニーズヘッグの知り合いのようだった。今は玄関先でニーズヘッグを抱き上げてぐるぐると回っている。光景としては非常に微笑ましいのだが、玄関先でやるのはやめてほしいと桐太は思った。
そんな彼女らに桐太はおずおずと近づいていく。
「あの……とりあえず中に……」
「おお! そうだなそうだな! がっはっは、邪魔するぜぇ!」
「あ、ちょっと! 靴は脱いで!」
「いいから降ろせ馬鹿者ーー!」
どかどかと家の中へ入ってくるタラスクに、桐太とニーズヘッグの2人がかりで注意するのだった。




