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買い物に行こう  1


「……先輩、気まずいんで帰っていいですか」

「これも自分の怠惰が起こしたことだよ。つまるところ、我慢しろ、ということさ」


  総合商業施設のベンチの一角に、桐太は座っていた。それを見下すように、目の前にかさねが立っている。

  ニーズヘッグはこの場にはいない。正確には、ある店内に入っているからこのベンチの付近にはいないというだけだ。

  桐太達は今買い物へとやってきていた。というのも、ニーズヘッグの服はおろか下着すらないことがかさねにばれて、見かねたかさねが無理やり連れ出したからだ。


「多分まだかかるから、桐太少年はもうしばらくは休めるよ」

「それはなによりです」


  桐太は肩をすくめて返事をする。

  じゃあ戻るよ、と言い残してかさねはその場を後にする。


「とはいえ、目の前が『あれ』じゃあ落ち使いな……」


  テナントのひらけた入り口に、パステルカラーの煌びやかな布地が大量に展示されている。レースやリボンもあしらえられたそれは、男には到底縁のないものだ。

  下着屋の前のベンチに腰掛け佇む桐太は、気まずそうに乾いた笑いをするだけだった。




「かさね……どこに行っていたのだ。我を置いていくなど……」

「桐太少年に待ってるように言ってくるって、言ってたはずなんだけどなぁ」


  ニーズヘッグはカーテンから顔だけを出してむくれさせていた。

  かさねが桐太のところへと行っている間、下着のサイズを計らせていたのだ。測った結果はすでに店員から教えてもらっている。


「まぁおおよそ予想はできていたけど。それより、『それ』、どう?」


  かさねは、見た感じでサイズは分かっていたので、測り始める前に似合いそうな下着を1着選んで渡しておいた。サイズがズレていたら合わせるように一言添えて。そしてどうやらそのサイズ当てクイズにかさねは正解したらしい。

  カーテンを開くと、白い肌にぴったりと、白い下着を身につけたニーズヘッグが立っていた。恥ずかしいのか、しきりに足をモジモジと動かしている。


「桐太少年には裸を見られているのに、私相手に下着姿が恥ずかしいのかい?」

「こういうものは慣れていないのだ。肌にぴっちりと張り付くし、胸は締め付けられるみたいだし、裸の方がましだ」


  からかいすぎたか、とかさねは思った。ニーズヘッグは相変わらず頬をむくれさせ、ぷんすか、なんて擬音でも出そうな様子で怒っている。


「ごめんごめん、ちゃんと似合ってるし、うん、誰もニーズのことを化け物だなんて思わないさ」


  かさねの言葉に、ニーズヘッグは複雑そうな顔をする。

  ニーズヘッグは自身のことを化け物だとはっきり理解している。元の姿であったならば、目の前のそれ(かさね)は餌でしかない。いや、大きさを考えれば餌にすらならないだろう。かさねを数100人食べたところで、ニーズヘッグの腹は膨れないのだ。

  そんなニーズヘッグのことを化け物だなんて思わないと言われても、ニーズヘッグはどうしようもなく化け物なのだ。

  ニーズヘッグの表情を見てかはわからないが、かさねはじゃんと別の下着を取り出した。


「ほらほら、その1着だけじゃなくて、こっちのも着てみようか」


  この後着替えること10回近く、ニーズヘッグは色とりどりの下着を取り替えるのだった。

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