ニーズヘッグの日常 2
「とまぁ、そんなことがあってな。今日は散々だったぞ。かさねの奴め……」
「いや、それはどう考えてもお前が悪い」
フォークとスプーンを巧みに使い、もぐもぐと食事をしつつ愚痴をこぼすニーズヘッグに、桐太は箸を動かしつつ返事をする。
今日のメニューは鯖の味噌煮など和食で揃えられているが、ニーズヘッグは未だに箸が使えないのでフォークとスプーンを使っている。
口の中いっぱいにものを詰めまるでリスのように口を動かすニーズヘッグは、その美少女の出で立ちも相まってとてもかわいらしいのだけれど、桐太は意見を変えることはなかった。
「遅刻したら怒られるに決まっているだろう。お前が悪い」
「そんなことばっかり言うな! もうたっぷり怒られたんだし良いではないか……」
ぷりぷりと怒りながらも、どこかしょんぼりとするニーズヘッグ。
怒られたのは堪えたのか、いつもは10杯はご飯をお代わりするのだけれど今日はまだ5杯しかお代わりをしていない。
そのしょげている様子に、桐太もそれ以上は言わなかった。
「ごちそうさまだ」
「もういいのか? まぁいいけど。じゃあ片付けてくるわ」
ニーズヘッグがあまり食べないのを気にしつつ、桐太は食器をまとめて台所に持っていく。
余ったご飯はどうしようか、なんだかんだ夜中にお腹が空いたと騒ぐんじゃないかな、おにぎりでも作っておくか。
何てことを考えながらスポンジに洗剤を垂らす。
ふと横を見ると、ニーズヘッグが立っていた。
「なんだ? やっぱり食べ足りなかったか?」
「そうじゃないっ。なんだ、よもや我が食べ物のことしか考えてないと思ってないか?」
「い、いや、そんなことはない。そんなことはないぞ」
ニーズヘッグがジトッと桐太の方を見る。桐太は慌てて否定するが、ニーズヘッグは信じていないようだった。
「まぁ我にも自覚はあるしな」
「あるんだ……、んで、本当は何の用だよ」
軽口を叩きあった後に、桐太は改めてニーズヘッグの要件を聞く。
「いや何、たまにはとーたの手伝いでもと思ってな、うむ」
「へぇ、珍しいなぁ」
珍しいというか初めてじゃないだろうか? と、桐太は思いながらも洗い終わった皿を拭くように頼む。
ニーズヘッグはわかったと、布巾を持って皿を拭き始めた。最初は皿を割るんじゃないかと心配していた桐太だったが、それは杞憂だった。
「へぇ、先輩にでも教えてもらったのか」
「うむ、我は事務所では新人なのでな。コーヒーカップを洗ったりしなくてはいけないのだ」
「厳しい世界だねぇ」
ジャージャーと水の流れる音と、キュッキュッと布巾の擦れる音。それ以上会話も特になく、洗い物は次第になくなっていく。
「っと、これで終わりか。サンキューなニーズ。おかげで早く終わった」
「なんてことはないな。これからはたまに手伝ってもよいぞ」
「いや、そこは毎日手伝えよ居候」
桐太の呆れた声だけが虚しく響くのだった。




